【週末は女子プロレス♯137】往年の人気番組を観て上京→高校退学し事務所を直撃 ミス・モンゴルのデビュー前夜

往年の大ヒット番組『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』をきっかけに大仁田厚のFMWでデビューし、お笑いトリオ・東京03の豊本明長と結婚、現在一児の母でプロレスキャリア30年も見えてきた。

インタビューに応じたミス・モンゴル【写真:新井宏】
インタビューに応じたミス・モンゴル【写真:新井宏】

本名の上林愛貴でデビューもヒールへ

 往年の大ヒット番組『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』をきっかけに大仁田厚のFMWでデビューし、お笑いトリオ・東京03の豊本明長と結婚、現在一児の母でプロレスキャリア30年も見えてきた。

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 現在はインディーマットを中心に、プロレスラー、妻、そして母として奮闘中のミス・モンゴル。そもそもプロレスラーになったきっかけは、中学生時代に偶然テレビで見かけたアメリカの女子プロレスだったという。

「当時、北海道では深夜になぜかアメリカの女子プロレスを放送していたんですよ。マリア・ホサカ、バンビ、レジー・ベネット、メドゥーサとか出てましたね。一歳下の弟がプロレス好きでなんとなく見てはいたんですけど、ハマったのはアメリカの女子プロ。これを見て、私もレスラーになりたいと思ったんです」

 両親に話したところ高校には行ってほしいとのことで、渋々地元の工業高校に進学。そのときたまたま『元気が出るテレビ』で「女子プロレス予備校」の企画を知り、オーディションに参加するため上京。親は「思い出作りのため」に“受験”を承諾してくれた。まさか合格するとは思ってもいなかったのだろう。それは本人も同様だった。

「まわりには体力に自信ありそうな人がたくさんいたんですよ。私なんかいたって普通で、どうみても無理。でも、絶対に受かりたいからどうしようと思って、長く伸ばしていた髪をカメラの前で切ったんです。意気込みを伝えるにはこれが一番かなと思って。そしたら合格して」

 とはいえ、これでデビューが決まったわけではない。予備校生が集められ、新日本プロレス山本小鉄指導のもと、合宿を含めたトレーニングが始まった。定期的に札幌と東京を往来するなか、どうしてもレスラーになりたい、FMWに入りたいと考えていた彼女は一念発起、高校を退学し“予備校生”に集中するため完全上京、そして、FMWの事務所に直談判という大胆な行動に出た。

「いてもたってもいられなくて、勝手に高校を辞めて上京してしまいました。そして、若さゆえの勢いでFMWの事務所を直撃して、どうしても入りたいんです、お願いしますとお願いしたんですね。事務所の方も笑いながら対応してくださいました」

 そして彼女は、女子団体が集結したオーディションでFMWとLLPWから指名を受ける。もちろん、彼女が選んだのはFMWだ。

「工業高校では男子と同じ授業を受けて、運動もすべて一緒にやってたんです。だから男子レスラーもいるFMWは違和感もないし、私があこがれるアメプロにもっとも近かった。おもちゃ箱をひっくり返したようなプロレスという大仁田さんのコンセプトでバラエティーに富んでて、男子と競えるというところに新しさを感じていました。指名してくださったLLPWさんには恩義を感じていますが、お断りをさせていただいて、FMWに入団しました」

 予備校生で団体から指名を受けた同期には元気美佐恵、シュガー佐藤、市来貴代子がいた。それぞれがそれぞれの団体でデビューを目指すこととなり、彼女はFMWの練習生として入寮、風呂なし共同トイレの古アパートで生活するようになる。そこでデビューにこぎ着けるのだが、初マットまで実に1年8か月の時間を要した。しかも待望のデビュー戦は、ある日突然やってきた。

「当時の新人はデビュー戦としてうたわれることもなく、シリーズ中のどこかでデビューさせるから用意しておけと言われるんですね。そのシリーズでおこなわれない場合もあるんですけど、いつ言われてもいいようにコスチュームとか準備しておくんです。そして(95年10・25)リージョンプラザ上越大会の日に突然呼ばれて、今日だと。それがたまたま大仁田さんの誕生日だったので、鮮明に覚えていますね」

 本名の上林愛貴でデビューした彼女だが、やがてヒール軍・猛毒隊の標的となり、工藤めぐみらベビーフェース軍への見せしめ的に鎌で額を切られ血祭りにあげられた。その後、彼女の猛毒隊入りが決定。同時に、リングネームも変更されることになった。

「(ヒールになれと)言われたら逆らえないですよ。リングネームも変えないといけない。当時、モンゴリアンチョップを使っていたので、レディ・モンゴル、ミス・モンゴル、ジンギス・カンバヤシとモンゴルつながりの名前が候補になりました。ヒールなら上林としての存在を消そう。だったらミス・モンゴルかと思い、それでお願いしますとなりました」

ミス・モンゴルのコスチューム【写真:本人提供】
ミス・モンゴルのコスチューム【写真:本人提供】

東京03豊本へリング上でプロポーズ「大仁田さんの度肝を抜きたい」

 ミス・モンゴルのお披露目は96年8月12日、全日本女子プロレスの日本武道館大会「ディスカバー・ニューヒロイン」だった。べん髪に顔面ペイント姿のモンゴル人(?)に変身したモンゴルは、シャーク土屋とのタッグでベテランと新人がタッグを組むトーナメントに参戦。1回戦で渡辺智子&前川久美子組に敗れるも、絶大なインパクトを残してみせたのである。

 そして、ミス・モンゴルのリングネームはすっかり定着。FMW退団後、別のリングネームを使用することもあったが、やはりいちばんしっくりするのはミス・モンゴル。自他ともに認めるところだろう。

 数々のインディー団体で試合をするなか、モンゴルは、大のプロレスファンでもある東京03の豊本と出会う。サムライTVでプロレス番組にも出演する豊本が観戦し、ツイッター(現在はX)などでやりとりするなか、交際に発展。結婚を決めたのは14年12月27日、モンゴル側からの、しかもリング上でのプロポーズだった。

「その日は自分が主催した世界プロレス協会の新木場大会で、大仁田さんにも出ていただいたんですね。いろんな意味で大仁田さんには驚かされるじゃないですか。だから今度は私が大仁田さんを驚かせたい気持ちがあったんですよ。大仁田さんの度肝を抜きたい、一生に一度はビックリさせたいとなって、リング上で決行したんです。もちろん(豊本も)知りません。もうこの日は賭けに出たというか、(プロポーズを)断られたらどうなったのかとも思いますけど、2人を驚かせたかった。ただ、(プロポーズ中は)必死すぎて大仁田さんを見られなかったんですけどね(苦笑)」

 女子レスラーがリング上からプロポーズする前代未聞の試みは大成功。お相手が芸能人ということもあって世間的にも話題になった。が、当時のモンゴルは無我夢中、ニュースとして取り上げられると気づいたのはあとになってからだ。

「ワイドショーとかでニュースになっちゃったんですよね。そんなつもりはまったくなかったので(自分が驚いた)。こっちはとにかく2人を驚かせたくて。特に大仁田さん。大仁田さんの発想って確実に自分に影響を与えてるんです。超えられる存在ではないけど、発想の部分では背中を見て盗んでいるのかも。よく大仁田さんに言われるんですよね、『オマエ、オレに似てるよな』って(笑)」

 現在、モンゴルは5歳になる娘の子育てと同時に、各地のインディー団体に参戦。たとえば、かつて女子高生レスラーとして一世を風靡(ふうび)した千春が主宰するhotシュシュでは、同世代の田村欣子、タニー・マウスが手掛ける若手選手の壁として胸を貸す。また、参戦団体のなかには子どもを連れてくるパパママレスラーもいて、控室では子ども同士のコミュニティーが形成されていたりするという。

「娘が生まれて3か月くらいで復帰したんです。それからは自分が試合をしている間、団体によっては控室で子どものいるレスラーが娘を見てくれるようになってます。それを楽しみにしてくれるレスラーもいたりして、子ども同士で遊んでたりもしますね。そこで選手の子ども同士がお友だちになって、あの子がいるから会場に行くみたいなところもあったり。たとえば、上は小3のお姉ちゃんから2歳の子までとか、学校とは違うコミュニティーができて、プロレスには興味なくても喜んでついてきてくれる。試合が終わったら『今日は勝ったの?』とか聞いてくるんですよ。すごくほほ笑ましい感じがします」

 リング上の闘いから子どもたちが待つ控室に戻る。ホッとできる瞬間だ。そして家に戻れば、「ごく普通の家庭ですよ(笑)」とのこと。「主人も私も週末に仕事があって(娘が)かわいそうだなと思うこともあるけど、いたって普通の家族だと思います。(娘は)こんど小学生になるので働き方が変わってくるのかな? 母親だから子ども中心になっちゃうのは仕方ないけど、これからも育児と仕事を両立させていきたいですね」

 プロレスにも辞められない理由がある。それは、同世代の選手と話をしたときにあらためて実感することでもあるという。

「私、GAEAの1期生たちと同期にあたるんですよ。現在も現役で言えば、里村(明衣子)さんもそうだし、永島千佳世もそう。宮崎有妃、倉垣翼も。同期とは、『私たちの世代ってなかなか上にいけず下から追い上げられて、まだ何かやり残してる、まだなにかあるんじゃないかとなって、やめられないよね』って話になるんですよね。みんな意地があって、いまでも努力を怠らない。そこに私も刺激を受けてます」

 プロレスラーとして、妻として、そして母として、ミス・モンゴルはこれからも彼女の役割をまっとうしていくつもりだ。

(文中敬称略)

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