首が動かない、起き上がるのもつらい日々…“スターダムの逸材”林下詩美が経験した苦難の連続

2018年にスターダムでデビューし、東京スポーツ社制定プロレス大賞新人賞を獲得。その後の数々のタイトルやリーグ戦を制し、2021年には同大賞の女子プロレス大賞も獲得するなど、常にスターダムの中心地にいた林下詩美にとって、23年は非常に苦しい1年となった。タイトルに挑戦してもなかなか勝てない、リーダーを務めるユニット「Queen’s Quest」の不仲(のちに解消)、そして本人曰く「強さに自信があった」という首(頸椎)の負傷による欠場……。その林下が11.28後楽園ホール大会で復帰、その心境を聴いた。

2カ月ぶりの復帰戦は大歓声に包まれた【写真提供:スターダム】
2カ月ぶりの復帰戦は大歓声に包まれた【写真提供:スターダム】

「自分を見つめ直すため」に初の単独海外遠征へ

 2018年にスターダムでデビューし、東京スポーツ社制定プロレス大賞新人賞を獲得。その後の数々のタイトルやリーグ戦を制し、2021年には同大賞の女子プロレス大賞も獲得するなど、常にスターダムの中心地にいた林下詩美にとって、23年は非常に苦しい1年となった。タイトルに挑戦してもなかなか勝てない、リーダーを務めるユニット「Queen’s Quest」の不仲(のちに解消)、そして本人曰く「強さに自信があった」という首(頸椎)の負傷による欠場……。その林下が11.28後楽園ホール大会で復帰、その心境を聴いた。(取材・文=橋場了吾)

 11.28は林下にとって2か月ぶりの復帰戦となった。Queen’s Questの上谷沙弥、AZMとタッグを組み、星来芽依&鈴季すず&メーガン・ベーン組との6人タッグ戦。タッグチーム「AphroditE(アフロディーテ)」のパートナーである上谷も4カ月ぶりの復帰戦だったこともあり、林下が上谷に戦いの”勘”を取り戻す舞台を譲ったように見えた。

「上谷の方が不在の時間が長かったので、私の中では『上谷の復帰戦』という思いが強かったですね。それでいっぱい頑張ってもらいました(笑)。上谷が復帰したら、すずと当たりたいだろうなと思っていたので、リング上は二人に任せて、私はメーガンとやり合おうという意識がありました」

 メーガンのスターダム初登場は、上谷が試合中に怪我をしてしまった7.9大田区総合体育館大会。その試合後に、林下とともに現れたのがメーガンだった。そのメーガン、林下と組むわけでもなく、先日開催された『第13回 ゴッデス・オブ・スターダム ~タッグリーグ~』では舞華(Donna del Mondo)と組み「Divine Kingdom」を結成、即席タッグながら優勝した。林下はポイントポイントで外国人選手に敗れ当時の王座を落としていることもあり、外国人選手は苦手なのかと聴いてみると……。

「日本人選手と比較すると、想像を超えた動きをしてくる選手が多いように思います。トリッキーな動きも多いですし力も強い……私はパワーファイターだという自負はありますが、外国人選手の力には手を焼きましたね」

 その林下、今年の7月には「自分を見つめ直す旅」として、初の単独海外遠征を経験した。GCWやROHなどを精力的にサーキットし、外国人選手と多く対戦してきた。

「スターダムで5年間やってきて、他団体に出場したのは舞華と対戦したJTO(2020.1.14後楽園ホール)のみだったので、ほぼスターダムしか知らなかったんです。特にGCWはハードコアが主体の団体なので全然雰囲気も違って、私の対応力が試されましたね。でも対戦相手の中には日本の団体に来たことのある選手もいて、いい試合ができたと思います」

怪我をしたときの状況を語る林下詩美【写真:橋場了吾】
怪我をしたときの状況を語る林下詩美【写真:橋場了吾】

痛みでひとりでは何もできない…プロレスへの熱が完全に冷めた

 帰国後、上半期のもどかしさを取り戻すためにも、夏のシングルリーグ戦『5★STAR GP 2023』で結果を残したかったところだったが頸椎ヘルニアを発症。途中棄権で不戦敗となりまさかの負け越しとなってしまう。

「欠場する2週間前くらいは、寝違いのような痛みでした。試合をするたびに『痛いな』という感じで…首の可動域が狭くなっているけれども、受け身は取れました。それで移動日だったと思うんですが、朝起きたら起き上がるのが辛くて辛くて……。リングで練習しようと思っても、人を担ぐことすらできないんです。もちろん、受け身もロープワークもできなくて、エプロンから地面に降りるまでも5分くらいかかってしまう……これでは試合ができないということで欠場することになりました」

 最初は3大会の欠場が発表されたが、結果的には2か月の休養期間を要した怪我。この2か月、林下はどのようにプロレスと向き合っていたのか。

「ひとりでは日常生活すら送れないので、お姉ちゃんの家にいることにしました。寝ることも起き上がることも、ひとりではできないんです。寝るときも起きるときも、お姉ちゃんの助けを借りて……ご飯を食べるときも、遠征の移動中に使う首枕を壁にあてて、もたれかかって食べるような感じで。呼ばれても振り返ることもできませんでした。怪我がわかってすぐは、アメリカ遠征もありちょっと頑張りすぎたのかなと思って、凄く悔しかったですけど神様がくれたお休みかなと。でも横になって携帯電話を見るだけの生活が続くと、何事にもやる気がなくなってしまい、プロレスの熱が完全に冷めてしまった”廃人”のような時間でした」

 しかし林下は復帰。12・2愛知・ドルフィンズアリーナ大会では舞華&ベーガン組を破り、上谷とともにゴッデス・オブ・スターダム王座を3年ぶりに獲得した。

「私が欠場している間も、スターダムではビッグマッチもありましたしSNSで見てはいました。でも熱は冷めたままで。少しずつ体が動くようになってきてからですかね、会場にも行くようになって、ファン目線で『スターダム凄いな、プロレスって面白いな』という感覚が戻ってきました。そうすると『この試合は私が出ていたはずなのにな』という気持ちも戻ってきて、早くリングに立ちたいと思うようになりました」

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