声優・古川登志夫が味わった屈辱 『うる星やつら』で批判の嵐、窮地を救った高橋留美子さんの言葉

『うる星やつら』諸星あたる、『ワンピース』ポートガス・D・エース、『ドラゴンボール超』ピッコロなどの当たり役を持つ声優の古川登志夫(77)。現在は、俳優養成所「青二塾東京校」塾長を務め、後進の指導にも力を入れている。レジェンド俳優が過去にあった苦難を話してくれた。

後進の指導にも力を入れている古川登志夫【写真:ENCOUNT編集部】
後進の指導にも力を入れている古川登志夫【写真:ENCOUNT編集部】

ダンボール1箱の“批判”に「ひどく打ちのめされました」

『うる星やつら』諸星あたる、『ワンピース』ポートガス・D・エース、『ドラゴンボール超』ピッコロなどの当たり役を持つ声優の古川登志夫(77)。現在は、俳優養成所「青二塾東京校」塾長を務め、後進の指導にも力を入れている。レジェンド俳優が過去にあった苦難を話してくれた。(取材・文=平辻哲也)

誰もがアッと驚く夢のタッグ…キャプテン翼とアノ人気ゲームのコラボが実現

 文化放送でラジオドラマ番組『青山二丁目劇場』(月曜午後9時)のパーソナリティーを務める古川。2月5、12日には青二塾東京校の第44期生の卒塾制作となるラジオドラマ『CHOKHMAH(コクマー)』も放送される。そんな塾長にも、屈辱を味わった過去がある。フジテレビ『うる星やつら』(1981~86年)の諸星あたる、映画『ルパン三世 風魔一族の陰謀』(87年)のルパン三世だ。

「『うる星やつら』は保護者から『俗悪番組』とのご指摘も受けました。確かに今、見直すと、よく放送できたと思う回もあります。『僕の声が役に合っていない』という投書もダンボール箱1箱届いたこともありました。放送3回が終わった頃に、音響監督さんに呼ばれて、『声を変えられますか』と言われました。音響監督さんも『僕にも任命責任がある』とかばってくれたのですが……」

 当時SNSはなかったが、投書ダンボール1箱で100万人分の声があると言われていた時代だった。

「屈辱的でした。若かったから、ひどく打ちのめされました。これは、あと2、3回やったら、降ろされるなと思って、話を聞きながら、足がガクガク震えていました。もう仕事はなくなるな、これから、どうしようかと思いました」

 それを救ってくれたのは、原作者の高橋留美子さんの言葉だった。

「アニメ版の出来栄えをほめてくださって、とりわけ、諸星あたるの声がよかったよ、と言ってくださったんです。それから、ピタっとアンチの手紙も来なくなり、続投となったんです。原作のファンは、コミックスを読んでいるときから声のイメージがあったんでしょうから、違和感があったのかもしれませんね」

『ルパン三世 風魔一族の陰謀』は77年以来のメインキャストを一新した劇場版アニメ。ルパン三世を古川、次元大介を銀河万丈、石川五エ門を塩沢兼人が務めた。

「先代の山田康雄さんは大好きな尊敬する先輩でした。仲間内のカラオケで、よく山田さんのモノマネをしていたので、声をかけられたのですが、これもバッシングされました。先代のイメージが強すぎるので、仕方ない部分もありますが、一時プロフィールから抹消していたこともあったくらいなんです。今ではこんなビッグタイトルを担当できて、誇りに感じていますが」

『うる星やつら』は2022年版も製作され、あたる役は同じ事務所の後輩、神谷浩史に譲り、古川はあたるの父役を演じている。

「今でも、あたるの声は出ます。普段はボソボソしゃべっていますが、キャラクターになると変わるんです。お父さん役を演じられたのは感無量でした。神谷君に申し出て、引き継ぎの飲み会をやりましょうと言ったんです。神谷君もプレッシャーを感じていたようですが、気が楽になった、と話してくれましたね。僕自身も役を引き継ぐときはプレッシャーを感じるので、そんな思いはさせたくなかったんです」

2019年4月から青二塾東京校の塾長に【写真:ENCOUNT編集部】
2019年4月から青二塾東京校の塾長に【写真:ENCOUNT編集部】

憧れの先輩は野沢雅子「到底追いつけない」

 このほかにも、海外ドラマ、映画も多数。『白バイ野郎ジョン&パンチ』パンチ、『大草原の小さな家』アルマンゾ、映画『フェーム 青春の旅立ち』ブルーノを始め、ジム・キャリー、ビリー・クリスタル、トム・クルーズ、リチャード・ドレイファス、ロバート・レッドフォードらの吹き替えも務めているが、「たまたま僕が恵まれていただけだったと思うんです」と謙虚に振り返る。

 青二塾東京校の塾長は19年4月から務めている。

「青二プロダクションにお世話になってから44年ぐらいになるんですが、一度もやめようと思ったことがなかった。その事務所にお返しすることができると思い、即答しました。あまりにもあっさりと引き受けたので、会社の幹部はちょっと拍子抜けしたんじゃないかな」と笑い。

 10~20代の塾生を見ると、自身の青春時代を思い出すという。

「カミさんにもよく言われますが、若い頃の僕は突っ張っていましたよ。生意気で喧嘩早かった。ただ、仕事は夢中でやっていましたね。入塾式で塾生に対面すると、昔の自分がいるなと思います。だから、愛おしいんですね。なんとかしてあげたい、と思ってしまう。『オーディションに受かった』『事務所に入ることができた』と連絡を受けると、うれしいのですが、その逆もあるので、つらいですね」

 塾生には、いつも「共に学びましょう」と呼びかけている。尊敬するのは、声優・野沢雅子(87)。

「憧れの人ですが、とても追いつけない。気遣いがすごい方です。家庭菜園をやっていて、きゅうり、ゴーヤ、ナスなどをスタジオに袋いっぱい持ってきてくださるんですよ。僕だったら、あんなに重いものを持っていかれないですよ。めんどうくさいじゃないですか(笑)。超サイヤ人が育てた野菜を料理して、SNSに上げると、また喜んで、わざわざ電話をかけて下さる。到底追いつけないですが、仕事をする上での大きな励みになっています」と古川。モットーは生涯俳優だ。

□古川登志夫(ふるかわ・としお)7月16日、栃木県栃木市出身。1972年、NHK大河『新・平家物語』鹿七役で俳優としてデビュー。『飛び出せ青春』『荒野の素浪人』などドラマ畑を経て、声優を中心に幅広いジャンルで活躍。主なアニメは『うる星やつら』諸星あたる、『ワンピース』ポートガス・D・エース、『ドラゴンボール超』ピッコロ、『機動警察パトレイバー』篠原遊馬、『名探偵コナン』山村警部、『機動戦士ガンダム』カイ・シデン、『北斗の拳』シン、『悪魔くん』メフィストII世・III世、『PLUTO』お茶の水博士、『からくりサーカス』フェイスレス・白金・才賀貞義、『ゲゲゲの鬼太郎』ねずみ男など。

トップページに戻る

あなたの“気になる”を教えてください