『おちょやん』の“好演”が転機に 東野絢香、『正欲』で長編映画初出演「新たな自分を発見できた」

NHK連続テレビ小説『おちょやん』(2020~21年)で注目を浴びた俳優の東野絢香(26)が『正欲』(10日公開、監督・岸善幸)で長編映画初出演を果たした。朝井リョウ氏の同名ベストセラー小説が原作で、家庭環境、性的指向などさまざまな背景を持つ5人が交錯していく群像劇。メインキャストを演じた東野が朝ドラ、本作への思いを語った。

映画『正欲』で学園祭の実行委員を務める大学生を熱演した東野絢香【写真:荒川祐史】
映画『正欲』で学園祭の実行委員を務める大学生を熱演した東野絢香【写真:荒川祐史】

10日公開『正欲』でメインキャスト抜てき

 NHK連続テレビ小説『おちょやん』(2020~21年)で注目を浴びた俳優の東野絢香(26)が『正欲』(10日公開、監督・岸善幸)で長編映画初出演を果たした。朝井リョウ氏の同名ベストセラー小説が原作で、家庭環境、性的指向などさまざまな背景を持つ5人が交錯していく群像劇。メインキャストを演じた東野が朝ドラ、本作への思いを語った。(取材・文=平辻哲也)

 東野は幼少期から俳優に憧れ、杉咲花(26)主演のNHK連続テレビ小説『おちょやん』で主要キャストのひとり、芝居茶屋「岡安」の一人娘・みつえ役を演じた。大阪大空襲後、遺体安置所で義父母と悲しみの対面をする場面では視聴者の涙を誘った。映画初出演もこの好演がプロデューサーの目に止まったことも大きい。

「『おちょやん』自体思い入れが深く、それを観ていただいていたのがうれしかったです。あのシーンは年明けからの撮影だったのですが、戦争や大切な人の死など、経験したことのない出来事が多く、年末の家で一人で向き合う時間を持ち、戦争や死を自分なりに考えながら演技に取り組みました」

『正欲』は生きづらさを感じる境遇、性的指向が異なる5人の人々の運命がやがて交錯していく物語。稲垣吾郎が家族の距離に悩む検事、新垣結衣が孤独を抱える寝具店員、磯村勇斗がとある指向を持つ会社員を演じる。

 東野が演じたのは、大学生・神戸八重子。学園祭の実行委員を務めており、昨年までのミス・ミスターコンテストに代わって、多様性を称えるダイバーシティフェスの開催を企画。その中で出会ったダンスサークルの諸橋大也(佐藤寛太)に引かれていく。

「原作には1ページめくるごとに重力を感じていくような感覚がありました。八重子は複雑な想い、傷を持っているんですが、登場人物の中では普遍的な部分も持っています。どこかで一つの分岐点が違えば、別の幸せを得て生きていた未来もあったんだろうなと思って、全く別の人の話とは感じませんでした」

 東野自身にも、八重子が持つ不安、恐怖心は理解できるという。

「八重子とぴったり重なるわけではないんですけど、夜道が怖いなどの日常的な不安は重なりますし、そうしたものはある程度の人が感じているものだと思っています。監督とは読み合わせの時点で、人との関わりが身体にどんな影響を与えるかなど、いろんな話をしました」と振り返る。

 撮影では、台本を読んだ時とは違った感情が湧き出てきた。特に印象深いのは後半、大学の教室で大也に向かって、感情を爆発させるシーンだ。

「自分の力でどう表現できるのかを考えていましたが、台本と向き合っている段階では難しいと思いました。本番では共演者、スタッフに助けて頂き、いろんなものがそろったような感覚があって、不思議な体験をしました」

 一連の感情の流れはワンカットで撮りきったそうで、「監督からは『止めてほしかったら言ってほしい』と言われ、1度だけ止めさせてもらいました。監督は役者に寄り添い、一つ一つ確認して丁寧に寄り添って進めてくださり、とても包容力のある方だと感じました」と感謝する。

役を演じることへの思いを告白【写真:荒川祐史】
役を演じることへの思いを告白【写真:荒川祐史】

完成作に手応え「新たな自分を発見できた」

 共演の佐藤とは撮影後の方が話す機会が多かったという。

「撮影中はそのまま役としての姿勢を崩さず、一定の距離を保たれていましたが、撮影後に話すと、役とは対照的で明るくポップな方でした。素顔を知ったことで、ますます魅力に気づきました」

 完成作は新鮮な気持ちで観ることができた。

「自分以外のシーンは初めて拝見しましたが、稲垣さん、新垣さん、磯村さんの演技に純粋に感動しました。自分が出ているシーンはあまり覚えていない部分が多く、新たな自分を発見できた感じがしました。映画全体が美しくて、明日への希望を感じさせる作品だと思いました」

 幼稚園の頃に「将来の夢は女優」と書いたという東野。中学生ぐらいから本格的にオーディションに応募し、18歳の時に上京し、現在の所属事務所が運営する俳優養成所でレッスンを積んだ。当初は舞台を中心に出演し、『おちょやん』で大役をつかんだのが転機になった。

 撮影時、杉咲が言ってくれた言葉は今も忘れがたい。

「杉咲さんが『あなたの目を見ているだけで泣けてくる』と言ってくれたことがあります。その言葉は自信を与えてくれました。演技では、役になりきるというよりも、共演者から受け取るエネルギーが大きい気がします。共演者からの言葉や感情を大切にし、その影響を受けて役に対して自然に演じるよう心がけています」

 映画初出演をきっかけに、今後の活躍も期待される東野。具体的な目標を聞くと、「よりたくさんの方に見ていただけるものに出演したい。ヒロインができたら……」と少し恥ずかしそうに口にする。「人生の経験や価値観を深め、それをお芝居の中で表現できたら幸せだと思っています。私にとって重要なのは役の内容やメッセージを大切に演じること。どの作品でも全力で取り組んでいます」。

 『正欲』では東京国際映画祭の華々しいレッドカーペットも初体験。「本当にすてきな作品で、すてきな経験ができて、本当に夢みたいというか、実感がわかないんです」と劇中の八重子では見せない笑顔を弾けさせた東野。その夢は、まだ始まったばかりだ。

□東野絢香(ひがしの・あやか)1997年11月9日、大阪府出身。俳優養成・演技研究所のトライストーン・アクティングラボで学び、2018年に映像産業振興機構(VIPO)主催のアクターズセミナー賞優秀賞を受賞。NHK連続テレビ小説『おちょやん』(2020~21年)で主要キャストのひとりである芝居茶屋「岡安」の一人娘みつえ役を演じて注目を浴びる。主な出演作は、テレビドラマ『じゃない方の彼女』(21/TX)、『メンタル強め美女白川さん』(22/TX)、『六本木クラス』(22/EX)、『CODE-願いの代償-』(23/YTV・NTV)、舞台では『獣の柱』(19/作・演出:前川知大)、『掬う』(19/作・演出:山田佳奈)、『リボルバー~誰が【ゴッホ】を撃ち抜いたんだ?~』(21/演出:行定勲)、『温暖化の秋-hot autumn-』(22/作・演出:山内ケンジ)、『メルセデス・アイス MERCEDES ICE』(23/演出:白井晃)など。

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