NY生まれ北海道育ちの26歳俳優、坂東龍汰 原点は“シュタイナー教育”「僕の核を作っています」

堀田真由主演の映画『バカ塗りの娘』(9月1日全国公開、監督・鶴岡慧子)で、ヒロインの兄役を好演しているのは、俳優の坂東龍汰(26)だ。トランスジェンダーの葛藤を描く『フタリノセカイ』で映画初主演し、第32回日本映画批評家大賞新人男優賞を受賞した注目株。本作でも、多面的な人物である兄ユウを魅力的に演じている。その原点とは?

映画『バカ塗りの娘』ではヒロインの兄役を務めた坂東龍汰【写真:荒川祐史】
映画『バカ塗りの娘』ではヒロインの兄役を務めた坂東龍汰【写真:荒川祐史】

映画『バカ塗りの娘』でヒロインの兄役を好演

 堀田真由主演の映画『バカ塗りの娘』(9月1日全国公開、監督・鶴岡慧子)で、ヒロインの兄役を好演しているのは、俳優の坂東龍汰(26)だ。トランスジェンダーの葛藤を描く『フタリノセカイ』で映画初主演し、第32回日本映画批評家大賞新人男優賞を受賞した注目株。本作でも、多面的な人物である兄ユウを魅力的に演じている。その原点とは?(取材・文=平辻哲也)

 坂東は2017年俳優デビューし、18年放送のドラマ『花へんろ 特別編「春子の人形」~脚本家・早坂暁がうつくしむ人~』で初主演。ほかにも映画『十二人の死にたい子どもたち』(19年)、『弱虫ペダル』(20年)、『峠~最後のサムライ~』(22年)などに出演する注目株だ。なにしろ、プロフィールがかっこいい。ニューヨーク生まれ、北海道育ちの26歳。大都会で生を受け、雄大な大地で育った。

「確かにギャップがすごいですよね。ニューヨークにいたのは3歳までですが、それから、1回も行っていません。いつか行ってみたいです。僕は自然豊かな場所で育ち、少年時代はスマホを持ったことがありませんでした。都会での暮らしはいまだに慣れないです」と坂東は話す。

 小学校から高校までの多感な時期は「シュタイナー教育」で知られる私学で育った。シュタイナー教育は、オーストリアの哲学者ルドルフ・シュタイナーが創始した独自の教育方法で、特に芸術分野で活躍する人材を数多く輩出してきたことで有名だ。

「シュタイナー教育の魅力は、やりたいことを自分から自発的に選んでいける点です。それでいいものと悪いものを自分の中でしっかり分けて見ることができる。特に小学校6年生ぐらいまでの教育の方針は、とても面白くて、僕の核となる部分を作っています。言葉にできない感覚的なものが培われ、その感覚が今も後頭部に残っているんです。その感覚的な部分で瞬間を生きることが一番大事だと思っています」

撮影では何度もさまざまな髪色を試し、細部にこだわった【写真:荒川祐史】
撮影では何度もさまざまな髪色を試し、細部にこだわった【写真:荒川祐史】

 本作は青森の伝統工芸、津軽塗を題材に、代々職人をしている一家の娘・美也子(堀田)と、その父親(小林薫)を中心にした家族の物語。「バカ塗り」とは「バカに塗って、バカに手間暇かけて、バカに丈夫」と言われるほど塗っては研ぐ工程を繰り返す津軽塗を指す。西加奈子の同名小説を原作にした『まく子』の新鋭・鶴岡慧子がメガホンをとった。

「津軽塗をきっかけに離散している家族が、津軽塗を通じて再び結束していく再生の物語と感じました。鶴岡監督の作品に参加できることがとても嬉しかったです。台本を読んで、津軽塗りの工程が細かく書かれていたので、とても美しい映像が浮かんできました。静かで、心地の良い映画になると感じました」

 演じたのは主人公・美也子の兄ユウ。小さい頃から器用で、父からは津軽塗職人を継ぐことを期待されているが、父に反発し、家を飛び出し、美容師の道を選んだ。時折、帰宅し、妹を心配するが、父との関係はうまくいっていない。また、恋人とのやりとりでは違った顔を見せる。多彩な顔を見せる役柄だ。

「映画の前半、お父さんとの関係性がギクシャクしていたり、本音で話し合えない。しかし、美也子のことは本当に気にかけていて、その部分を丁寧に表現したいと思いました。ユウは家族のことは嫌いではなくて、ただうまく理解し合えていなかっただけ。特におじいちゃんとの関係や仏壇のシーンなどが、その感情の変化を示しています」

 美容師ユウ役に当たっては髪も明るく染めた。監督から「真っ白にしてください」と指示があり、金髪やメッシュなど、色々なスタイルを試してみた。

「実際に劇中では3回髪の色を変えました。監督とは髪型、役の設定など、細部にわたって指示がありました。髪の色は、ユウが長い間自分の中で感じてきたものを表現する手段として用いられていると感じました。実際に、髪を明るく染めることで自分自身も明るくなることができました」と振り返る。

 現場では、ムードメーカーの役割を果たしたが、ユウには多くの共通点があると感じたそう。

「明るくて、すぐに誰とでも仲良くなるという点ですね。ただ、明るくしようと意識するわけではなく、ただ自然体でいるだけなんです」。その自然体がユウ役を見事に人間らしく見せているようだ。

□坂東龍汰(ばんどう・りょうた)1997年5月24日生まれ。北海道出身。2017年に俳優デビューし、翌年「花へんろ 特別編 春子の人形」で初主演。以後、数々の映画に出演。代表作に『十二人の死にたい子どもたち』、『閉鎖病棟─それぞれの朝─』、『弱虫ペダル』、『スパイの妻』などがある。22年には『冬薔薇』と『峠 最後のサムライ』に出演し、映画『フタリノセカイ』で第32回日本映画批評家大賞新人男優賞を受賞。現在、『春に散る』が公開中。

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