5mからダイブ→大怪我から4か月、帰ってきた“不死鳥”上谷沙弥がリング外で感じた「自分にはプロレスしかない」

女子プロレス界において、超難易度のフェニックス・スプラッシュを唯一放つことができる上谷沙弥。いつしか“不死鳥”と呼ばれるようになった彼女は、2019年にスターダムでプロレスデビューを果たし、20年にはゴッデス・オブ・スターダム王座(タッグ王座)を所属ユニットQueen’s Questの林下詩美と獲得。21年には初夏のスターダムのシングル最強を決めるシンデレラトーナメントを制覇し、その年末には中野たむを破り”白いベルト”ワンダー・オブ・スターダム王座を獲得すると、23年4月まで同王座を保持し、15回防衛という新記録を打ち立てた。順風満帆に見えたプロレス人生だが、ワンダー王者時代にアクシデントが起こる。今年7月、自身が試合中にけがをし初の長期欠場。その上谷がついに11月28日の東京・後楽園ホール大会で復帰、「不死鳥」がリングに戻ってくる。

11.28後楽園ホール大会で復帰する上谷沙弥【写真:スターダム提供】
11.28後楽園ホール大会で復帰する上谷沙弥【写真:スターダム提供】

気合が入りすぎて5メートルの高さからダイブ…左肘を脱臼してしまう

 女子プロレス界において、超難易度のフェニックス・スプラッシュを唯一放つことができる上谷沙弥。いつしか“不死鳥”と呼ばれるようになった彼女は、2019年にスターダムでプロレスデビューを果たし、20年にはゴッデス・オブ・スターダム王座(タッグ王座)を所属ユニットQueen’s Questの林下詩美と獲得。21年には初夏のスターダムのシングル最強を決めるシンデレラトーナメントを制覇し、その年末には中野たむを破り”白いベルト”ワンダー・オブ・スターダム王座を獲得すると、23年4月まで同王座を保持し、15回防衛という新記録を打ち立てた。順風満帆に見えたプロレス人生だが、ワンダー王者時代にアクシデントが起こる。今年7月、自身が試合中にけがをし初の長期欠場。その上谷がついに11月28日の東京・後楽園ホール大会で復帰、「不死鳥」がリングに戻ってくる。

 2023年は「上谷沙弥の年」になるはずだった。しかし結果は「波乱万丈な1年になっちゃいましたね」と上谷は言う。今年7月23日に東京・大田区総合体育館で開幕した夏の最強決定戦である『5 STAR GP 2023』の初戦で、プロレス界における師匠ともいえる中野たむ相手に5メートルの高さからプランチャを敢行。着地した際に左手で体をかばったことから、上谷は左ひじの脱臼および靭帯損傷によりレフェリーストップ負けを喫してしまったのだ。

「4月に横浜アリーナで白いベルトを落としてから、赤いベルト(ワールド・オブ・スターダム王座)に照準を合わせた直後のことだったので……。5 STARは赤いベルトへの挑戦権を得る一番の近道ですし、しかも開幕戦・メインイベントで相手が中野たむ(当時のワールド王者)だったこともあって、気合が入り過ぎてしまいましたね」

 たむと一緒にアイドル活動をしていた上谷は、一番近かった先輩に対し容赦ない攻撃を仕掛けることがある。それは相手を信頼しているからこそできることだ。

「バックステージでプランチャをやられたので、それでスイッチが入ってしまって……試合前から『狂った試合をしよう』と高め合ってきた中で、あの高さから飛びました。ただ、着地するときに手から着くクセがあって、これまでにない高さで衝撃が凄かった分、左肘に負担がかかってしまいました。明らかに違う方向に曲がっていたので、初めて試合中に『これは無理かもしれない』と思いましたが、試合は続行したいとレフェリーに伝えて。左肘が外れて動けなくなった直後でも、お客さんの方々の声援は聴こえるんですよ。応援してくれている方々のために、そして赤いベルトへ挑戦するために、ここで戦うことをやめてしまったらプロレスラーとしてのプライドが許さないという気持ちでした、でも、できるはずもなく、レフェリーが試合を止めて、私は担架で運ばれてしまいました」

激動の2023年を振り返ってくれた【写真:橋場了吾】
激動の2023年を振り返ってくれた【写真:橋場了吾】

自分の生きる理由が、リングの上にあるから戻ってくる

 幸いにも靭帯の断裂はなく、手術は回避。ただ、デビュー4年目にして上谷は4か月という長期欠場を経験することになった。

「担架で運ばれて、処置をしてもらって少し落ち着いてから『自分はプロレスラーとして情けない』と口にしていたんです。大勢のお客さんが期待してくれている中、自分の売りである空中技でけがをしてしまったことで『自分は何をやっているんだ』と……試合が終わって自分の足で控室に戻ることができなかったというのは、情けなかったですね」

 デビューしてから、ゴッデス王座、ワンダー王座を獲得し、シンデレラトーナメントも制覇。上谷がいう「駆け抜けた」と表現がぴったりの4年弱だったわけだが、不死鳥は羽根を休めることとなった。

「日々凄いプレッシャーを感じながら生活してきたのは事実で、一旦プロレスから離れようと思いました。SNSもログアウトして、スターダムの試合も見ないようにして。いろいろな情報から距離を置いて……トレーニングもできなかったですし、私生活でもご飯を食べるのも一苦労で。とはいえ、プロレスから離れれば離れるほど、『私はプロレスが好きなんだ』と気持ちが湧いてきて、1か月くらいたってからトレーニングを再開して、復帰に向けて動き出しました」

 大けがをしてもリングに戻ってくるレスラーは少なくない。ときに「リングには魔力がある」といわれるが、上谷の場合はどうだったのだろうか。

「一番は、待ってくれているお客さんがいるということです。お客さんの声、期待に応えたい。それと、自分にはプロレスしかないということですね。戦うことで、自分の生きている意義を感じるんです。自分の生きる理由がリングの上にあるから、またリングに戻りたいと思います」

 スターダムは11月22日に人事異動を発表し、新たな体制で再始動することとなった。23年はけがで欠場する選手が相次ぎ、会場のブッキングでもトラブルが発生した。女子プロレス業界のけん引車として、このような状況を改善しようということなのだろう。

「けがや不調を抱えながら試合をしている選手はいます。そのような状況で限界が来てしまい、欠場者が続いてしまっていると思います。会社の急成長に合わせてビッグマッチが月に2~3回あって、その間に長期遠征が入ることもあり、移動距離も長くなっていましたし。常に体のどこかが痛い状態でタイトルマッチやビッグマッチが行われている状況なので、いつかは欠場しなくてはならないようなけがをしないわけがないという状況だったと思います」

次のページへ (2/2) 【写真】ギャルピを決める上谷沙弥
1 2
あなたの“気になる”を教えてください