“世界を変える”と評価されたRei、影響を受けた松任谷由実の楽曲「なんてきれいなんだ」

2022年、Forbes JAPAN誌「世界を変える30歳未満30人の日本人」の1人に選出されたシンガー・ソングライターのRei(レイ)が、11月29日にアルバム『VOICE』をリリースした。高いギターテクニックとジャンルにとらわれない音楽性を持ち味に、米国の老舗音楽レーベルのヴァーヴ・フォアキャスト・レコードからも作品をリリース。「音楽が一番の本音」と話す彼女の思考と世界観に迫った。

2022年にForbes JAPAN「世界を変える30歳未満30人の日本人」に選ばれたRei【写真:冨田味我】
2022年にForbes JAPAN「世界を変える30歳未満30人の日本人」に選ばれたRei【写真:冨田味我】

シンガー・ソングライターReiの世界観

 2022年、Forbes JAPAN誌「世界を変える30歳未満30人の日本人」の1人に選出されたシンガー・ソングライターのRei(レイ)が、11月29日にアルバム『VOICE』をリリースした。高いギターテクニックとジャンルにとらわれない音楽性を持ち味に、米国の老舗音楽レーベルのヴァーヴ・フォアキャスト・レコードからも作品をリリース。「音楽が一番の本音」と話す彼女の思考と世界観に迫った。(取材・文=福嶋剛)

 Forbes JAPAN誌が毎年選出する「世界を変える30歳未満30人の日本人」。昨年はWBCでも活躍した千葉ロッテマリーンズの佐々木朗希投手をはじめ、アスリート、クリエーター、企業家、研究者らとともに、Reiが選出された。

「音楽の賞をいただいたことはあったのですが、活動や人物としての部分をこのような形で認めていただけたことがなかったのでうれしかったです。ミュージシャンとしてだけでなく、1人の人間として音楽を通じて大切なことを貫いてきた活動を評価いただき、『今までやってきたことが間違っていなかったんだ』と実感できた瞬間でした」

 ニューヨークに住んでいた4歳の頃にギターを始めた。

「テレビでギターを弾いている女性を見て『私もあれが欲しい』っておねだりをして買ってもらいました。それをきっかけにクラシックギターを習い始めたのですが、4歳の私はおもちゃで遊んでいる感覚で楽しんでいたようですが、クラシックだけでなくいろいろな音楽を教えていただきました」

 5歳でジャズ、ブルースと出会う。Reiはブルースをルーツミュージックへのリスペクトを込めて「ブルーズ」と呼んでいる。

「学校の先生に『クラシックギターだけじゃなくて、コンテンポラリーなジャンルや即興演奏もやってみない?』と誘われました。それがきっかけで、クラシックギターと並行してビッグバンドでジャズやブルーズの演奏を始めました。ブルーズの良いところは、覚えるコード(和音)の数が少ないシンプルな音楽であること。シンプルな音楽であるがゆえに、実はブルーズって表現できる幅がものすごく広くて、覚えれば覚えるほど、即興の面白さや奥の深さにハマっていきました」

 一方で、「言葉の壁」には苦労していた。

「幼い頃に日本からアメリカに引っ越して、英語が話せないという壁にぶつかり、英語に慣れた頃に日本に帰って、今度は日本語の壁が立ちはだかりました。どちらも中途半端だったので、言葉で友達や人とのコミュニケーションを取る難しさを感じました。そんな中で私にとって外の世界とつながるコミュニケーション方法が音楽になりました。演奏することや曲を作ることが言葉の代わりでした」

 ギターを手に曲を作り始め、作詞の楽しさも感じるようになった。

「4小節くらいの短い曲で『ある雪の日に手で雪をすくったら、その手の中で雪が溶けていった』という情景描写を英語の歌詞にして、初めて曲を作りました。中学生になってレコーダーを買ってもらい、宅録を覚えるとデモを作るようになりました。初めは英語の歌詞が中心でしたが、高校生になって松本隆さんや呉田軽穂(松任谷由実)さんの曲に出合って日本の作詞家さんの歌を聴くようになりました。そして、『なんて日本の歌はきれいなんだろう』と気が付き、日本語でも歌詞を書くようになりました」

「2024年も世界中の人に私の音楽を届けていきたい」【写真:冨田味我】
「2024年も世界中の人に私の音楽を届けていきたい」【写真:冨田味我】

 12年に上京し、3年後の15年にミニアルバム『BLU』で念願のCDデビューを果たした。ブルースやロックを現代風にアレンジした独特の音楽性やギタリストとしての評価が高まり、国内外のロックフェスに多数出演。18年には、ユニバーサルミュージックからメジャーデビューを果たした。

「バイリンガルであるがゆえに、自分と言葉とのパイプが断絶している感覚が長らくありました。作詞、作曲をする中で、よりその乖離(かいり)を目の当たりにする機会が増え、大変悩まされました。そんな時に出会ったのが長岡亮介さんです。彼はPETROLZというご自身のバンドでも、浮雲という名で活動しているバンド、東京事変においても、歌詞において独特な日本語の使い方をしていて。ギタリストとしての魅力はもちろんですが、デビュー作でご一緒したいと思った一番の起因はそういったソングライティングのセンスを頼りにしたかったからです。ルーツミュージックを現代的に、自分らしく昇華するという意味でも、亮介さんとキャリアのスタートを切れたことは本当に感謝しています」

 上京して10年目にあたる2022年にコラボアルバム『QUILT(キルト)』を制作。自身にとっても節目となる作品だったと振り返る。

「細野晴臣さん、山崎まさよしさん、渡辺香津美さん、藤原さくらさん、長岡亮介さん、CHAIを始め、これまで仲良くさせていただいてきたミュージシャンの方々とコラボした曲を収録しました。この10年、いろんな音楽仲間とつながって、交流してきた足跡をCDに収められたことはすごく感慨深い出来事でした」

 11月にリリースした最新ミニアルバム『VOICE』は次の10年に向けての第一歩だ。

「10作目のアルバム『VOICE』は特にこれまでの中で一番、自分の心の中をさらけ出して歌詞にした作品です。どんなことでも良い時と、うまくいかないときがあると思いますが、いつだって私にとって本音を出せる一番の場所が音楽です。自分の心のやわらかい部分を誰にも汚されずに、音という絵筆で自由に描ける、安全地帯のような場所です」

『VOICE』は、米国のシンガー・ソングライター、キャメロン・ルーのソロ・ユニットGinger Rootとの共同プロデュース曲『Love is Beautiful with Ginger Root』をはじめ、自身で作り上げたポップな楽曲が多数収録されている。

「彼(キャメロン・ルー)は80年代の日本のカルチャーに影響を受けていて、インスタグラムでつながり、来日した際にスタジオに入って私が用意した曲をセッションしながら完成させました。4曲目の『Call My Name』は今回のアルバムを作るきっかけになった曲で、初めてストリングスのアレンジに挑戦しました。歌詞には『自分の存在を家族、友達、恋人など大切な人に認めてほしい』というメッセージを込めました」

「セルフラブ」(=自分を愛すること)は、Reiにとっても大きなテーマの1つだという。

「セルフラブについては作品を通してこれまでずっと大切に伝えてきました。私自身、小さい頃から見た目や声など自分の存在が好きになれなくて、朝起きて鏡で自分を見た時『入れ物(姿)の中に魂が閉じ込められている』という思いが昔からありました。そんな中でも、自分が作った作品だけは素直に『大好きだよ』って愛してあげることができました。生きていると自己犠牲が伴ってくる場面に直面することもありますが、『どんなことがあっても、自分を大切にする気持ちだけは忘れないでいてね』と、これからも曲を通して伝えていきたいです」

“至福の瞬間”も音楽にあり、『曲が誰かに届いた瞬間』だという。

「私は常に世界に1人しかいない誰かに向けて作品を作っています。それが誰かの心に届いた時が一番幸せです。たった1人でも、『この曲に救われた』とSNSにメッセージをいただけたら本当にうれしいんです」

 2021年には米の音楽レーベルのヴァーヴ・フォアキャスト・レコード、ファーストフルアルバム『REI』の英語詞バージョンを世界配信。その視線は海外に向いている。

「歴史あるニューヨークのレーベルから作品を出させていただき、コロナ禍になる前は、アメリカ、スペイン、フランスなどさまざまな国で公演も経験できたので、目標はいつかワールドツアーを行うことです。今はSNSで世界中の人たちと気軽につながって音楽を作れる時代なので、『海外との距離も近いな』と感じます。次は世界中の人に私の音楽を届けていきたいです」

□Rei(レイ) 幼少期をニューヨークで過ごし、4歳でクラシックギターを始める。5歳でブルースに出合い、ジャンルを超えた独自の音楽を作り始める。2015年、ファーストミニアルバム『BLU』をリリースし、国内外のフェスに多数出演。21年、ファーストフルアルバム『REI』が世界配信された。22年、Forbes JAPAN誌が発表した「世界を変える30歳未満30人の日本人」に選出。今夏、ギターメーカーのフェンダーとアーティスト・パートナーシップを結ぶ。イラストが得意で、アルバムのアートワークやホームページのデザインは自ら手掛けている。

次のページへ (2/2) 【写真】Reiが魅せたスゴ技のギタープレー
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