上白石萌音が語る「やってみな」の大切さ「与えられることで自分の可能性が見つかるいい機会」

上白石萌音は今年1月25日、自身初の日本武道館公演を行った。俳優デビューから約12年、歌手デビューから約5年。これまでの足跡をたどるような構成となった節目の舞台だった。早くも7か月が過ぎ、11月3日からは全国ツアーを展開。25歳の上白石が「歌」への思いを語った。

11月3日からは全国ツアーを展開する上白石萌音【写真:荒川祐史】
11月3日からは全国ツアーを展開する上白石萌音【写真:荒川祐史】

11月3日から全国ツアーを展開

 上白石萌音は今年1月25日、自身初の日本武道館公演を行った。俳優デビューから約12年、歌手デビューから約5年。これまでの足跡をたどるような構成となった節目の舞台だった。早くも7か月が過ぎ、11月3日からは全国ツアーを展開。25歳の上白石が「歌」への思いを語った。(取材・文=福嶋剛)

――初めての日本武道館公演から約7か月です。振り返ると。

「終わった後、『これで終わりたくない』と思うくらい愛しい時間で、すごく寂しかったです。『上白石萌音ってどんな人なんだろう?』と思って会場に来られた方も、帰る頃には『何となく分かった』と感じていただける。そんな構成をお風呂で思いついたんです。『1回限り。だからこそできるぜいたくなライブをやりたい』とお願いして、スタッフといっぱい話し合いました。そして、リハーサルを重ねて準備。紛れもなく楽しかったです」

――デビューした頃、こんなに大勢の前で歌う想像していましたか。

「まさか。歌手デビューするとも思っていなかったですし、デビューした時も『今だけだろうな』と思っていましたから。私、めっちゃネガティブな性格なんです(笑)。良くも悪くも想像力が豊かで、想定できるミスの数が何通りも浮かんでききます。ここ1番という時にもネガティブが勝ってしまうので、それを克服するために、いつもいっぱい準備をします。今回も武道館のステージに上がるまで、ずっとそわそわしていました。周りの人ともまともにしゃべれないくらいに追い込まれました」

――とても落ち着いて、最後列のお客さんにも語りかけるような姿が印象的でしたが。

「うれしい感想です。私も始まる前に武道館の最後列の席に実際に座ってみて、そこからステージを見てくださるお客さんを想像してみました。『ここから見てもお家でお友達としゃべったり、歌ったりしているようなステージにできたら最高だな』と。目標は、『気負わないこと』『気張らないこと』でした。あれだけ緊張したのに始まっちゃうと楽しめました。」

――武道館にはご両親も駆けつけたそうですね。

「はい。楽しんでくれました。それだけでも、『やってきて良かったな』と思います。スターダストレビューさんの『ブラックペッパーのたっぷりきいた私の作ったオニオンスライス』も歌わせていただきましたが、両親はスタレビさんが大好き。初めて見に行った日本のアーティストのライブもスタレビさんでした。その状況で、ボーカルの根本要さんが武道館にいらしてくださいました。終演後、両親が要さんにごあいさつをさせていただきましたが、私は一生で一番の親孝行をしたと思っています(笑)。とにかく一生に1度の日本武道館公演だと思って臨みました」

――最初にリリースした『舞妓はレディ』や代表曲の『なんでもないや(movei ver.)』など、これまでの作品を1曲、1曲、かみしめるように歌っていると感じました。

「『舞妓はレディ』は10年前の曲ですが、私はどの曲も『当時のままで歌いたい』と思っています。リズムも何にも変えず、あの頃と同じように大切に歌う。理由の1つは、今と昔の気持ちや技術の違いが、より鮮明に見えるからです。『あの頃より音程的にも歌いやすい』といった成長を感じることもある。逆に最初に歌っていた頃の方がピュアで良かったりして、自分の現在地点を知るものさしでもあるんです。それはお芝居にはない、“過去と現在の自分が向き合う瞬間”です」

――弦楽器を入れたバンド編成も豪華でした。

「『カルテットやホーンのみなさんとも一緒にやりたい』という私のわがままを聞いてもらいました。実は歌も芝居も人より前に出るのがすごく苦手なタイプなんです。お芝居の現場では、照明部、演出部、美術部とそれぞれ役割があるように、役者も『俳優部』と呼ばれていて、あくまで1つの作品を作り上げるための一員で最前線の役割ではないと常々思っています。それは音楽も同じで、提供いただいた曲というのは芝居の台詞と同じ。私は歌声という楽器を使った演奏者として、楽曲を完成させるための役割を全うする。その意識が強くあります。芝居も音楽も、携わっている全員で作り上げることに面白さを感じています」

――ただ、求められるものは人よりも前に出る主役。アイコンとしての存在です。

「そうですね。アイコンとしての自分というのは、そうすべきだからやっているというか、背負わないといけない瞬間もあります。私がいくら一員だと思っていても、台本の一番はじめに名前があったり、自分の名前でツアーを回る時はそういう役を全うしなくてはいけない。その意識は持っています。私って自由にさせたら、絶対に何もしない人間なんですよ(笑)。『やってみな!』と言ってくれる人がいるからやる。そして、そのジャンルがとても好きになったり、気が付かなかった自分の可能性が見つかったり。与えられることは、表現の幅を広げるとてもいい機会だと思っています」

映像作品『MONE KAMISHIRAISHI 2023 at BUDOKAN』をリリース【写真:荒川祐史】
映像作品『MONE KAMISHIRAISHI 2023 at BUDOKAN』をリリース【写真:荒川祐史】

歌は“生きがい”「しぶとく歌い続けていきたい」

――色に例えると、自分は何色だと思いますか。

「私は真っ白ではなく、ベージュっぽい色かなと思います。その時々に与えていただく役によって、いろんな色に染まらなきゃいけない。そんな仕事だからこそ、普段はなんでもない自分でいたいと思っています」

――自身にとって「歌」とは。

「歌っていないと生きていられないくらい歌が好きです。家でもずっと歌っています。『歌は生きがい』と言っても大げさじゃないです。好きな分、それをお仕事にするとすごくすごく大変ですし、苦しいこともたくさんあります。忘れもしない初ライブで、たくさん練習してピアノの弾き語りを披露しました。でも、途中で大きなミスをしてピアノが弾けなくなってしまったんです。何とか歌ってその場を乗り切ったのですが、めちゃくちゃ悔しくて、帰りのタクシーでボロボロ泣きしました。いまだに泣きたいくらい悔しいことはたくさんあります。でも、私自身がお客さんの目を見てライブをする喜びを知ってしまった。だから、これからも1人でも聴いてくれる人がいる限り、しぶとく歌い続けていきたいと思います」

――俳優としては、舞台『千と千尋の神隠し』のロンドン公演が決まりました。来年4月から7月までの上演です。

「日本の方たちに届けることで精いっぱいだったので、海外で上演されるとは想像の範ちゅうを超えました。発表された時は、心の整理が付いていないというか、『何かすごいことになったな』と思いました。でも、どこの国の音楽でも自由に聴けて自由に歌える時代です。『チャンスがあればやってみよう』という気持ちを大切にして、ロンドンに行っても日本と同じ熱量、同じ誠実さでチャレンジしたいと思っています」

――予想がつかない未来ですね。

「予想がつかない未来は……。楽しいですね(笑)」

――11月からは、初公演の場所を中心に全国ツアーが始まります。

「日本武道館公演で『2度とないその日だけの特別な時間』を経験した時、『これからのライブ全てに当てはまる大事なことなんだな』と実感しました。秋から始まるツアーでも一公演一公演、その日しかできない特別なライブをやっていきたいです。そして、音楽でもお芝居でも、いろんな人たちと出会ってその人たちの声を聞いて視野を広げたいです。とにかく凝り固まらないで、挑戦し続けたいと思います」

□上白石萌音(かみしらいし・もね) 1998年1月27日、鹿児島県生まれ。2011年に第7回『東宝シンデレラ』オーディション審査員特別賞を受賞し、11年に俳優デビュー。14年の映画『舞妓はレディ』で初主演を飾った。その他、アニメ映画『君の名は。』、映画『溺れるナイフ』、『ちはやふる』シリーズ、『羊と鋼の森』などに出演。ドラマはTBS系『恋はつづくよどこまでも』、『オー!マイ・ボス!恋は別冊で』、NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』など。舞台は『千と千尋の神隠し』、『ダディ・ロング・レッグズ』、『ジェーン・エア』などに出演。今年、第30回読売演劇大賞最優秀女優賞を受賞。17年に歌手デビュー。22年6月に最新アルバム『name』をリリース。俳優の上白石萌歌は妹。

上白石萌音公式HP:https://kamishiraishimone.com/

<上白石萌音『yattokosa』Tour 2023>

11月3日(金・祝) 金沢・本多の森ホール
11月5日(日)仙台・東京エレクトロンホール宮城
11月24日(金)東京・国際フォーラムホールA
11月25日(土)東京・国際フォーラムホールA
12月2日(土)山口・KDDI維新ホール
12月3日(日)熊本・熊本城ホールメインホール
12月23日(土)大阪・フェニーチェ堺
12月24日(日)松山・松山市民会館

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