北乃きい 進退をかけ臨んだ主演映画 夫を支える妻役に「私も全てを辞めて、添い遂げる覚悟はできている」

俳優の北乃きいが、明治時代に福井のメガネ産業の礎を築いた職人たちの姿を描いた映画『おしょりん』(児玉宜久監督)に主演する。13歳だった2005年にデビューして以降、ドラマや映画、舞台などで多数の主演作をこなしてきたが、「集大成を見せろ」と鼓舞された今作では、進退も考えたという。「初めて試写で泣きました」と明かした北乃に、覚悟を決めて臨んだ映画への思い、夫婦を演じた同郷の小泉孝太郎とのエピソード、結婚観などを聞いた。

インタビューに応じた北乃きい【写真:ENCOUNT編集部】
インタビューに応じた北乃きい【写真:ENCOUNT編集部】

自身は乱視「見えない方がラブシーンのときに緊張しなくて良い」

 俳優の北乃きいが、明治時代に福井のメガネ産業の礎を築いた職人たちの姿を描いた映画『おしょりん』(児玉宜久監督)に主演する。13歳だった2005年にデビューして以降、ドラマや映画、舞台などで多数の主演作をこなしてきたが、「集大成を見せろ」と鼓舞された今作では、進退も考えたという。「初めて試写で泣きました」と明かした北乃に、覚悟を決めて臨んだ映画への思い、夫婦を演じた同郷の小泉孝太郎とのエピソード、結婚観などを聞いた。(取材・文=西村綾乃)

誰もがアッと驚く夢のタッグ…キャプテン翼とアノ人気ゲームのコラボが実現

 映画は明治時代に増永五左衛門(小泉)と、その弟の幸八(森崎ウィン)らが農閑期の新たな産業としてメガネづくりを根付かせようと奔走する様子を追いかけた藤岡陽子の同名小説を映像化したもの。北乃は、小さな村から世界を見据え奮起する夫らを見守る、むめに扮(ふん)した。

「お嫁に行く前の女学生から、結婚をして経営者の妻となり、母になっていく姿を演じました。年齢でいうと19歳から実年齢から少し上の35歳くらい。丈の短い着物を着ていた学生時代は、声のトーンを少し上げて動きをてきぱきと。年齢を重ねていくにつれ、動きや話し方をゆっくりするなど、大人の女性に見えるよう所作に気を配りました」

 活字が普及していなかった時代、メガネづくりが産業になるのか村人たちは半信半疑だった。しかし視力が弱い少女・ツネが、初めてかけたメガネによって世界が一変していく姿に、挑戦を決意する。

「ツネちゃんは子役ではなく、撮影を行った福井でオーディションを行って出演が決まった女の子でした。ずっとぼやけていた視界が、はっきりして『お父ちゃんとお母ちゃんの顔が、はっきり見える』と話す笑顔を見て、撮影中に涙がこぼれそうになりました」

 五左衛門らの尽力があり、今では日本のメガネの95%が福井で生産される大産業になった。北乃自身はメガネにこだわりはあるのだろうか。

「私は視力が0.6~0.7くらいで乱視なので、矯正メガネをかけていないときは、すべてがぼんやりして見えます。持っているメガネを、たまにかけると『よく見える』と感じるので、ツネちゃんの気持ちはよく分かります。ぼやけた世界に慣れているので、視界が明確でない方がラブシーンのときに緊張しないし、日常は今のままでいいかなって。ドラマでご一緒した岩下志麻さんに『役者は目が悪い方が、瞳が輝いて見える』と言われたこともあり、岩下さんがそう言うなら治さずにおこうと思っています」

 3週間の撮影に入る前、所属事務所の会長からのひと言に、進退も考えたという。

「デビューしてから、映画やドラマなどで主演を任せていただくことが多かったのですが、『救命病棟24時』(第4シリーズ、09年)ごろから、“ヒロインの側にいる人の役”が多くなりました。20歳の頃には、『何をやっても学生に見える』と言われ、『賞を獲ること』や『数字を残すこと』など結果を出すことに必死でした。仕事としているからには、結果は大切な事ですが、全てじゃないと意識が変わってからの主演依頼。どの現場も全力で向かっていますが、今回初めて会長に『集大成を見せろ』と台本を渡されたので、『ここが正念場だ。経験した全てを刻もう』と覚悟しました。思い悩んでいた時期は虚無感があったのですが、完成した試写を見たときは“無”になり、涙があふれました。10代で主演を任せていただいた作品のどれとも違う充実感がありました」

 親が決めた相手と、顔も見ないままの結婚だったが、家財を投げうっても、夫を信じ続けたむめ。演じ切った思いは。

「大切な人の夢を、自分の夢として生きる姿には、とても共感しました。私もそういう人に出会って、相手のために尽くしたいです。『全てを辞めて、添い遂げたい』とずっと言い続けているのですが、出会わないまま32歳を迎えてしまいました」

 夫婦を演じた小泉とは、同じ神奈川・横須賀出身。北乃には、小学生のときから温めていた思いがあった。

「お父様が元総理大臣を務めておられたこともあり、小泉さんの家は地元でとても有名でした。警備の人もいて、小学生の頃は、気になって仕方がなかった。高い塀を見上げては、『いつか、あの中に入ってみたい』と思うようにもなって。今も実家に帰ったときには、中の様子が気になります。映画では妻としてずっと支えていましたから、もうそろそろ家に呼んでほしいなって思っています(笑)」

 映画は20日から福井県内で先行公開。11月3日から全国で上映される。

□北乃きい(きたの・きい) 1991年3月15日、神奈川県生まれ。2005年にティーン誌のモデルとしてデビュー。07年の初主演映画『幸福な食卓』(小松隆志監督)では、「第31回日本アカデミー賞」で新人俳優賞を受賞した。映画だけでなく舞台でも活躍している。

次のページへ (2/2) 【写真】劇中で“一目ぼれ”した森崎ウィンと
1 2
あなたの“気になる”を教えてください