「1年ほどは帰ってくるな」 能登の葉たばこ農家、父が息子に託す未来 「今年の耕作は無理」

230人以上の死者を出した能登半島地震で、葉たばこ農家も大きな被害を受けている。石川県には現在6戸の農家があるが、畑や設備などの被害状況の全容は不明だ。かつて北陸有数の産地だった石川の葉たばこ栽培。親子3代で伝統を守り続ける農家は、「今年の耕作は無理だな」と不安そうな声を上げた。

地震が起きる前の浦野政行さんの畑【写真:北越たばこ耕作組合提供】
地震が起きる前の浦野政行さんの畑【写真:北越たばこ耕作組合提供】

たばこ用パイプハウスに45人避難 ストーブ囲んで2夜明かす

 230人以上の死者を出した能登半島地震で、葉たばこ農家も大きな被害を受けている。石川県には現在6戸の農家があるが、畑や設備などの被害状況の全容は不明だ。かつて北陸有数の産地だった石川の葉たばこ栽培。親子3代で伝統を守り続ける農家は、「今年の耕作は無理だな」と不安そうな声を上げた。

「畑は15キロほど離れた開発地なんですけど、まだ確認は行けないんですよ。それどころじゃないというか。乾燥室は見てきたんですけど、来年のために取っておいた肥料や積んであったものが、もう倒れて散乱してひどい状態になっていたなと思うし、たぶんひび割れも入って、乾燥機の周りをチェックかけないと動かすことができないのかなと見ています。だから私個人の判断で、今年の耕作はやめようかなと。無理だなっていう思いでいます」

 こう話したのは、珠洲市三崎町の浦野政行さんだ。父親から事業を継承し、50年にわたって葉たばこ生産に携わってきた。耕作をやめた年はないと言い、「こんなこと初めて」と肩を落とした。

 地震があった日、浦野さんは海から50メートルの自宅にいた。2度目の大きな揺れで外に飛び出し、3度目で自宅が崩れていく様子を目の前で見届けた。

「3回目の揺れが来たとき、立っていられないので、庭でしゃがみ込んで、家が壊れる姿を見ていました。あー壊れてくる、壊れてくるって。窓ガラスが割れ、壁が落ち、瓦が落ちてきました」

 幸い、けがはなかった。ただ自宅は天井が落ち、大規模半壊。住める状態ではなくなった。

 津波警報が出て高台に避難した後は、苗を育てるためのたばこ用パイプハウスで2日間、夜を明かした。集落の住民、帰省中の人々を含め、45人が中に入った。

「簡単な座る程度の場所を作って、ストーブを持ち込んで暖を取って過ごしました。寝れるようなところではないです」

 現在は避難所で暮らす。畑の様子が気になるが、震災から3週間を迎えようとしている現在でも、まだ見に行けていない。昨年5月の地震で一部に土砂崩れが起きており、「今回はもっとすごい揺れだったので、土砂崩れが起きているんじゃないかなと」と心配そうだ。

 さらに問題なのが、仕上げに使う乾燥機の被害。地震によって、囲いのコンクリートに亀裂が入った可能性が高い。「コンクリートがひび割れていると、乾燥機内の密閉度が薄れるので、それをきちっと抑えないことにはうまく乾燥できないような状態になる。全部1回チェックせんと動かせない」。小さいものでも1基300万円ほど。簡単に交換できるものではない。「たばこもいろいろな品種があるんですけど、私が作っている品種は乾燥機がないとちょっと無理です」と説明した。

地震によって資材が崩れた【写真:北越たばこ耕作組合提供】
地震によって資材が崩れた【写真:北越たばこ耕作組合提供】

生活に打撃「年金をあてにするか…」 難を逃れた息子に託す思い

 親子3代で家業を守る。72歳となり、昨年息子に引き継いだばかりだった。息子は正月に妻の九州の実家へ帰省中で、難を逃れた。「子どもも一緒に行ってたから助かったなって思いです。こっちにいたら子どももパニックになるだろうし、避難してても、つらいやろうし。俺の意見としては、あっち行っててよかったなと思って。で、もう1年ほどは帰ってくるなと。あっちの親のお世話になれっていう言い方をしています」と、浦野さんは本音を漏らした。

 石川はかつて、葉たばこの有数の生産地だった。浦野さんの父が葉たばこの栽培を始めたのは1955年。「昔は盛んでしたね。三崎(町)という大きなくくりで言うと、140人ぐらいが作っていたと思います」。しかし、高齢化や喫煙者の減少もあり、農家の数は右肩下がりだった。現在、珠洲市の葉たばこ農家は浦野さん1戸だけになった。国営パイロット事業で開いた420アールの畑で葉たばこを作っている。

 例年なら2月下旬には種まきが始まるが、とても見通せない。「もう1か月(後)、ちょっと無理やなと」。収穫がなければ、当然、収入減になる。

「それに頼っているような生活体系ですから。今年はぜいたくできないし、俺が年金をもらうようになっているので、それをあてにするか、息子には九州で頑張ってもらうか、そういうところですね。うちでは水稲もやっているんですけど、崩れが起きて、田んぼの用水を埋めたり、まともに耕作できるかどうか春になってみないとよく実態が分からない状態で……」

 ただ、今年はダメでも、来年は親子で畑を耕したいという希望も持つ。「来年は頑張って耕作できるようにやりたいなと思いはあります」。自宅も取り壊して同じ場所に再建する意向だ。「もっと小さな揺れに強い簡単な建物でいいから、それで家族が生活できればいいかなと思っています」と、未来を描いた。

 北越たばこ耕作組合によると、石川の葉たばこ農家は現在6戸(輪島市1、小松市1、能登町3、珠洲市1)。「6人全員に影響がありました。一番被害が大きかったのは珠洲市、輪島市、能登町」と担当者。16日に県外いた1人の生存確認が取れ、全員無事だった。「まだ避難したり、家のことで手いっぱい。今年の耕作はみなさん、検討中です」と状況について明かしている。

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