過去の舞台で経験した悔しさが原動力 活動休止、英留学を経たウエンツ瑛士が本当の意味で掴んだセンター

バラエティー番組などで活躍中のウエンツ瑛士が9月12日に幕を開けるミュージカル『アンドレ・デジール 最後の作品』に主演する。公演は日本のミュージカル界をけん引する脚本家の高橋亜子氏と、演出家の鈴木裕美氏が生み出したオリジナル作品。音楽はピアニストの清塚信也が書き下ろした。俳優の上川一哉とダブルキャストで臨む作品で「本物を見せたい」と意気込むウエンツに聞いた。

ミュージカル『アンドレ・デジール 最後の作品』に主演するウエンツ瑛士【写真:ENCOUNT編集部】
ミュージカル『アンドレ・デジール 最後の作品』に主演するウエンツ瑛士【写真:ENCOUNT編集部】

ドラマ『コウノドリ』でも音楽を担当 ピアニストの清塚信也書き下ろしの楽曲は必聴

 バラエティー番組などで活躍中のウエンツ瑛士が9月12日に幕を開けるミュージカル『アンドレ・デジール 最後の作品』に主演する。公演は日本のミュージカル界をけん引する脚本家の高橋亜子氏と、演出家の鈴木裕美氏が生み出したオリジナル作品。音楽はピアニストの清塚信也が書き下ろした。俳優の上川一哉とダブルキャストで臨む作品で「本物を見せたい」と意気込むウエンツに聞いた。(取材・文=西村綾乃)

 物語のテーマは“共鳴”。1960年代のパリで、画家のアンドレ・デジールに果てない憧憬を抱く青年画家のエミール・マルタン(ウエンツ、上川)が、絵画への愛と豊富な知識を持つ青年と出会い、深く“共鳴”することで1人では到達できない芸術を生み出していく姿を描く。作品は脚本家の高橋氏と、演出家の鈴木氏が6年以上をかけて編み上げたオリジナルだ。

「舞台に立つ度に、いつかオリジナル作品をやりたいと思っていたので、うれしいです。最初に脚本をいただいたときは、そのエネルギーに驚かされました。ベースにあるのは人同士のつながり。コロナ禍で分断を経験した僕らにとって、誰かと手をつなぐことの尊さを思い出させてくれる作品です。僕らが世界初演しますが、たくさんの人に愛され、何度も再演されるような作品になればいいなと感じます」

 ウエンツが演じるエミールは、夢を追う一方で、画家として犯してはいけないタブーに手を染めてしまう。演じるエミールをどのように見つめているのだろうか。

「大人になっても、子どもの部分が残っている人物だなと感じています。自分勝手なくせに、天才が故の孤独もあって、その孤独は誰かと一緒にいても埋まらないもの。これは最初に(鈴木)裕美さんに言われたのですが、僕自身もそういう部分を持っているみたいです」

 2018年10月から1年半、芸能活動を一時中止し、英ロンドンに留学。語学学校に通い、現地のライブハウスを借りて2人芝居を演じるなど、視野を広げた。滞在中は思わぬ「孤独」と向き合った。

「4歳から仕事をしていたので、小休止したいという思いがありました。語学が堪能だったわけではないので、同じクラスになった仲間に『夜ご飯に行こう』とか誘ったりもできなくて、最初は寂しい日々が続きました。同じ文化ではない人たちは、過去に起きた地震などの出来事も共有していないですよね。1人で過ごすということよりも、毎日その日に起きたことだけを話すということ。過去を共有できないことは、なんて孤独なんだと感じました。20年3月に帰国をしてからは(4月の)緊急事態宣言もあり、すぐには友人たちに会えなかったのですが、世の中が落ち着いて対面できたときには、一瞬で昔の感じに戻れる仲間がいることを、本当にありがたいと感じました」

 留学前は複数のレギュラー番組を持っていたウエンツ。人望の厚さもあり、帰国後に番組を続投。テレビ以外にも、舞台など表現の場を広げている。

「芸能界には戻れないと思っていました。僕のワガママで行った部分もありましたし、自分がいた場所を2年近く空席にしたら、居場所がなくなっても仕方がないって。だから『これまでの礼は尽くしたい』と旅立つ1年以上前からいろいろな方にあいさつをして回って。怒られる覚悟もしていましたが、『行っておいで』『頑張ってこい』と気持ちよく送り出してくれました。今は、お世話になった方々の気持ちをむげにはできない。居場所を取り戻すという一心で仕事に取り組んでいます」

 留学前と、留学後。最も変わったと思う部分はどんなところなのだろうか。

「振り返ると自分発信で発言することをしていませんでした。そこはおごっていた部分でもあったと反省しています。帰国をしてから、最初は自分から声を掛けるのは怖いと感じていた時期もありましたが、今は周囲に対して積極的に声を掛けるようになりました。自分が変われば周りも変わる。周りが変化すれば知り合う人も変わっていく。人間として見落としていた部分に気が付くことができました」

 その成長を周囲はしっかりと見守っている。演出家の鈴木氏と初タッグを組んだ2015年の悔しさを、新作にぶつけたいと意気込んでいる。

「裕美さんとは僕が30歳のときに出演した『スコット&ゼルダ』以来2作目。当時はミュージカルの仕組みも分かっていませんでした。歌、芝居、ダンスも何もできないけれど、舞台の真ん中に立たせてもらっている自分自身にくやしさを感じていました。何とか食らいつこうと気力も体力も使い果たし、稽古が終わって家に着いた玄関でそのまま寝ていた夜もありました。9月に幕開けする舞台では、裕美さんなど信じてくれた人に成長した姿を見せたいです」

 東京公演は9月12~23日、よみうり大手町ホールで。大阪公演は9月29日~10月1日、サンケイホールブリーゼで上演される。

□ウエンツ瑛士(ウエンツ・エイジ) 1985年10月8日、東京都生まれ。4歳より子役、モデルとして活動。NHK大河ドラマ『利家とまつ』、映画『ゲゲゲの鬼太郎』などの話題作に出演。2023年はドラマ『ペンディングトレイン-8時23分、明日 君と』(TBS系)、映画『湯道』などに出演している。

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