【週末は女子プロレス#119】スターダムのビッグマッチ攻勢 赤の王者・中野たむが本音吐露「正直、マジ大変です」

シングル最強決定リーグ戦「5★STAR GP」開催中のスターダム。7・30大田区総合体育館で開幕した夏の本場所は、9・30横浜武道館での優勝決定戦まで全25大会。北は東北・仙台、南は九州・福岡&佐賀まで、全国各地で開催されている。

8・13大阪ではメーガン・ベインを相手に防衛戦を行い、V2に成功した中野たむ【写真提供:スターダム】
8・13大阪ではメーガン・ベインを相手に防衛戦を行い、V2に成功した中野たむ【写真提供:スターダム】

中野は「もう一段階上のステージに行かなきゃいけないとき」と説明

 シングル最強決定リーグ戦「5★STAR GP」開催中のスターダム。7・30大田区総合体育館で開幕した夏の本場所は、9・30横浜武道館での優勝決定戦まで全25大会。北は東北・仙台、南は九州・福岡&佐賀まで、全国各地で開催されている。

 2か月に及ぶロングランのシリーズでは、開幕戦&最終戦がビッグマッチであるのと同時に、8・13大阪、8・19大田区、9・3広島、9・10横浜もビッグマッチ仕様となっている。しかも大田区と横浜は1シリーズで2回ずつの開催だ。さらにはこの期間中、リーグ戦にとどまらず、タイトルマッチのほか、ダンプ松本や神取忍ら女子プロ界のレジェンドたちが参戦する「ミッドサマーフェス」(8・19大田区)や、ファン投票で決めた夢のチームによる「ドリーム・タッグ・フェスティバル」(9・10横浜)も実現。大会によって異なる多種多彩なテーマが、リング上で展開されているのである。

 シングルの頂点を目指す過酷なリーグ戦の真っただ中でタイトルマッチがおこなわれるのをはじめ、新企画となるレジェンドとの対戦や一夜限りのタッグチーム結成、さらには若手主体の「NEW BLOOD」も継続されている。本戦の中でビッグマッチが組まれるのはもはや当たり前のスターダムとはいえ、この振り幅はかえってレスラーの集中力をそぐことにつながったりはしないのだろうか。現在、スターダムの頂点であるワールド・オブ・スターダム王座を保持する中野たむに話を聞いてみた。

「正直、マジ大変です(苦笑)。はじめはちょっと無理なんじゃないかと思うときもありました。ただ、スターダムがブシロード体制になったからってメジャーになったかと言えば、決してまだそうじゃない。知らない人も多いですよね。だからいま、もう一段階上のステージに行かなきゃいけないときだと思うんですよ。情報や娯楽があふれかえっているいまの時代、面白いものってあらゆるところに転がってて、進化や変化がないとすぐに飽きられちゃうんですよね。だからリーグ戦の中でもあらゆるごちそうを用意して、新規層を取り込み、既存のファンも飽きさせない。こういうことがいまのエンタメ界では必須なのかなって、自分としては解釈しています」

 いろんな可能性を試せるということは、レスラー冥利にも尽きると中野は言う。が、実際にリングで闘うレスラーはどう調整し、気持ちの切り替えをおこなっているのか。まだ全員がこのパターンに適応できているわけではないだろう。

「アタマがついていかない部分はあると思いますね。私なんか特にひとつのことしかできないタイプだから、今日を必死にやってから明日のことを考えようと思うんです。自分がいまどこにいて何をやっているのか、理解していない若手の子もいると思いますよ。ただ、いろんなことができる環境で闘い成長していくこれからの子たちって、まったく新しいタイプのプロレスラーになるんじゃないかっていう期待もあるんですよね」

 現在スターダムは、女子プロ界では断トツの選手数を抱えている。このリングを目指す選手は多いが、これからはいかにして生き残れるか。まずはこの多様な環境にサバイバルできるかどうかがカギとなるのではなかろうか。試合数や巡業の面では、かつての全日本女子プロレスには及ばない。が、その方向性に関してスターダムは、いまだかつてないプロレスにチャレンジしているとも言えるのだ。

 5★STAR GPだけでなない。シリーズ終了後も、ビッグマッチの目白押しだ。9・30横浜での優勝決定戦後は、10・9名古屋ドルフィンズアリーナ。これはタイトルマッチ中心のビッグマッチだ。その翌週には、10・15大田区総合体育館で「ゴッデス・オブ・スターダム・タッグリーグ戦」が開幕。数年前まではビッグマッチでスタートすることなど考えられないシリーズだったが、今年スタートした6人タッグでの「トライアングルダービー」同様、いまではタッグの祭典も立派なビッグマッチの対象となっている。あえて大きな舞台を用意することで、選手や見る者の意識を高めていく目的もあるだろう。選手はどこのリングでも手を抜かないのが鉄則だが、舞台によって見え方がまったく変わってくるのもまた事実である。

「やっぱり会場が大きいと気合いが違いますよね。演出の凝った入場によって私たちの気持ちも見る側の意識も変わってくるし、選手が醸し出すオーラが変わってくると思うんですよ。実際、ビッグマッチが増えてから選手たちのモチベーションや、ビジュアルも含めてたたずまいがまったく変わってきたと思ってます」

8・19大田区では神取忍(左)とも対戦した【写真提供:スターダム】
8・19大田区では神取忍(左)とも対戦した【写真提供:スターダム】

初来日の大型選手を相手にタイトル防衛

 赤いベルトを巻きスターダムの頂点に立つ中野も、大舞台に上がることによってレスラーとしての経験値を飛躍的に伸ばしてきた。特に今シリーズはワールド王者としてのリーグ戦エントリーとあって、モチベーションはかつてないほど高い。昨年準優勝で今年こそ優勝という目標に突き進む一方で、8・13大阪ではメーガン・ベインを相手に防衛戦をおこなった。大会によって闘いのテーマが異なるのは、このタイトルマッチも同様だった。

 相手は初来日の大型選手。白いベルトの王者時代も含め、まったく新しいタイプの防衛戦だ。これは彼女にとってとてつもなく大きな課題でもあった。これまでのように過去の因縁を活かした闘いができない相手だからである。赤いベルト奪取時を含め、防衛戦では日本人だからこその情念をぶつけ合えた。が、今回はそれが通用しない。それでも中野は、結果はもちろん内容でも未知の強豪を退けることに成功。事実上、ここで初めて中野はワールド王者になったとも言えるのだ。シリーズ中にあらためて彼女が赤いベルトの王者であることを認識させた事実も大きい。

「リーグ戦真っ最中で、体力、メンタルとも疲弊している中でのタイトル戦とあって、ものすごく過酷でした。でも、どれだけたくさんの選手に闘いたいかと思ってもらえるかで王者の価値も決まってくるんですよね。だからリーグ戦最中でも声を上げてもらえるのはうれしい。確かにリーグ戦中でのタイトル戦に異議を唱える人もいます。だからといってリーグ戦をやってる中でのタイトル戦でベルトの価値が下がると思ったことなんて一度もないし、もちろんリーグ戦での疲れが試合に影響してしまったらやる価値もないけど、この中であえて強いヤツとものすごい試合をしたら、逆に価値は上がると思うんですよね」

 そして中野は、この言葉を実行してみせた。が、余韻に浸る間もなく新たな課題が押し寄せた。8・19大田区でのレジェンドとの対戦。中野は6人タッグで神取、井上貴子と対戦した。スターダムとレジェンドの遭遇は通常では考えられないが、だからこそこの企画は大いに盛り上がった。中野と対戦した神取、貴子はもちろん、ジャガー横田、ダンプ、井上京子、中西百重、ZAPが異様なほどの輝きを放っていたのは、やはり大会場という大舞台だからこそか。

「レジェンドたちと闘って、この人たちが築いてきた女子プロレスの時代を超えていかなきゃいけないとの思いに直面しましたね」と中野。一転して9・10横浜ではたもとを分けた白川未奈と一夜限定のドリームタッグ。ほかにも数々の夢のタッグが実現し、シングルリーグ戦とはまったく異なる空間を創りあげた。

「ホントに番外編って感じで、現実から離れて非日常の世界に一日浸ってたみたいな。そういう感覚ですね」

 本戦を軸に、今後もさまざまなテーマを投げかけてくるであろうスターダム。対応する選手も大変だが、短期間での急成長が期待できるリングでもある。「どこに感情移入して見てもらえるかはお客さんしだいなのかな」(中野)。推しの選手を見つけるように、推しのテーマを見つけてみるのはどうだろう?

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