『光る君へ』で変えたい“世間の見方” 脚本家・大石静氏「戦だけが大河の醍醐味ではない」

俳優の吉高由里子が主人公・紫式部(まひろ)を演じるNHKの大河ドラマ『光る君へ』が7日にスタートした。脚本を手がける大石静氏が取材に応じ、登場する特徴的なキャラクターたちや作品の見どころについて語った。

『光る君へ』の脚本・大石静氏が取材に応じた【写真:(C)NHK】
『光る君へ』の脚本・大石静氏が取材に応じた【写真:(C)NHK】

時代考証・倉本一宏氏の話に感銘受ける「その路線で行きたいと」

 俳優の吉高由里子が主人公・紫式部(まひろ)を演じるNHKの大河ドラマ『光る君へ』が7日にスタートした。脚本を手がける大石静氏が取材に応じ、登場する特徴的なキャラクターたちや作品の見どころについて語った。

 本作の舞台は平安中期。世界最古の女性文学といわれる『源氏物語』を生み出した紫式部の人生を描き、きらびやかな平安貴族の世界と懸命に生きて書いて愛した女性の一生を大石氏の脚本で紡ぐ。

 今作は大河という長編のドラマだけあって登場人物も多く、藤原実資(ロバート・秋山竜次)や花山天皇(本郷奏多)をはじめとした“クセの強い”キャラクターがたびたび話題となっている。大石氏は「他のドラマでも、うまくいっているドラマはキャラクター設定がうまくいってると思います」と、脚本を執筆する際のキーポイントを明かした。

「キャラ設定がはっきりしていないと、物語が転がっていきません。だから、キャラ設定にまずはエネルギーを注ぎます。大河ドラマのように長い物語は、どこで何が起きるのか、最終回をどうするかなど、会議である程度決めてから書き出します。その上で役ごとに見せ場も考えて計算して書きつつ、キャラクターを粒だたせる。こうやって話していると、なかなか大変な仕事ですね(笑)。人数が多くとも自ずとキャラは立ってくると思います」

 そんな本作では、紫式部と生涯のソウルメイトとなる柄本佑演じる藤原道長との関係が物語の大きな軸となる。大石氏は世間が抱くイメージとは異なる道長を描きたいと言う。「中学、高校の教科書にも載っているように、道長が詠んだ『この世をば――』の歌から傲慢(ごうまん)な独裁政治を行った権力者という印象を持たれています。でも、その後の集団で殺し合う武士の時代がそんなによかったのかと考えると、そうでもないと思うんですよね」と語ると、大石氏が描こうとしている道長について次のように続けた。

「時代考証の倉本一宏先生は、武士の時代が潔いというのは、国民に兵士の意識を植えつけたかった明治政府の戦略。平安時代は非常にレベルの高い政治が行われていて、400年にわたって大きな戦がない、話し合いによってものを解決していくという、今の私たちも考えなければいけないことをやっていた、とおっしゃっています。そのお話に感銘を受け、その路線で行きたいと思いました。

 第1回で三郎(道長)が『俺は怒るのが好きじゃない』と言うんですけど、あれが道長の政治の根本だと思います。だから、バランスを取りながら、天皇の独裁にならないよう、自分も力を持って、天皇の間違いも諫められるようにしていたんです。私はこのドラマで、道長をバランス感覚のいい非常に優れた政治家として描いていきます。公卿たちも蹴鞠をやり、歌を詠んでいるだけではなく、朝から晩まで忙しく働く官僚であったことも描きますので、道長と平安時代への印象は、これまでと相当違うものになると思います」

『源氏物語』そのものは描かないが「エピソードは散りばめてあります」

「何が本当かは分からないけど、私はきっとこうだっただろうって思うことを描きたい」と言うと、大石氏の考える紫式部の魅力を説明した。

「『源氏物語』は男と女が寝たり起きたりする物語の印象ですけど、それだけではなく、その行間に彼女が込めた深い人生哲学があるんだということを示したいですね。恋愛観、文学感、権勢批判などが色濃く表現されているところが、紫式部という文学者が、世界的に高く評価されている所以だと思います」

 今作では『源氏物語』そのものを描くことはなく、『源氏物語』を書くにいたった紫式部の人生にフォーカスをあてる。「『源氏物語』は描きませんが、若紫と光源氏の出会いのように、小鳥を追いかけていって少女まひろと少年道長は出会います。紫式部の人生の中で起きた出来事が、のちに作品に関わっていったかもしれないということで、随所に『源氏物語』のエピソードは散りばめてあります、『源氏物語』に詳しい方は、『あ、これ!』と気づかれるところはあちこちにあると思います」

 一方、本作では宮中の権力争いも描かれる。

「貴族はとにかく血を見ることは“穢れ”だと思っているので、自ら手を下して人を殺すことは基本的にしませんでした。雇っている下っ端の人たちに都合の悪いやつを排除させたり殺させたりしていたかもしれませんが。それが武士の始まりのようなものですね。宮廷の中も、今の会社みたいなもので、出世欲と嫉妬と権謀術策がうずまいており、いつの時代も人は同じなのだな、と思います。

 山崎豊子さんの『華麗なる一族』も血族の中の足の引っ張り合いと権力闘争ですが、そういうハラハラ感と切なさに近いですね。上昇志向、権力志向の強い藤原の長男・道隆、道兼と、欲がないながら、冷めた目で一族の闇をみつめる道長の関係も、相当スリリングだと思います。見慣れた戦だけが、大河ドラマの醍醐味ではないのだということは、ぜひ示したいですね」

 さらに、大きな合戦がない本作の“山場”について問われると、「戦の面白さと言っても、その戦に至る人の心、戦における駆け引きを描いてこそ、面白い訳ですよね。それは人の心の内を丁寧に描くことで、今回とそう変わりません。それに、おなじみの時代だと、次に何の戦で誰が死ぬとわかっていますが、平安時代のことは、ほとんどの方がご存知ないので、次に何が起きるかわからない面白さは、断然あると思うのですよ。先が知りたくて、つい毎週見てしまう、と視聴者の方に思っていただける大河ドラマにしたいと、頑張っているところです」と力強く語った。

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