故郷が「地獄のよう」 珠洲市の30代男性、見えない将来 「予想していた30年後の世界が一気に」

能登半島地震から10日が経過し、いまだ被害の全容が見えない中、被災者は不自由な生活に耐えながら避難生活を続けている。石川・珠洲市に住む30代男性のSHINSEI(@mapplethope)さんは稼業を継ぐため、3年前、東京から故郷にUターンした。若者目線で見た能登の未来像。高齢化や過疎化が進む中、口からは将来への不安がにじみ出た。

子どものころよく遊んだ珠洲市の思い出の場所も無残な姿に【写真提供:SHINSEI(@mapplethope)さん】
子どものころよく遊んだ珠洲市の思い出の場所も無残な姿に【写真提供:SHINSEI(@mapplethope)さん】

3年前に都内からUターンし能登で家業を継いでいたが…

 能登半島地震から10日が経過し、いまだ被害の全容が見えない中、被災者は不自由な生活に耐えながら避難生活を続けている。石川・珠洲市に住む30代男性のSHINSEI(@mapplethope)さんは稼業を継ぐため、3年前、東京から故郷にUターンした。若者目線で見た能登の未来像。高齢化や過疎化が進む中、口からは将来への不安がにじみ出た。

 SHINSEIさんは地震発生時、県外にいたため、直接の被災を逃れた。3日に珠洲市に戻ると変わり果てた地元の風景に声を失った。

「ひと言で言うと、地獄のような街になっているなと。珠洲に生まれ育ったので、思い出が全部崩壊していく姿というのは、ちょっと言葉にできないですね」

 自宅は倒壊を免れたものの、現在も水道が使えず、妻と親戚宅に身を寄せている。幸い、家族や友人は全員無事だった。買い出しなど食料の確保には支障がなく、「現状は大丈夫です。ドラッグストアも再開できるところは再開していますし、自衛隊の炊き出しもあります。肌感覚ですけど、食に飢えている人は現在はそんなにいないのかなと思っています」と話した。

 最も困っていることを聞くと、インフラの復旧を挙げた。「物資はある程度、足りています。もちろん、人によって変わってくるとは思うんですけど、一番きついのは、水道が使えないことですね。それこそ、1週間お風呂に入っていなかったですし、みなさん水道が使えないのが、一番つらいんじゃないかなと思います」と訴えた。

 現在、生活用水は自衛隊による給水を利用。復旧のめどは立っていない。

「うわさですけど、水道の施設が全部壊れちゃっているので1か月程度でも戻らないと聞いています。電気はところどころつき始めてはいるので、そこは大丈夫なのと、家が無事なら基本的にガスも使えるのでそこも問題ない。やっぱり、水道かなと思います」

 7日には、自衛隊が設置した入浴施設で5日ぶりに風呂に入った。

「本当に今まで入ったお風呂の中で一番最高でしたね」

 たまった汚れを洗い流し、避難生活の中で、ほっとするひとときになった。「友人と何度か一緒に行ったんですけども、本当に皆、口をそろえて自衛隊に感謝の気持ちがありましたし、改めて自衛隊の偉大さを感じました」と実感を込めた。

 同じ被災者でも、被害が大きかった人とそうでない人がいる。自らも被災者のSHINSEIさんは自家用車に物資を積んで、避難所として使われている複数の小学校を回った。

「自分らの命も安全に確保できる中で、民間人の僕らが行けて、困っている方々に物資を渡すとなると、地理的には飯田、若山(町)が行きやすかった。僕らが行けないところは、自衛隊の方々に任せようかなという思いで始めました」

 水や飲み物、おむつ、子ども用の食べ物、生理用品など日常生活に欠かせないものを運んだ。家が倒壊した友人も数人おり、支援を頼まれていた。「一刻も早く(物資を)欲しいという友人からの声もあったので、お渡しさせていただきました。皆さん、ほっとしているというか、感謝していただいたので、そこはやってよかったなとは思っています」

 一方、被災者に物資を渡す際、声がけには迷った。

「『頑張って』とも言えないですし、自分自身もまだ前を向けていないので、『物資を届けに来ましたよ』ぐらいしかかける言葉がなくて…。僕は避難できる場所がありますけど、他の今避難されている方々は家がないので、かける言葉がなかったです」

被災者にもかかわらず、物資を車に積んで避難所に運んだ【写真提供:SHINSEI(@mapplethope)さん】
被災者にもかかわらず、物資を車に積んで避難所に運んだ【写真提供:SHINSEI(@mapplethope)さん】

過疎化が課題になっていたところに震災の打撃 未来が描けず

 実はSHINSEIさんは、ずっと珠洲市で暮らしていたわけではない。小学校まで過ごした後、上京し、3年前に都内から珠洲市に戻ってきた。

「うちの親が自営業をしているので、継ぐために帰ってきたという感じですね」

 家業を継ぐためとはいえ、能登の将来には漠然とした不安を抱えていた。

 その矢先の大地震。自身の生活は何とかなったとしても、町全体が復興され、再び活気が戻るには相当の時間がかかる。

 今後の見通しはますます不透明となった。

「能登は高齢化もあるし、人口がずっと減っていますから。その状況で僕が予想していた30年後の世界が一気に来るような気がして、ちょっと先が見えないし、どうなるのかなっていう不安しかないです」と、希望が見えない現状を心配した。

 それでも、愛する故郷には変わりない。

電気が消え、商品が散乱したままの店舗【写真提供:SHINSEI(@mapplethope)さん】
電気が消え、商品が散乱したままの店舗【写真提供:SHINSEI(@mapplethope)さん】

治安悪化を危惧 「地元の人は県外ナンバーを見るだけでもストレス」

 石川県では、能登への不要不急の移動は控えるよう呼びかけている。

「今いる能登から脱出したい方々もいる。能登は結構特殊な地域なので、地元の人じゃないと通れないような道もある。結局支援いただいたとしても、そこで足止め食らっているのは県外ナンバーの人たちですし、危ない道なので心配だなというところはあります。なるべく物資は国や県に任せて、と若干感じるところもありますけど、思いとしては、すごくうれしいし、なんとも言えないですね」

 一方で、災害に便乗して悪事を働く人もいるという。

「売名目的で来る人もいるし、県外ナンバーで空き地を狙う悪徳な人もいる。知人が目撃したのは、警官の服を着て家の中をあさっている県外ナンバーの人。他にもいろんな手段で悪いことをしようとしている人がいるなという印象はある。今、地元の人たちは県外ナンバーを見るだけでもたぶんストレスになっちゃうと思います」と治安の悪化を懸念した。

 ボランティアセンターも開設されているが、県外からは募集していない。

「復興のためには支援物資もすごくありがたいんですけども、いずれそこは大丈夫になると思う。やっぱりお金が必要なのかなと思います。ふるさと納税でもいいので、能登に支援していただけたらうれしいです」とSHINSEIさんは結んだ。

・SHINSEIさんのYouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/@MapplethorpeShinseiTV

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