【アフター・コロナ】生活史研究家が考える コロナがもたらした食の変化と今後

5月25日に緊急事態宣言が全国で解除され、段階的に生活の制限が解かれていくことになった。まだ予断は許さない状況とはいえ、新型コロナウイルスの脅威で強いられた不便な日々、私たちは何を見つけたのか。食を中心にコロナがもたらした変化と今後を考えてみたい。

作家・生活史研究家の阿古真理さん
作家・生活史研究家の阿古真理さん

「生活」そのものを再発見した人も多いのでは

 5月25日に緊急事態宣言が全国で解除され、段階的に生活の制限が解かれていくことになった。まだ予断は許さない状況とはいえ、新型コロナウイルスの脅威で強いられた不便な日々、私たちは何を見つけたのか。食を中心にコロナがもたらした変化と今後を考えてみたい。

 もともと家で仕事をする私は、巣ごもり生活に新しさはないが、取材や打ち合わせ、会食などの外出がゼロになると、意外にも落ち着いて仕事に取り組んでいる自分に気がついた。人に会うのは好きだし、会いたい人もたくさんいる。人に会い都心に行けばさまざまな情報を得られ、刺激的で楽しく、かつ勉強になる。一方で、集中したい書籍の執筆は、こもっていたほうが深く掘り下げられるのも事実である。

 刺激を受けることが少なくなる分、自分自身を見つめ直す機会を得た人たちは、一番大切なものが何か、再発見したかもしれない。

 その中で、毎日家で過ごすことで「生活」そのものを再発見した、という人も多いのではないだろうか。もちろん一刻も早く今までの生活に戻したい、という人もいるだろうが、いつもはバラバラに過ごすことが多い家族が家で顔を合わせる日々、今までの日常は何だったのか、と思った人もいるはずだ。

個人の生活を中心に置く社会に

 台所の担い手は、毎食家族全員分料理する大変さを実感した人が多いだろう。自分にだけ家事やケアの負担が大きくかかった人は、家族の中での立ち位置を再考したくなったかもしれない。家族が欲しくなったシングルもいるのではないか。非常時には、離婚や結婚が増える。

 一方で、ふだん作らないお菓子や手間がかかる料理に挑戦した、ふだん作らない人が料理したという人も多い。小麦粉などの製菓・製パン材料は、店頭で品薄になったほどだ。通勤に取られる時間がなくなって余裕ができ、改めて料理する楽しみを見出した人もいるのではないだろうか。

 巣ごもり生活で働き方を見直した人も多いだろう。長時間の通勤時間や、周りと歩調を合わせるための残業生活を再考した人、リモートワークで十分やっていけると発見した人も多いのではないか。効率的に仕事するワーキングマザーが再評価された話、オフィスを縮小した事業主の例も聞く。

 そもそもビジネスは、社会生活を回すために行うものだ。個人の生活を犠牲にしないで中心に置く社会、それがコロナ後のあるべき世の中ではないだろうか。

□阿古真理(あこ・まり)1968年8月18日、兵庫県生まれ。作家・生活史研究家。食を中心にした生活史、食のトレンド、ジェンダーなどをテーマに執筆。東洋経済オンライン、現代ビジネス、ハフィントンポスト、クックパッドニュース、幻冬舎plus、あき地(亜紀書房)などで連載を持つ。主な著書に「料理は女の義務ですか」「小林カツ代と栗原はるみ」(新潮新書)、「母と娘はなぜ対立するのか」(筑摩書房)、「昭和の洋食 平成のカフェ飯」(ちくま文庫)、「パクチーとアジア飯」(中央公論新社)、「なぜ日本のフランスパンは世界一になったのか」(NHK出版新書)など。

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