三戸なつめ、『前髪切りすぎた』の“呪縛”に苦しんだ過去 紆余曲折の芸能生活10周年

『前髪切りすぎた』で一躍時の人となった三戸なつめが今年、芸能活動10周年を迎えた。いつでも明るく笑顔が印象的な彼女だが、現在に至るまでには紆余曲折もあった。俳優として活動を続ける今、これまでの10年を振り返って思うこととは――。

モデルとしての活動からアーティストデビューについて語った三戸なつめ【写真:冨田味我】
モデルとしての活動からアーティストデビューについて語った三戸なつめ【写真:冨田味我】

「自分って何者?」と戸惑った日々

『前髪切りすぎた』で一躍時の人となった三戸なつめが今年、芸能活動10周年を迎えた。いつでも明るく笑顔が印象的な彼女だが、現在に至るまでには紆余曲折もあった。俳優として活動を続ける今、これまでの10年を振り返って思うこととは――。(取材・文=中村彰洋)

“読モ全盛期”とも呼ばれた時代に多感な時期を過ごした三戸。母と祖母は美容師、実家も美容室だった。しかし、18歳の彼女は「違うことをしたい! 美容師は絶対やりたくない」という反発心と「服を作れるようになったらかっこいい」と漠然とした思いで、服飾の専門学校に通っていた。とはいえ、「絶対にこれになりたい」といった夢はなく、たまたま声を掛けられたことをきっかけに読者モデルとなった。

「大好きな雑誌で読んでいた『関西girl’s style』の方に声を掛けてもらいました。撮影に参加できることがうれしかったです。当時はお小遣い稼ぎぐらいの感覚でしたが、やっていくうちにやりがいを感じるようになりました。雑誌の先輩も芸能界に進む人が多かったので、そういうのを見ていて、自然と私も憧れるようになりました」

 2013年、当時はまだ小さな事務所だったアソビシステム。イベント出演時に、たまたま社長と知り合いになったことをきっかけに所属する運びとなった。これを機に地元・奈良から東京への上京を決断した。

「両親には心配されましたが、私がやりたいことに『ダメ』とは言わない家族だったので、『やりたいならやってみたら?』と送り出してくれました」

 モデルとしての活動を続けていく中、15年に大きな転機が訪れた。中田ヤスタカ氏プロデュースによる『前髪切りすぎた』でのアーティストデビューだった。

 中田氏といえば、当時から自身のユニット・CAPSULEのみならず、Perfumeやきゃりーぱみゅぱみゅらの楽曲を手掛けるなど、テクノサウンドで新進気鋭の作曲家だった。『前髪を切りすぎた~♪』のキャッチーなフレーズとぱっつんヘアのかわいらしいビジュアルで、三戸はあっという間に時の人となった。

 テレビや雑誌など、メディアに引っ張りだこの毎日。「すごく目まぐるしく動いていました。自分の意思とは別に、いろんなものが入ってくるみたいな状況で、混乱しながらやってましたね」と苦笑いで振り返った。当時は葛藤に戸惑う日々だったようだ。

「ヤスタカさんのおかげで、知名度も上がって、いろんな番組に呼んでもらえたり、タイアップやCMなどのお仕事もいただいたりしていたけれど、『私、ヤスタカさんがいなくなったらどうなるんだ?』『自分って一体何者なんだ?』みたいに考えて、落ち込むこともありました」

俳優という仕事についても語った三戸なつめ【写真:冨田味我】
俳優という仕事についても語った三戸なつめ【写真:冨田味我】

モデル、アーティスト、役者、絵本作家…「こんなにもいろいろやる人間になるとは思っていなかった」

 その後は、『賭ケグルイ』(18年)出演を機に俳優活動を本格的にスタートさせた。「『オーディションがあるけど、どう?』と言われて、『賭ケグルイ』の原作やアニメを見たら、『めっちゃ面白い! この子(黄泉月るな)をやってみたい』と思うようになりました」。オーディションに向けて演技レッスンをしていく中で、表現することの面白さに気付き、ネガティブな感情を払拭することができた。

「お芝居では、台本を読む中で、自分がどう思うのか、どういう表現をしたいのか、といっぱいいっぱい考えるようになって、自分らしさをどんどん出せるようになりました」

 気付けば俳優という仕事にのめりこんでいった。「違う人を演じるとき、自分以外の人の価値観だったりを分析することが楽しいんです。人の気持ちが分からないと演じることはできないので、役作りをしながら、この子はこういう性格で、こういう過去があったからトラウマがあってとか、考えていくうちに、『お芝居ってこんなにも奥深くて、面白いんだ』と思うようになりました。世界中のみんながお芝居を勉強したら、もっと人に優しくできるんじゃないかなとすら思ってます」と柔らかい表情で笑った。

 モデル、アーティスト、役者、絵本作家……さまざまなことに挑戦してきた。読モとしてデビューした当時には、思い描くことのできなかった未来が待っていた。

「自分がこんなにもいろいろやる人間になるとは思っていなかったですね。『これから俳優1本になっていくんですか?』とか聞かれたりもするんですけど、『ほかもやるかもしれないです』としか言えないです(笑)。1つのことを突き詰められる人ってかっこいいですよね。でも、違うことに興味を持ったときに、ほかのことができなくなっちゃうと嫌なので、自分の首を絞めないように『俳優1本!』とは言わないです(笑)」

“短い前髪”に義務を感じたこともあったと語る三戸なつめ【写真:冨田味我】
“短い前髪”に義務を感じたこともあったと語る三戸なつめ【写真:冨田味我】

『前髪切りすぎた』の“呪縛”に苦しんだ時期もあったという。ただ好きだったはずの“短い前髪”が「明日収録だから切らなきゃ」と、いつしか義務へと変わっていた。しかし、今では「切りたい欲のほうが強くなっちゃいました。マネージャーさんに『あ、ちょっと切りすぎてますね』て言われたりするぐらいです」と悩んだ過去は、そこにはもうなかった。

「うそをつかない。見栄を張らない」という活動の軸はブレていない。仕事ができる喜びとファンへの感謝の思いを胸に、「自分らしく表現」することを続けていく。

□三戸なつめ(みと・なつめ)2013年にモデルとして活動を開始。15年に中田ヤスタカ氏プロデュース『前髪切りすぎた』でアーティストデビュー。18年からは俳優として本格的に活動を開始。NHK連続テレビ小説『おちょやん』(20年)などに出演。23年8月12日には芸能活動10周年を記念したフォトエッセイ『なつめろん』(宝島社)が発売された。

◯『なつめろん』出版記念サイン会
・大阪会場
日程:8月26日
会場:ヨドバシカメラマルチメディア梅田
概要:トークイベント&サイン会

・東京会場
日程:9月2日
会場:SHIBUYA TSUTAYA
概要:サイン会

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