マルチに活躍の松尾スズキに「画家」の肩書き コロナをきっかけに100点制作し個展

演出家、小説家、エッセイスト、脚本家、映画監督、俳優とマルチに活躍する松尾スズキ(60)が12月8日~15日まで、生誕60年を記念した個展「松尾スズキの芸術ぽぽぽい」(東京・青山のスパイラルホール)を開催する。松尾はなぜ絵筆を取ったのか。

生誕60年を記念した個展を開催する松尾スズキ【写真:ENCOUNT編集部】
生誕60年を記念した個展を開催する松尾スズキ【写真:ENCOUNT編集部】

きっかけは緊急事態宣言「自宅のリビングが寂しく、絵を飾りたい」

 演出家、小説家、エッセイスト、脚本家、映画監督、俳優とマルチに活躍する松尾スズキ(60)が12月8日~15日まで、生誕60年を記念した個展「松尾スズキの芸術ぽぽぽい」(東京・青山のスパイラルホール)を開催する。松尾はなぜ絵筆を取ったのか。(取材・文=平辻哲也)

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 舞台を中心に多彩な才能を発揮する松尾。その芸術の原点は絵にあった。少年期、赤塚不二夫の影響を受けて、ギャグ漫画を描き続け、漫画家を目指したこともあった。大学時代はデザインを専攻、さまざまなポップアートに触れ、アート作品制作に没頭してきた。その後、紆余曲折あり、演劇の道で才能を花開いた。

 そんな松尾が再び絵筆を取ったのは、コロナ禍がきっかけだという。

「緊急事態宣言の時期に、自宅のリビングが寂しく感じ、絵を飾りたいと思いました。絵を選びに行くことができなかったので、自分で描くことにしました。昔買っていたキャンバスを再利用し、絵を描き始めました。自分のリビングを装飾するための絵だったので、完全に自己完結だったんです」

 この作品を皮切りに、新作に挑戦。その作品の数は約2年間で100枚近くに及ぶ。会場となるスパイラルホールは、2018年に『30祭』(松尾スズキ+大人計画の30周年記念イベント)を開催した地だ。題名は「芸術っぽい」にさらに「ぽ」を2つ付け加えた。

「スパイラルホールという空間を絵で埋めるにはまだ足りず、どんどん追い込まれています。クオリティーは普通のプロの画家と比べて少し自信がないんです。最初に描いた絵もリビングに飾るには少し稚拙だと思って、飾っていないんです」

 描いているのは主にキャラクター。鬼や妖怪をモチーフにしたオリジナルで、ユーモアを感じる作風だ。

「背景や風景には興味がなく、自分の書いた物語に登場していないキャラクターのイメージで書いています。日ごろ、作家としてキャラクターを考えることが多く、僕の作品や演劇はキャラクター重視となっています。元々漫画も描いていましたし、小さい頃からモンスターや鬼を描くのが好きだったので、それも影響していると思います」

 1枚の絵を完成させるのは、大きさや緻密さにもよるが、約1日。構図やデザインは悩みながら制作しているが、自分の世界に閉じこもって描けるアートはストレスも少なく、好きな仕事だという。

「モノクロの作品はいきなり描き始めます。アドリブ性は非常に重要だと感じています。不安もありますが、その瞬発力を信じています。でも、全体的なクオリティーを保証することはできません(笑)。もともと自分の作風はカオスをどう表現するかに焦点を当てていて、お客さんが作品を見た瞬間に感動を受けるような作品を作りたいと思っています。1枚1枚をじっくり見てもらうことより、全体を通しての印象を大切にしようかと」

演出家、小説家、エッセイスト、脚本家、映画監督、俳優とマルチに活躍する松尾スズキ【写真:ENCOUNT編集部】
演出家、小説家、エッセイスト、脚本家、映画監督、俳優とマルチに活躍する松尾スズキ【写真:ENCOUNT編集部】

 観客に楽しんでもらいたいのは、カオスな世界だ。

「僕がこれまで書いてきた芝居や小説はエンターテイメント寄りで、完全なアートとは言い切れない部分もあると思います。ギャグも多いですし、そのギャグが時には邪魔になることも(笑)。でも、そういった性分から逃れられないところが、僕のアートな部分なのかもしれませんね。横尾忠則さんや岡本太郎さんの作品も、ユーモアや遊び心があるからこそ魅力的だと思います。自分もそういう部分が大事だと感じています」

 演劇の戯曲も絵画も、実は松尾にとってはあまり変わらない。

「どちらも物語性が欲しいと思っています。まず大まかなアイデアをランダムに書き出し、そこからバランスを取りながら細部を埋めていきます。絵にも物語性やカオスを表現したいと思っています」。さまざまな肩書きに新たに「画家」が加わったが、「肩書きが増えれば増えるほど、人間としての自分が薄まっていく気もしますね」と笑った。

□松尾スズキ(まつお・すずき)1962年、福岡県生まれ。1988年に大人計画を旗揚げ。13年には、作画・文章ともに描き下ろしたオリジナル絵本『気づかいルーシー』を刊行。『命、ギガ長ス』(19)では作・演出・出演に加え、舞台美術も手がけ、『ツダマンの世界』(22)ではメインビジュアルのイラストも担当。『ファンキー!~宇宙は見える所までしかない~』(96)で第41回岸田國士戯曲賞、映画『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』(07)で第31回日本アカデミー賞最優秀脚本賞、『命、ギガ長ス』(19)で第71回読売文学賞戯曲・シナリオ賞を受賞。小説『クワイエットルームにようこそ』、『老人賭博』、『もう「はい」としか言えない』は芥川賞候補に。主演したドラマ『ちかえもん』は第71回文化庁芸術祭賞ほか受賞。20年よりBunkamuraシアターコクーン芸術監督、23年より京都芸術大学舞台芸術研究センター教授に就任。

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