鈴木千裕、「ハーフ」ゆえに受けた容姿差別「鼻削りたい」 心支えた父の教え「自分を守れるのは自分」

24歳の鈴木千裕(クロスポイント吉祥寺)は11月4日に異国の地・アゼルバイジャンで開催される格闘技イベント「RIZIN LANDMARK 7」(ABEMAで生配信)にてヴガール・ケラモフ(アゼルバイジャン)の持つRIZINフェザー級タイトルに挑戦する。1年前とは全く違う景色を見ている鈴木に現在のコンディションや激動の2023年、さらには幼少期の苦い思い出についても話を聞いた。(取材・文=島田将斗)

練習三昧の鈴木千裕【写真:ENCOUNT編集部】
練習三昧の鈴木千裕【写真:ENCOUNT編集部】

4部練でオーバーワークに「体は痛いし、もう力が入らない」

 24歳の鈴木千裕(クロスポイント吉祥寺)は11月4日に異国の地・アゼルバイジャンで開催される格闘技イベント「RIZIN LANDMARK 7」(ABEMAで生配信)にてヴガール・ケラモフ(アゼルバイジャン)の持つRIZINフェザー級タイトルに挑戦する。1年前とは全く違う景色を見ている鈴木に現在のコンディションや激動の2023年、さらには幼少期の苦い思い出についても話を聞いた。(取材・文=島田将斗)

「外国人の力を持った日本人なので!」――。約1年前のインタビューでフェザー級の王者にケラモフがなることを予想し、その王者(ケラモフ)を倒せるのは外国の血が入った自分であると豪語した。しかし「外国人の力を持った」ゆえに「整形したい」と容姿に悩んだ時期もあった。

 2021年9月にRIZINデビュー。スタートは昇侍相手に1R・TKO負け。どん底からのスタートだったが、そこから立て直して現在は6連勝中だ。

「とにかくいっぱい練習しました。他の格闘家は格闘技以外のことをしている時間が多いんですよ。例えば旅行に行ったり、息抜きが非常に多い。試合後は特にそうしていますけど、僕はその時間がなかった。みんながサボってる間に練習。友達と遊ぶのはこの1年ほぼなかった。本当にみんなの倍練習してという感じです」

 少年誌系漫画の主人公のような生活だ。しかし、試合数週間前のこのタイミングだと、さすがに疲れが見え隠れしている。覇気がいつもよりもなかった。

「それこそ昨日は4部練でした(笑)。朝の7時30分から1時間の階段ダッシュ。10時から11時までボクシング練習。午後2時30分からの3時間はキックボクシングです。そして夜9時から1時間30分はレスリングをして帰宅しました」

 オーバーワークという概念はないのか。鈴木は「いまがそうかもしれないです」と苦笑いする。

「体は痛いし、もう力が入らないです。普段反応できているものに反応できなくなるんです。例えばレスリングにしても、普段だったら崩されてからの修正が速いのですが、崩されてから戻るまでの認識が遅れますね。自分でもびっくりするほど反応が遅れます。他には食欲がなくなったり、短気になります(笑)。少しきつめに言われるとムカついたりしちゃいますね」

 この1年どんな心境でやってきたのか。「いやー大変でしたよ」と振り返る。

「とにかく人のためにやっていないということに気が付きました。俺は俺自身のためにやってる。自分のためにやった結果、人のために変わるって分かりました。だから自分のために練習して、自分のために試合をして勝って、ファンのためになるのかなと。例えば何か問題を指摘されても自分が選んだ人生で俺が決めたことなので後悔はないですし、何か言われても『俺の人生だから関係ねぇ』って感じでやるようにしています」

 今年6月にも王座認定戦(王者だったクレベル・コイケが体重超過で王座剥奪のため)を経験。ベルトが絡む試合を半年の間に2度行うことになる。鈴木は7月、ベラトール王者のパトリシオ・ピットブルに1R・KO勝ち。世界を驚かせチャンスを引き寄せた。RIZIN榊原信行CEOからは「観客のハートをわしづかみにする試合」と評価され、この一戦が組まれた。パトリシオ戦は本人からしても転機だったという。

「僕自身を覚醒させる試合でした。どうすれば勝てるか、どうすれば俺が1番ベストな戦い方ができるかがはっきり分かりましたね。あの形が世界に通用したので、そのベースは崩さず戦いたいです」

 パトリシオ戦の前までは、探りながらの戦い。これまでは「したくない」戦い方をしていた時期もあった。

「距離を取りながら戦うとか。アウトボクシングとか。カウンターを狙うために1Rは様子見して相手の出方をうかがうみたいなことはしたくないですよね。そういうのも大事なんですけど自分の意思とは違う。

『大振りするな』って言われても黙ってろよと。『冷静になれ』って言われても俺はならないみたいな。僕が本来培ってきたもので戦ってきたのがパトリシオ戦だったので、今後も僕がやりたいようにやります。どうしてもピンチになったときはセコンドの声を聞きます」

鈴木千裕にはポスターを埋め尽くすほど応援の声が寄せられている【写真:ENCOUNT編集部】
鈴木千裕にはポスターを埋め尽くすほど応援の声が寄せられている【写真:ENCOUNT編集部】

「容姿で差別を受けてたのに、ある瞬間から称賛に変わるんです」

 重い打撃に、力の強さを感じさせる組技。日本人離れしたパワーが自身の持ち味だと胸を張る。しかし、そんな鈴木にも父親がペルー人であることで苦悩した時期があった。

「僕が小学生のときってハーフが少なかったんですよね。周囲の受け入れも良くなかった。『目でかくね』、『なにあの子』、『手足長くてお化けみたい』って言われたりしましたよね。

 それが高校生くらいになると評価が逆転するんですよ。『目が大きくて羨ましい』、『スタイル良いね』っていう風に。ハーフの人はそういうギャップを経験しているので、人間観察が得意だと思いますよ(笑)」

 そう笑い飛ばすが、言葉自体はずっしりと重たい。

「容姿で差別を受けていたのに、ある瞬間から称賛に変わるんです。急に価値が分かった途端に手のひらを返す。幼少期に自分をバカにしてきた人に『昔からかっこよかったよね』とか言われると、あれ?って。そういうのを見てきたので人間観察は得意です」

 少年にとってはチクチクと心を刺す言葉だったが、「自虐」にすることでなんとかやり過ごしていたという。「バカにされるから整形したい」と親に泣きつくこともあった。父の教えは「いじめられてもやり返せる強い男になれ」だった。

「何かを言われて、周りと違うことを悩むとどんどんマイナス思考になってしまう。小さいころから、嫌なことを言われたら2回は我慢して3回目は殴り返せって親に言われているんです。それが例え学校問題になったとしても親には怒られなかった。『しょうがないよ、だって2回我慢したんでしょ』と。自分を守れるのって結局自分自身。周りは守ってくれないんです」

 メンタルはそうやって鍛えてきた。さらにこう続ける。

「人それぞれ価値観は違います。他の人から見たら『2回は我慢して3回目はやり返す』はやりすぎと思われるかもしれない。でもハーフじゃない人には理解できない。自分の周りには世間の価値観を受け入れて、うつになってしまった人、自ら命を絶ってしまった人がいる。僕の場合は自分を強く奮い立たせて保っていました。結果的に親の教えが自分を守っているんです」

 不良の道を歩まなかったのにも理由がある。自分には「強さがあるから」とうなずく。

「なる必要がなかった。例えばヤンキーは肩で風を切って歩きますけど、僕は自分が強いって知ってる。絡まれても絶対に勝てる。そういう強さがあるので、わざわざカッコつける必要がないんです。集団で喧嘩とか周囲ではありましたけど、それで拳を無駄にしたくなかった。喧嘩するより人を殴ってお金を稼いだ方がよっぽど価値があります」

 鈴木は地元・武蔵野市で子どもたち向けのイベントを実施している。今月14日には武蔵野警察署一日署長として特殊詐欺防犯イベントに参加した。だからこそ不良が輝く今の時代に異を唱える。

「いまは不良が輝く時代。それって果たして格闘技界にいい影響があるのかですよね。小学生も『BreakingDownしようぜ』って。それで何が生まれるのか。本来の拳の使い方を教えるのが格闘技。原始時代は狩るために拳を使いました。人間には知恵がある。いまの時代は何だって凶器になる。包丁だって凶器になるけど、本来は料理に使うもの。使い方ひとつなので、この拳の本当の使い方を世の中に教えたい」

 1年前のどこか自分に自信のない鈴木千裕はもういない。自分が戦っている姿で世界を変えようとしている。オーバーワークを感じさせないほど熱くなった。

「0を1にするのは非常に難しい。いまの時代のいじめは、SNSもそうですけど裏でやるのですごく陰湿。それで潰されるのは本当にもったいない。芸能人も亡くなっているんですよ? 大人がですよ? 子どもなんてなおさらじゃないですか。

 僕は『自分の身を守れるのは自分』といまの子どもたちに伝えたい。児童施設の子、両親がいない子、いろいろいると思いますが結果的に自分で未来を変えられる。そういうのを見せたい。格闘技を通していまの中高生に伝えたい。それができたら素晴らしい競技になると思うんです」

「外国人の力」を持ったゆえに容姿に悩んだ。そんな少年はいまや地域を、RIZIN日本人ファイターを背負って世界の舞台でベルトを獲りにいく。過去の自分に何を伝えたいのか。

「『大丈夫だよ』って言いたいですよ。僕も人間なので抱え込むこともあります。小さいときは両親に『バカにされるから整形したい』『目を小さくしたい、鼻を削りたい』って言ってました。でもそのとき親は『大丈夫だ、お前はカッコイイ』って言われ続けていたので、そういう経験をそのまま子供たちにも伝えたいですよね」

 11月4日、格闘技に“バカ真面目”に取り組んできたニューヒーローの誕生に期待が高まっている。

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