格闘技界の体重超過問題 青木真也がズバリ「減量方法、階級制への知識を啓蒙しないと」

DEEPでプロデビューし、修斗、PRIDE、DREAMと日本の格闘技シーンの最前線で戦ってきた青木真也(40)。現在はONEを主戦場とし、MMAで58戦ものキャリアを積み重ねてきた。業界のあらゆる事情に精通した男に、格闘技界で度々話題に上がる減量についてさまざまな観点で話を聞いた。

減量について知識啓蒙を訴える青木真也【写真:山口比佐夫】
減量について知識啓蒙を訴える青木真也【写真:山口比佐夫】

減量同伴者の仕事は「体重を落とさせることではなく安全確認」

 DEEPでプロデビューし、修斗、PRIDE、DREAMと日本の格闘技シーンの最前線で戦ってきた青木真也(40)。現在はONEを主戦場とし、MMAで58戦ものキャリアを積み重ねてきた。業界のあらゆる事情に精通した男に、格闘技界で度々話題に上がる減量についてさまざまな観点で話を聞いた。(取材・文=島田将斗)

 近年、計量失敗のニュースが後を絶たない。日本最大の格闘技イベント「RIZIN」ではタイトル戦で王者が体重オーバーでベルト剥奪。今夏には21歳の若手選手が減量中の事故で帰らぬ人となった。

「どこまで公になっているか分からないけど、日本は罰則がきついんだよね。反則金のようなものがある。プロモーター側が罰則によって計量失敗をなくそうとしたんですよ」

 青木の意見はこうだ。

「減量方法とか階級制に対する知識を啓蒙していかなきゃいけないってずっと言ってる。あまり知恵のある人がいないから、罰則を強化しちゃった。だから事故が起きたりとか、ハードな失敗が起きたんじゃないですかね」

 減量方法については基本的にジムや選手に任されているため、知識に差が出ている現状がある。そんな中で団体側が積極的に発信できない理由としては「時間と手間、コストがかかる」ことだという。

 場合によっては“賠償”ということもある。格闘技界にはチケットを選手自身が手売りする文化があり、これがファイトマネーにもつながる。そのため、自分、もしくは対戦相手が計量ミスしてしまうと、さまざまな方面に影響が出てしまう。計量ミス時のリスクの所在についてこう言及した。

「“賠償”リスクを背負うのは団体だと思うんですよ。団体が逃げてしまって労働者(選手)にリスクを背負わせようとするのはすごくムカつきます。俺にとっては他人事なんだけど、同じファイターとして自分がバカにされている気がする」

 プロである以上、ミスはあってはならないこと。しかし、厳しく“罰則”することで生じるリスクも何度も目にしてきた。「失敗すると自分をすごく追い込んじゃうんですよね」と眉間にしわを寄せる。特にミスをすればネットで袋叩きに合うのが現代だ。

「叩かれるのは当然で、それ自体はなくならない。でも、僕が思っているのは、自分の立ち位置ってなにかがあったときにフォローをできたり風向きを変えられる立ち位置ではあるということ。『ちょっと行き過ぎてるな』『あまり良い方向に行かねぇな』って思うときにはカバーするようにはしてる。助けられるんだったら助けようって」

 選手の減量は基本的に別の人間が付きそう。しかし、それは減量を確実に遂行するためではないと口を酸っぱくする。

「『お前がやらないといけないのは、安全を確認すること』って同伴者には言ってる。だから無理して絶対に(ロードワークに)行かせるなって。付き添い人がいるのは体重を落とさせることではなくて、例えば救急車を呼ぶとかストップをかけること。減量は危ないです、本当に」

 格闘家だからこそ感じたリスク。それはどんなものなのか。

「脱水症状って大体腎臓にくるんですよね。最初は急性腎不全になる。要は臓器のなかの1個がつぶれてるんですよ。それが2個、3個って続くと、もう死んじゃうんですよ。ひとつダメになっただけで数十%死ぬ可能性が上がる。日本の医療体制が良かったりして死なないから大丈夫と思ってるだけなんですよね。みんな麻痺してるんです」

 だからこそ、青木は自分のコンディションに合った体重、ライト級で試合をしている。「体重を落としてまで勝とうっていうマインドが実はないんですよ。そこまでする意味ある? (無理して階級を下げて戦うのは)チートだと思っているので。長続きもしないし、明らかに体に悪い」と説明した。

「フェザー級に落とせば? とはよく言われる」と明かす。「ギャラ上がるんだったら下げるよ? 階級軽い方が安いんだから。ギャラ変わらないのに、きつい減量するならそのままでやった方がいいって思う」と笑った。

 計量ミスはあってはならないこと。だが一方で、その原因は一つではない。表には出ない部分も含め、考えなければいけない問題を抱えているようだ。何より優先すべきは健康面のリスク回避。青木のようにあえて落とさない選択肢もあることを忘れてはならない。

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