【映画とプロレス #19】仏映画「レ・ミゼラブル」から連想したアリと猪木の物語
2月に日本公開され、カンヌ国際映画祭審査員賞受賞、アカデミー賞外国語作品賞ノミネートのフランス映画「レ・ミゼラブル」(2019年)は、文豪ヴィクトル・ユゴー原作の同名小説や舞台の映画化でもなければ、ミュージカルのリメイクでもない。が、タイトルはそのまま「レ・ミゼラブル」。内容は完全な別物ながら、小説とまったく同じパリ郊外の街を舞台にしているからだ。現在、この地域にはアフリカ系移民が多く暮らし、貧困をはじめ宗教や人種の違い、ギャングたちの縄張り争いによって常に一触即発の緊張感に満ちているという。その緊迫状態が警察と地元住民の間に起きたある事件をきっかけに爆発、猛スピードで地域全体を呑み込み、悲劇的暴動に発展してしまうのである。
仏映画「レ・ミゼラブル」のシーンに出てくるモハメド・アリのポスター
2月に日本公開され、カンヌ国際映画祭審査員賞受賞、アカデミー賞外国語作品賞ノミネートのフランス映画「レ・ミゼラブル」(2019年)は、文豪ヴィクトル・ユゴー原作の同名小説や舞台の映画化でもなければ、ミュージカルのリメイクでもない。が、タイトルはそのまま「レ・ミゼラブル」。内容は完全な別物ながら、小説とまったく同じパリ郊外の街を舞台にしているからだ。現在、この地域にはアフリカ系移民が多く暮らし、貧困をはじめ宗教や人種の違い、ギャングたちの縄張り争いによって常に一触即発の緊張感に満ちているという。その緊迫状態が警察と地元住民の間に起きたある事件をきっかけに爆発、猛スピードで地域全体を呑み込み、悲劇的暴動に発展してしまうのである。
本編の中に、サラーというムスリムの人たちが慕うリーダー的人物が登場する。彼が経営するアフリカ料理レストラン。その店名が気になった。地域、言語によってスペルは異なるようだが、「ボンバイエ」「ボマイエ」という読み方が想像できる。その通り、彼はアフリカからの移民で、店名は史上最高のヘビー級プロボクサー、モハメド・アリからインスパイアされたものだった。店内には「モハメド・アリVSジョージ・フォアマン」のポスターが貼られている。74年10月30日、ザイール(現コンゴ)においてアリが圧倒的不利の予想を覆しヘビー級王座を獲得、“キンシャサの奇跡”と呼ばれた名勝負だ。
モハメド・アリからつながる映画「アリ/ザ・グレーテスト」
ここからさらに連想されるのが、アントニオ猪木VSモハメド・アリの「格闘技世界一決定戦」だろう。1976年6月26日、日本武道館で本当に実現した、まさかのプロレスVSボクシング。当時は酷評の嵐も吹き荒れたが、真相が明らかになるにつれて見直され、評価が上昇。試合後には裁判沙汰になったものの両陣営が和解にこぎ着け、アリが猪木にテーマ曲「アリ・ボンバイエ」を贈ったのは有名な後日談だ。
この曲は、映画「アリ/ザ・グレーテスト」(77年)のサウンドトラックに収録された、れっきとした映画音楽である。作曲したのは「マホガニー物語」(75年)で映画界に進出し、アカデミー歌曲賞にノミネートされた作曲家のマイケル・マッサー。いまでは猪木とイコールで結ばれる「ボンバイエ」のメロディーが、劇中ではさまざまな箇所で使用されている。悲しい場面やトレーニングシーン、さらには実際の映像をそのまま使用した試合場面でもおなじみのメロディーがバージョンを変えながら聞こえてくる。ひとつの作品でここまで使われていることにむしろ驚くくらい。あの旋律が、アリの喜怒哀楽をストレートに表現しているのである。
しかも、アリを演じるのはモハメド・アリ本人というからさらなる驚きだ。映画はカシアス・クレイJr(アリ)が60年のローマ・オリンピックで金メダルを獲得したところからスタートする。ゴールドメダリストとして帰国したアリだが、出発前と変わらぬ人種差別にあい、怒りと悲しみでメダルを川に投げ捨ててしまう。そして彼は、プロとして偏見と闘うことを決意する。自身を「グレーテスト」と呼び、自信満々のトラッシュトーク(毒舌)を吐きまくることで自らに後戻りできない状態を作り上げていったのだ。
若き日のアリは俳優が演じているのだが、開始から15分ほどで実際の試合映像が使われる。ここで初めて「ボンバイエ」のメロディーがかかり、このシーンが明けると本人が本人役で登場する。しかも今作では名だたる豪華俳優たちと堂々の共演を果たすのだ。アーネスト・ボーグナイン(「ポセイドン・アドベンチャー」72年)、ジョン・マーレー(「ゴッドファーザー」72年)、ロバート・デュバル(「地獄の黙示録」79年)、ベン・ジョンソン(「ワイルドバンチ」69年)、ジェームズ・アール・ジョーンズ(「スター・ウォーズ」77年からのダース・ベイダーの声)、ポール・ウィンフィールド(「合衆国最後の日」77年)といった、実にそうそうたるメンバーなのである。