AAAの元メンバーでモデルやアーティストとして活躍する伊藤千晃（36）。現在は、アーティスト活動をしながら、女性特有の健康問題をテクノロジーで解決する「フェムテック」の情報発信し、6歳の長男を子育てしている。AAA時代と今の変化を語った。（取材・文＝平辻哲也）

　以前の華やかなステージとは一変し、今は6歳と向き合いながら、仕事をする毎日だ。

「20代はステージに立つ毎日で、生活力などは全くダメダメでした。マネージャーさんにいろいろと手続きや用意をしてもらっていたので、自分で何かをするという経験が少なかったです。ですが、母になってからは、すべて自分で行わなければならないと強く感じました」

　そのマインドチェンジは大変だったそうで、新生児の頃は夜泣きやコミュニケーションに苦労も多かった。

「何をどうしたらよいのかもわからない状態でしたから、いろんなことを姉や母に聞きました。成長の過程で泣いたことも多かったですが、それでも息子がいてくれたおかげで、自分自身も成長できたと感じています」

　AAA卒業後の2017年にハワイで長男を出産。ハワイは第2の故郷になっているようで、昨夏からはハワイのサマースクールにも通わせている。昨年は約2か月、今年は約1か月半過ごした。

「ハワイは素晴らしい場所です。スクールだけではなくて、自然も豊かなので、遊ぶ環境もいいんです。東京にいる時はつい大きな声を出したり、怒ってしまうんです。『危ないから走っちゃダメ』とか雨の日だったら、『傘が人に当たるから、そばを離れないで』とか。ハワイの人たちは、子どもがじっとしていられないのは当たり前なので、お店の人も不機嫌な顔を見せない。むしろ、『子どもなんだか仕方ないよ』と私の方が注意されたりするんです。それにはハッとさせられました」

　昨年のサマースクールでは付き添いもしたが、今夏は長男がひとりでスクールに通った。

「初日はベソをかいて帰ってきたんですけど、日本語をしゃべれる相手が欲しかったみたいなんです。『お友だちを作る時に使う、英語をネットで調べてみよう』と会話したり、息子としっかり向き合えたように思います。結局、言語の壁を越えて多くの友達を作り、楽しんで帰ってきました。英語スキルだけでなく、コミュニケーション能力も格段に上がっていて、より社交的になりました」

　長男とハマっているのは、カブトムシの飼育だという。

「息子がもらってきてしまったので、飼い始めたのですが、私は虫が苦手なんです。三姉妹の家庭に育ったので、虫を飼ったことがなかったんですね。最初はどう触ったらいいのかも分からなくて、軍手も買ってきました（笑）。つがいなので、産卵セットも買ってみたんです。無事、卵を産んで、孵化させるのが今のミッションですね」

「周りの人を大切にし、多くの選択肢を持てるような人になってほしい」というのが、母としての願いだ。

「先日、『ちょっと写真を撮ってくれない？』と頼んだら、『なんで？』って聞くんです。『SNSに載せたいんだよね』と言ったら、『これがママの仕事になるなら、撮ってあげる』って（笑）。ちょっと大人びたことを言うんだな、と思いました」

　長男は最近、ダンスにも興味を持ったそうだが、AAA時代の映像を見せると、「ふーん」という反応だったとか。「現状では、私の仕事をよく理解していないようですね。TikTokを見せて、私が踊ってみせて、『ママはダンスを覚えるのが早いでしょ』と言っても、『僕の方が上手いんじゃない』なんて言うんですよね」と笑う。

　AAA卒業後、仕事に対する考え方も変わってきた。

「以前は自分の夢を叶えるため、人気になりたい、お金を稼ぎたいと思っていました。ファンがついてきてくれるようになると、彼らのためにパフォーマンスをしたいと思うようになりました。今は、息子の成長や彼にとって良い経験を提供したいと考えるようになって、そのことが新しい原動力にもなっています」

　今後も家庭と仕事のバランスを取りながら取り組んでいく。「今は息子の成長や幸せを考えながら仕事をしています。働く意味合いが大きく変わってきたと感じます。それが今の私にとって一番大切なことです。息子が成長するにつれて、そのニーズも変わってくるので、自分自身も成長していきたいと思います」と意気込んだ。

□伊藤千晃（いとう・ちあき）1987年1月生まれ。2017年にダンス＆ボーカルユニットAAAを卒業。18年よりソロとして活動を開始。アーティスト、モデルとして活動する中、近年ではフェムテックに関する取り組みにも力を入れている。23年6月にミニアルバム『Honey』をリリース。