ねこ娘は美少女、鬼太郎は“イケボ”に!? 攻めた「ゲゲゲの鬼太郎」最新版の裏側

2018年から今春まで放送されたテレビアニメ「ゲゲゲの鬼太郎」第6期が、放送文化向上への貢献を表彰する「第57回ギャラクシー賞」テレビ部門特別賞を受賞した。原作者・水木しげるさんのメッセージを重視して人間社会の闇を描く「原点回帰」に、モデル並みのねこ娘のビジュアルなど「枠にとらわれない発想」を融合させ、新たな“鬼太郎像”を描き切った。フジテレビ編成プロデューサーの狩野雄太氏と東映アニメーションプロデューサーの永富大地氏に制作の舞台裏を聞いた。今回は後編。

 「ゲゲゲの鬼太郎」最新版はねこ娘が“イメチェン”を遂げた(C)水木プロ・フジテレビ・東映アニメーション
「ゲゲゲの鬼太郎」最新版はねこ娘が“イメチェン”を遂げた(C)水木プロ・フジテレビ・東映アニメーション

【後編】「第57回ギャラクシー賞」テレビ部門特別賞 フジテレビ&東映アニメーションのプロデューサーの発想力

 2018年から今春まで放送されたテレビアニメ「ゲゲゲの鬼太郎」第6期が、放送文化向上への貢献を表彰する「第57回ギャラクシー賞」テレビ部門特別賞を受賞した。原作者・水木しげるさんのメッセージを重視して人間社会の闇を描く「原点回帰」に、モデル並みのねこ娘のビジュアルなど「枠にとらわれない発想」を融合させ、新たな“鬼太郎像”を描き切った。フジテレビ編成プロデューサーの狩野雄太氏と東映アニメーションプロデューサーの永富大地氏に制作の舞台裏を聞いた。今回は後編。

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 毎週日曜日の朝に放送された本作は、子育て家庭に普遍的なメッセージを届けたことも高く評価された。1968年に第1期が放送された名作シリーズ。50年以上の歴史の中で、時代時代で原作漫画のテイストを生かすところは生かし、妖怪象を描いてきた。最新版を作るにあたって制作陣が合言葉に掲げていたのは、「子供向けだけ、にするのはやめよう」ということだ。大人が観ても面白いものを作る――。人生を生き抜くための水木さんの人生哲学をベースに、人間社会の暗部をあぶり出し、社会風刺やブラックユーモアを散りばめた。

 今回の最新版の制作を始めるにあたり、テレビ局側の狩野氏が打ち出した方針を聞き、アニメ制作のプロの永富氏は「かせがいい意味で外れた。ブレーキをかけない発想を持つことができた」と振り返る。

 狩野氏には確信があった。制作を始める前に、水木プロダクションに挨拶に行った時のことだ。水木さんの長女でもある原口尚子社長に、「日曜日の朝だからといって怖い話をやらないということではありません。守りに入った作りはしません」と宣言したという。狩野氏は「原口社長が喜んでくださって、『攻めてやってください』とおっしゃっていただきました。だから攻め通すことができたんです」と秘話を明かしてくれた。

 その象徴とも言えるのが、ねこ娘のキャラクター設定だ。もともとのねこ娘といえば、刈り上げのおかっぱで大きな目をしているイメージだ。ところが、最新版のねこ娘は、すらっとした背格好で脚が長く、まるでファッションモデルのよう。すっかり“美少女キャラ”に生まれ変わったのだ。

 これは狩野氏のアイデア。「人間の視点の女の子という発想で、見かけを思い切って8頭身ぐらいの感じにしてみたらどうかと思い、小川孝治監督にラフを描いてもらったら、『いけるいける』となったんです」という。ほかのキャラクター設定はほとんど変えずに踏襲。それだけに、ねこ娘は視聴者やファンの注目を集めることになった。

 永富氏は「実は(07~09年に放送の)第5期ではアイドルのような設定に変わって話題にはなっていたんです。今回は頭身の高いモデル体型。世の中に出す時はヒヤヒヤだったのですが、ふたを開けてみれば、意見は半々でした」と話す。こんなエピソードがある。永富氏は、イベント会場でねこ娘の着ぐるみに、小さな女の子が「ねこねえさん、かわいい」と言っていた場面が忘れられないという。ねこ娘と握手をしたいと並ぶ子供たちの姿を見て、しっかりと受け入れられたことを実感したという。

鬼太郎を沢城みゆき、目玉おやじを野沢雅子が演じた(C)水木プロ・フジテレビ・東映アニメーション
鬼太郎を沢城みゆき、目玉おやじを野沢雅子が演じた(C)水木プロ・フジテレビ・東映アニメーション

 キャスティングの妙もあった。声優陣には、鬼太郎役を人気声優の沢城みゆき、目玉おやじは、初代・鬼太郎を務めたレジェンド野沢雅子が演じた。新鮮味にあふれた配役は、なんとオーディションで選定。しかも制作サイドは大胆にも、目玉おやじの声優に悩んでいた際に、大御所の野沢にセリフを読んでもらうデモテープを頼んだというのだ。永富氏は「野沢さんは最初、砂かけばばあの役だと思ったらしいのです」と笑う。贅沢な起用はばっちりハマった。

 とりわけ鬼太郎は“イケボ”との評判に。永富氏は「キャラクターというものは、声優自身の性格に吸い寄せられていく部分があります。制作側が意図したイメージと、沢城さんのお芝居が融合して、人間の味方でもないし妖怪の味方でもないイメージの大きな鬼太郎像ができあがったと思います」と教えてくれた。

 現代社会にやってきた“鬼太郎と妖怪たち”が子供たちの心にも響いた理由。狩野氏は、親子の会話にあると見ている。大人はストーリー性にうなずき、子供はキャラクターが活躍する動きを中心に楽しむ。示唆に富んだ深い物語を親子で観ることで、「業が深くて失敗してしまうキャラクターについて、『こういう人になってはいけないよ』といったことを父母が子供に説明をする。そんな親子の会話のきっかけになったのだと思います」と語る。

 テレビ界とアニメ界の第一線を走る2人にとっての「ゲゲゲの鬼太郎」。狩野氏は「設定の変更を許してもらい、器の大きい作品。自分たちの考える力をかき立てられる、そんな土壌の豊かな原作だと思っています」と実感を込める。

 永富氏は、今回のアニメ制作の開始前に、4期シリーズを担当したプロデューサーから「うらやましいよ」という言葉をもらったという。永富氏自身は当初大きなプレッシャーを感じていたというが、終わってみて深く感じる思いがある。「幸せな時間だった、そのひと言です。巨人の手のひらの上で遊ばせてもらったような感覚です」。

 シリーズは第2期から、おおよそ10年周期で新作が世に送り出されてきた。次の第7期があるとすれば、どんな鬼太郎像が描かれるのか。今からでも楽しみだ。永富氏は「次回作の担当者には、『鬼太郎を作ることができてうらやましいよ』と言いたいですね」と笑った。

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