大阪・関西万博まで500日 催事企画Pの小橋賢児氏、開催意義を問う声に「知恵の結集を見て」

大阪市の人工島・夢洲で開催の大阪・関西万博(2025年4月13日~10月13日)が、11月30日で開幕まで残り500日に迫った。2005年の愛・地球博(愛知県内2会場)に続いて20年ぶりの日本開催の国際博覧会。催事企画プロデューサーはクリエイティブディレクターの小橋賢児氏(44)が務める。俳優業休止から15年。国内後で数々のイベントを手掛け、2021年には東京2020パラリンピック閉会式のショーを総合演出した。直後に今回の大役を依頼された小橋氏に、大阪・関西万博の魅力と開催の意義を聞いた。

小橋賢児氏【写真:山口比佐夫】
小橋賢児氏【写真:山口比佐夫】

東京2020パラリンピック閉会式のショー総合演出に続く大役

 大阪市の人工島・夢洲で開催の大阪・関西万博(2025年4月13日~10月13日)が、11月30日で開幕まで残り500日に迫った。2005年の愛・地球博(愛知県内2会場)に続いて20年ぶりの日本開催の国際博覧会。催事企画プロデューサーはクリエイティブディレクターの小橋賢児氏(44)が務める。俳優業休止から15年。国内後で数々のイベントを手掛け、2021年には東京2020パラリンピック閉会式のショーを総合演出した。直後に今回の大役を依頼された小橋氏に、大阪・関西万博の魅力と開催の意義を聞いた。(取材・文=柳田通斉)

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――東京パラリンピック閉会式のショーディレクターに続く大役。依頼を受けた際の感想は。

「パラリンピックの時と同じで、最初にお話を聞いた際に鳥肌が立ちました。ただ、パラリンピックが終わって1か月も経っていなかった時期だったので、『国主導の大事業に約4年も携わることになる。描いていた人生設計が変わる』と考え、少しだけ悩みました。でも、『鳥肌はウソをつかない。肉体の感覚を信じよう』と思い、お受けしました。」

――万博における催事には、開会式などの「公式行事」や博覧会催事の中核として、博覧会テーマを体現する「主催者催事」、公式参加者、省庁、自治体、企業、団体、一般の方々などの参加による「参加催事」があります。催事企画プロデューサーは、これら催事を統括する役割だと思います。こうした仕事の経験はありますか。

「管理、管轄も含めて初めてです。でも、人間は常に挑戦していた方がいい。その瞬間にやれることを楽しんだ方がいいし、常に気づいたら何かがやって来る行運流水(空行く雲や流れる水のように、深く物事に執着しないで自然の成り行きで行動する例え)の境地でいたいと思っています。国主導でやる事業で、一筋縄にはいないだろうけど、自分が変化していくことが面白いと思っています。人生は現実が変わっていく旅ですから」

――催事にはそれぞれのアイデアや狙いがあると思いますが、アドバイスもしていくわけですね。

「そうですね。ただ、全部を1人でやるのは難しいので、チームで協力し合いながらになります」

――日々、会議ですか。

「地味な打ち合わせの積み重ねです。大阪の方が多いので、圧倒的にリモート会議が多いですね。常に30人、たまにプラス50人との打ち合わせになったりします」

――国の事業ゆえに、国(行政府)や自治体、民間企業から出向された方々とも接しているのでしょうか。

「はい。数年間、自分の職場を離れて挑戦している方もいます。とても情熱を持ってやっていただいています。慣れない現場で、想像が追いつかない状況になっても切磋琢磨し、知恵を振り絞っている。そんな姿を見ていると、僕は国民全体でやっていく祭りのような感覚になります。全員がプロでないからこそ生まれるものがあるって。そういう奇跡の良さも信じたいです」

――「プロではないからこそできる」というマインドは、「健常者、障がい者」の境なく繰り広げたパラリンピック閉会式のショーでも印象付けました。

「そのマインドは今もすごくあります。僕の仕事はクリエイティブを通じて、人々に気付きの場を与えること。今回についても、来場されるお客さんだけが気付けばいいのではなく、例え年齢の高い出向者の方々であっても目の前で起きている現象に気付き、輝いてほしいと思っています。さまざまな企業や団体から、右も左もわからない状態で入って来て、失敗することもある。単身赴任者もいる。そんな中で万博という祭りを作りながら、自分の可能性を感じて輝いてほしい。そういったことがエネルギーになり、来場者、お客さまに通じていくと思っています」

3月14日、大阪・関西万博の説明会で熱弁する小橋賢児氏。左には公式キャラクター・ミャクミャク
3月14日、大阪・関西万博の説明会で熱弁する小橋賢児氏。左には公式キャラクター・ミャクミャク

「体験者が増えて初めて理解される」「子どもたちも存分に楽しめる」

――大阪・関西万博の開幕まで残り500日。開催にリアリティーを感じてない国民も多いと思いますが。

「万博は日本では20年ぶりの開催で、なじみがない方も多いと思います。選手を応援するオリンピック、パラリンピックとも違う。応援する対象がないので、事前に想像することが難しい面はあります」

――その状況で、今、伝えたいことは。

「万博は圧倒的な体験コンテンツです。実際に足を運んでいただき、多様な国々のクリエーターによる知恵の結集を見ていただき、多角的な体験をしてほしいです。固定概念を変え、人生観を広げてくれることでしょう。また、国々のお祭りでもあるので、日本にいながら世界を一周しているような体験ができると思います。僕はドバイ万博(21年10月1日~22年3月31日)に行っていますが、5日間いても全部を回れなかった程の規模でした。季節ごとにイベントが変わるし、パビリオン内でも変化がある。なので、現地にいる日本人は『何度行ったか分からない。何度でも行くべき』と話していました。毎回発見があるし、行った人がこのすごさを伝えて、次の人を連れて行く流れになればと思っています」

――1970年の大阪万博で展示されたワイヤレステレホンは、後のPHSや携帯電話の開発に生かされました。そして、今回の大阪・関西万博では、会場内ポートおよび、会場外ポートをつなぐ2地点間での“空飛ぶクルマ”の運航実施を目指しています。その位置付けとは。

「文字通り、未来社会の実験場ですよね。主催者、グローバル側が準備するコンテンツもありますし、企業や個人が発表していくものの中に『未来への原石』があるはずです。でも、僕自身は物よりも、この空間で交わされる“心の部分”こそが大事で、それらが人々を突き動かすと思っています。ただ、この先の約2年でも何が起きるか分からない。催事も人々の心に合わせて変化するべきだと考えています」

――準備してきた催事を状況に応じて変えることもあるということですね。

「例えば、ドバイ万博のウクライナ館はロシアによる侵攻が始まったことで、何年も準備していたものを取り止めて来場者に付せんを配布しました。そして、館は世界中の平和を願うメッセージに覆われました。つまり、世の中を見ながら、どう対応できるか。僕たちが常識的なものにとらわれず、感動の場を与え、心を打つことができるのか、気付きの場を与えられるのかだと思います」

――今年も残り1か月。来年は催事企画プロデューサーとして、どんな年になりますか。

「準備フェーズから実施フェーズになる年。密度は濃くなり、チームも本領を発揮できると思います」

――万博開催に向けては、会場建設費の増額で厳しい目を向けられている現実もありますが。

「僕の担当は催事なので、そこにとやかく言える立場ではありません。ただ、大阪・関西万博が開幕し、会場での体験者が増えていって初めて開催の意義を理解されると思っています。パリでエッフェル塔が建築された時も当時は『あんなものを』と言われていたのに、今では長くフランスの象徴として愛されています。(大阪・関西万博の)公式キャラクターのミャクミャクも発表時はいろいろと言われましたが、フラットな目線の子どもには大人気です。万博も、これからを生きる子どもたちも存分に楽しめると思っています」

――小橋さんは27歳で俳優業を休止し、体調を崩して「どん底」を経験した後、イベントプロデュースの仕事を始めています。イベントを手掛けることで大事にしているマインドとは。

「人生の歓喜、内から出る喜びを知ってほしい。そういうところにあります。70年の大阪万博で岡本太郎さんが、祭りを生み出す装置として“太陽の塔”を造られました。祭りとは非日常で歓喜を生み出す場であり、世界で分断、戦争が起きている今だからこそ、人々の心を開く祭りが必要だと思っています。そして、『人生をクリエイトしてほしい』『自分の気付きの場にしてほしい』と願っています」

――小橋さんは国内外の都市開発にも携わりながらですが、大阪・関西万博の仕事をされています。家族と過ごす時間はありますか。

「そこはすごく大事にしています。息子は瑛人(えいと)という名前ですが、クリエイトのエイトからつけています。『8は(横に倒すと)無限なので、人生を無限の可能性でクリエイトしてほしい』。そういう意味合いを伝えていて、本人もちゃんと理解しています。ちなみに大阪・関西万博が開幕する25年に8歳になるので、『8歳になったらパパの万博があるんだよね』と楽しみにしています。ミャクミャクの絵もよく描いていて、それが今、僕のスマホ待ち受け画面になっています(笑)。なので、家族のためにもこの仕事をやり遂げようと思っています」

□小橋賢児(こはし・けんじ) 1979年8月19日、東京都生まれ。88年に子役としてデビューし、NHK連続テレビ小説『ちゅらさん』など数多くのドラマ、映画、舞台作品に出演し、2007年に俳優活動を休止。米国留学、世界中を旅した後、映画、イベント制作を開始。12年、映画『DON’T STOP!』で監督デビュー。その後、大型イベント「ULTRA JAPAN」のクリエイティブディレクターや「STAR ISLAND」の総合プロデューサーを歴任。日本の花火にテクノロジーやパフォーマンスを融合した「STAR ISLAND」は、サウジアラビア建国記念日に同国へ招致。シンガポールでのカウントダウンイベントも手掛け、19年の東京モーターショーでは、ドローンを使用した夜空のスペクタルショー「CONTACT」を総合プロデュース。21年開催の東京パラリンピックでは閉会式のショーディレクター(総合演出)を務めた。

〇…2025年大阪・関西万博の前売チケットの販売が、11月30日から始まった。会期中に販売される1日券(大人7500円)は、前売販売で購入すると、2割引の大人6000円(小人1500円)。開幕から2週間後まで使える「開幕券」は大人4000円(小人1000円)で、開幕から約3か月後まで使える「前期券」は5000円(小人1200円)で購入が可能。会期中、何度でも来場できる「通期パス」は、大人3万円(小人7000円)で販売されている。詳細は公式サイトのチケットインフォメーションに記されている。

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