22歳・林裕太の心を動かした東出昌大からの言葉「カメラの前ではうそをつかない」

田中哲司、オダギリジョーなど実力派俳優が所属する事務所・鈍牛倶楽部に籍を置く俳優の林裕太が、寂しさを抱えた男女の交流を描いた映画『ロストサマー』(10月13日公開、麻美監督)に主演する。多くの話題作に出演する22歳は、何もかもを諦めているように見える冷静な瞳が印象的だ。キャリア4年目。最新作では、居場所を転々としながら日々をなんとなく生きている孤独な青年の役を務めた。林は「日常を丁寧に過ごすことが、役につながっている」と真摯に語った。

俳優の林裕太
俳優の林裕太

役作りでは精神的に追い詰められることも

 田中哲司、オダギリジョーなど実力派俳優が所属する事務所・鈍牛倶楽部に籍を置く俳優の林裕太が、寂しさを抱えた男女の交流を描いた映画『ロストサマー』(10月13日公開、麻美監督)に主演する。多くの話題作に出演する22歳は、何もかもを諦めているように見える冷静な瞳が印象的だ。キャリア4年目。最新作では、居場所を転々としながら日々をなんとなく生きている孤独な青年の役を務めた。林は「日常を丁寧に過ごすことが、役につながっている」と真摯に語った。(取材・文=西村綾乃)

 映画『ロストサマー』は、俳優・中澤梓佐を代表として2018年に結成した映像製作チーム、889FILMが手がけたもの。自暴自棄に生きるフユ(林)が、街で出会った老人・笹井秋(小林勝也)との交流を通じ成長していく姿が描かれている。

「脚本を読んだときの印象は、僕とフユは正反対の人間ということ。僕は自分が持っている引き出しから、役に必要な要素を出していくものと考えていたので、明らかに環境が違うフユを演じ切れるのか最初は不安でした」

 風来坊のように生きる青年を演じたことはあったが、林が「不安」を感じた大きな理由は、フユが実母から虐待を受けていたことだった。

「虐待をされた児童が成長していく中で、どんな感情を持つのか。何で満たせばいいのか考えて行く中で、『依存』という言葉も浮かびましたし、逆に誰にも打ち明けられず1人で抱えてしまう人もいるだろうなって。また、僕が僕の親から虐待を受けていたらどんな気持ちになるかも想像しました。これまでは気持ちを整理して役に臨むことが多かったですが、今回はあえて消化することをせずに撮影に入りました。フユはどんな風に歩くのか、クセは? など撮影の1か月前くらいからは、生活のほとんどの時間、フユのことを考えていました。精神的に追い詰められた部分もあったので、撮影後は元の自分に戻れるのか、心配でした」

 秋を演じた小林は役と同じ79歳。林とは57歳もの年齢差がある。

「小林さんと仲良くなりたいと思い、最初に対面した日に、飲みに行かせていただきました。歩くのがメチャクチャ早くて、たくさん食べるし年齢を感じませんでした。小林さんは経験が豊富なので、『役者としてどのようなことをしているのか』について質問をしました」

 会話の中では簡単なことほど難しく、難しいことほど簡単にという言葉が印象に残った。

「例えば歩くことは日常でも歩くけれど、役として歩くならどう歩くのか。殴られて感情的になるのは難しいけれど、難しく考えずにそのときにわいたものを表現すればいいと言われ、このことはフユを演じるにあたってとても参考になりました。フユの言葉を僕の血肉から出たものにできたと感謝しています」

映画『ロストサマー』の1シーン
映画『ロストサマー』の1シーン

ジムで鍛えた体を生かし「将来は走る役をやってみたい」

 撮影順がバラバラだったため、フユの気持ちを作ることが難しかったと吐露。苦戦する中で、民謡「よさこい節」でも歌われた高知県の桂浜で行った撮影は、フユの心の成長が分かるお気に入りの場面という。

「フユが秋に寄りかかるシーンは、中盤くらいに撮ったのですが、役として初めて身体接触がありました。人の体温を感じたことでフユの心が動いた大事な場面でした。海の音がうるさくて、セリフが聞こえなかったり、風が強くてタバコの火が付かないなどハプニングもありましたが、この撮影を終えた後の芝居は自分でも大きく変化しました。フユの周りの女性たちは、何かを求めたり依存しようとするけれど、秋は何も求めない。その親のような温かさが固くなっていたフユの心を溶かしたのだと思います」

 映画の終盤、秋の腕の中でフユが誰にも口外出来なかった本音を打ち明ける場面は、涙なくしては見られない。

「泣きながら『助けて』訴えた思いを、秋は両手で受け止めてくれました。撮影前に『今、秋のことを見たら、もう泣いてしまうな』と思い、本番まで会わないようにしていました。映画の中で、救いを感じる部分でもありますよね」

 役者として4年目を迎えた。これまで共演してきた先輩らから聞いた言葉は宝物だ。

「中川大志さんが監督を務めたショートフィルム『いつまで』では、監督から『役者は役を生きることが大切。でも役に対して真っすぐすぎてもよくない』とアドバイスを受けましたた。映画『草の響き』(斎藤久志監督)では、主演した俳優の東出(昌大)さんから『カメラの前ではうそをつかないこと』と教わりました。一流の役者になる人間は、3つの目を備えていると聞きました。1つは目の前の相手を見る主観的な目。2つ目はどう見られているのかを考える客観的な目。最後はその様子を第三者として俯瞰して見る目。これからも研さんを積んでいきたいです」

 今後は、舞台などいろいろなことに挑戦していきたいと意気込む。

「毎日ジムで5キロ走っているので、将来は『走る役』をやってみたい。脱獄犯とか、何かから逃げるため、とにかく走って走って、走り続けたいです」

□林裕太(はやし・ゆうた)2000年11月2日、東京都生まれ。20年に俳優としての活動をスタート。21年に映画『草の響き』(斎藤久志監督)に出演し注目を集めた。翌年には映画『間借り屋の恋』(増田嵩虎監督)で初主演。今年は映画『少女は卒業しない』(中川駿監督)、『緑のざわめき』(夏都愛未監督)、ドラマ『王様に捧ぐ薬指』、同『ギフテッド Season1』など多くの話題作に出演している。

ヘアメイク:七絵

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