無限に広がる教育費、公立でも「大学まで1000万円超」の現実…「親が稼ぐほど子どもが損をする構造」

今の日本で、子どもは“ぜいたく品”なのか? 少子高齢化の進む日本で、子育ての大変さが増している。未就学児でも習い事は当たり前になりつつあり、中学受験では済まされず小学校受験が注目されるなど、教育費は無限に広がる。言わば、「教育の課金ゲーム」は過熱する一方だ。自身も2児を育てるファイナンシャルプランナーの加藤梨里氏は「すべて公立でも大学まで1000万円超」という教育費の試算を打ち出した。専門家が考える、お金と子育ての未来像とは。

高騰化が止まらない教育費は“課金ゲーム”の様相に(写真はイメージ)【写真:写真AC】
高騰化が止まらない教育費は“課金ゲーム”の様相に(写真はイメージ)【写真:写真AC】

「せめて自分たちと同じぐらいの学歴を」ですら厳しい 小学校受験も激化で「費用はブラックボックス」

 今の日本で、子どもは“ぜいたく品”なのか? 少子高齢化の進む日本で、子育ての大変さが増している。未就学児でも習い事は当たり前になりつつあり、中学受験では済まされず小学校受験が注目されるなど、教育費は無限に広がる。言わば、「教育の課金ゲーム」は過熱する一方だ。自身も2児を育てるファイナンシャルプランナーの加藤梨里氏は「すべて公立でも大学まで1000万円超」という教育費の試算を打ち出した。専門家が考える、お金と子育ての未来像とは。(取材・文=吉原知也)

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 著書『世帯年収1000万円―「勝ち組」家庭の残酷な真実―』(新潮新書刊)を上梓した加藤氏は、学校の入学金や授業料、学用品、塾の月謝などの費用を取りまとめた。幼稚園から高校まで、すべて公立に通わせても、1人あたり平均総額で「574万円」かかる計算となった。ちなみに、高校まですべて私立だと「1838万円」だ。

 ここで特筆すべきは大学の教育費。「一番大きな費用負担です。大学4年間の総額で、国公立は481万円、私立文系は690万円、私立理系は822万円の計算になりました。しかも、子どもが1人暮らしをした際の生活費は別です。都内に住むとしたら学生のワンルームでも月10万円前後の家賃になります。4年間でさらに500万円以上がプラスになります」。想像するだけでめまいがしそうな金額になる。「大学卒業の親が『せめて自分たちと同じぐらいの学歴を』と思うかもしれませんが、入試の難易度もかかる費用も、当時とは別のステージにきているという前提を理解する必要があると思います」と断言する。

 加藤氏は業務や取材、友人家族との交流を通して、とりわけ共働きの子育て世帯が、仕事と育児のやりくりで苦労する「共働きのジレンマ」を見てきた。結局は、夫婦2人とも両立を確立できず、ワンオペ育児にも陥って疲弊するパターンだ。小学校は下校時間が早いため、学童に入れないと親が退職せざるを得ない“小1の壁”もある。手厚いサービスの民間学童を利用することも可能だが、「週5で利用すると、月4~6万円が相場です」。なんとも悩ましい。結局は、「頼れる実家が近いか遠いか、家族関係による『隠れた格差』もあるのではないでしょうか」と強調する。

 ただでさえ、ファミリー向け物件が少ないうえに高騰化する不動産事情で住環境を整えるのも大変。一方で、お受験戦争は過酷さが増している。「共働き世帯の増加によって、子どもの将来を考えてより教育にお金を回そうとする親が増えていると思います。激化する中学受験の回避策として、小学校受験させる家庭が増えてきていると言われています。ただ、小学校受験対策をしてくれる幼児教室の費用はブラックボックスになっている感覚があります。わが子を有名小学校にどうしても入れたければ、基本授業料だけで100万円~200万円かけるのもごく普通です」。当然、家計がひっ迫することになる。

 子育て世帯には公的支援が設けられているが、そこには「所得制限の壁」が。児童手当や高校の授業料無償化、大学の奨学金などの制度は年収1000万円のラインで場合によっては所得制限に引っかかるようになり(2023年12月現在)、「国や自治体による制限撤廃の方針転換が見られ始めていますが、親が稼ぐほど子どもが損をするような構造になっているのではないでしょうか」とため息を漏らす。

 今年1月から新NISAがスタートすることもあり、資産形成が有効策の1つだ。「子育て世代の30~40代から始める人もいるかと思います。一獲千金を狙うのではなく、老後資金を守るという考えが大事です。生活費用を確保したうえで、ちょっと余裕が出せそうな人は月の収入の2割、少なめでも1割を貯蓄を含めた資産運用に充てるのが目安です。10年単位の長期の視点で、運用利率は年平均利回り3%を目指すイメージで取り組むといいですよ」とアドバイスする。

『世帯年収1000万円―「勝ち組」家庭の残酷な真実―』(新潮新書刊)著者の加藤梨里氏【写真:(C)新潮社】
『世帯年収1000万円―「勝ち組」家庭の残酷な真実―』(新潮新書刊)著者の加藤梨里氏【写真:(C)新潮社】

「『子どもに他人が手を差し伸べる義務はない』という行き過ぎた考えが浸透」

 子育てに励む加藤氏自身、子どもたちを別の保育園に預けていた時期に、自宅を出てそれぞれ預けて職場にたどり着くまで毎朝3時間以上をかけた経験を持つ。そして、国が教育にお金をかけない実情を垣間見た事例があるという。「小学校受験をして子どもをある国公立大学付属の小学校に入学させたママ友の話では、一部の設備がボロボロにもかかわらず修繕費用の予算が不足しているようで、先生方が100均ショップで部品を買って辛うじて修繕しているといいます。国から大学に充てられる教育予算が不十分なために、付属の高校・中学、ましてや小学校までお金が降りてこないようです。保護者が加入する後援会で不足する資金を補うために、毎年寄付のお願いが寄せられているそうです。国公立の学校でも結局、子どもの教育費は親頼み、個人の自己負担任せな面があるのです」。

 教育への不安を解消し、より子育てがしやすくなる社会をどう実現するべきか。もちろん、子どもを持たない人生の選択肢もある。一方で、「子育ては自己責任」という意見があることも確かだ。加藤氏は「『つらいと言っても自分たちが選択したんでしょう』、そう言われてしまうと、心が痛みます」と、切実な心境を吐露する。

 そのうえで、「子どもという存在をどう捉えるか。価値観の問題なのかなと考えています。子どもは日本の資産です。子どもたちは将来、税金を払ってくれて年金制度を安定させてくれる、未来の私たちを支えてくれる存在でもあります。政策の不足もそうですが、地域社会の崩壊、核家族化もあって、『子どもを持つのは自己責任』『子どもの問題は家族で解決するべき』『子どもに他人が手を差し伸べる義務はない』という行き過ぎた考えが浸透してしまったように思います。最近は『多様性』が社会課題としてさまざまな場面で注目されていますが、ならば、独身でも既婚でも、子どもがいようといまいと、大人も子どもも社会の多様性の一部として尊重し合えないものでしょうか。超少子化の日本が存続していくためには、持ちつ持たれつと言いますか、子育てを家庭だけではなく広く地域や社会でも担うことが認められるような、柔軟な考え方が広がってもいいのかなと思っています。それは、経済や社会保障の構造を考えれば巡り巡って自分自身のためにもなることだと思います」と語る。他人の子どもであっても、困ったときは社会全体で面倒を見てあげる――。そんな寛容な日本の未来を願っているという。

□加藤梨里(かとう・りり) ファイナンシャルプランナー/CFP(R)、マネーステップオフィス株式会社代表取締役。慶応大大学院健康マネジメント研究科修士課程修了。保険会社や信託銀行などを経て、2014年に独立。著書執筆や講演活動も行っている。

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