『銀河英雄伝説』に学ぶ“理想の上司” 組織と個人論…ヒントがつまった3つの視点
2022年に小説刊行40周年を迎えた『銀河英雄伝説』(作:田中芳樹)は、銀河帝国と自由惑星同盟の2国間の戦いを軸に、銀河の興亡を描いている。1988年のアニメ化を皮切りに、漫画化や舞台化が行われ、『銀河英雄伝説』から政治学者になるきっかけを得た筆者たちによる書籍が出版されるほどの影響力だ。
ヤン・ウェンリーの名言「うまい紅茶を飲めるのは生きている間だけ」
2022年に小説刊行40周年を迎えた『銀河英雄伝説』(作:田中芳樹)は、銀河帝国と自由惑星同盟の2国間の戦いを軸に、銀河の興亡を描いている。1988年のアニメ化を皮切りに、漫画化や舞台化が行われ、『銀河英雄伝説』から政治学者になるきっかけを得た筆者たちによる書籍が出版されるほどの影響力だ。
銀河の興亡をかけた2国間の戦いを通じて描かれるのは政治だけでない。それぞれの軍を率いた戦いの中で、現代社会でも通じる学びがあるのではないだろうか。そこで『銀河英雄伝説』の名シーンから学ぶことができる、組織とその中に存在する個人の在り方について考えていこう。
まずアニメ第1話「永遠の夜の中で」に登場するエピソードを紹介する。軍を率いる司令官の資質について考えさせられるような内容だ。自由惑星同盟軍の上官たちは、状況に応じた部下からの進言を無視し我が道を進む。一方、銀河帝国軍は部下が助言する余地もない有能な指揮官により率いられる。
この場面からは、どんな人間が組織を率いているかで、組織全体のレベルが決まってくることが分かる。自由惑星同盟軍と比較すると銀河帝国軍のほうがレベルは高いように感じるが、部下の意見も柔軟に聞き入れることでよりチーム力の高い組織になるとも捉えることができる。
次に、戦時中の部下や支配する民衆の扱い方から学ぶことについて考察しよう。第14話「辺境の解放」にて、自由惑星同盟軍の無残な民衆の扱い方が描かれている。補給部隊を殲滅させられ食料や物資を失った自由惑星同盟軍が、上層部からの命令を元に民衆から略奪をおこなうのだった。民衆の人権など無視したかのような扱いだ。
一方アニメ第6話「薔薇の騎士」にて、自由惑星同盟軍の第13艦隊の司令官に就任したヤン・ウェンリーはほかの上層部の軍人とは真逆の言葉を部下に伝える。「うまい紅茶を飲めるのは生きている間だけだから、みんな死なないように戦い抜こう」。この一言から、彼の下にいれば生き残れると考え、部下からの信頼が生まれるだろう。
日々の生活においても、上司と部下の立場になることはあるはず。人権を無視したような扱いをする上司よりも、命を大事にしようと考える部下思いの上司の方が、組織の力を引き出せるのではと、このセリフから考えられる。
最後に、アニメ第21話「ドーリア星域会戦、そして…」での、国家を守る軍人らしからぬヤンの発言を紹介する。戦場に臨む部隊に対してヤンは、「かかっているものは、たかだか国家の存亡だ。個人の自由と権利に比べれば、たいした価値のあるものじゃない」と言い放つ。本来守るべき国家よりも、個人の自由や権利の方が価値が高いという意味合いの演説である。
戦争においては、国家を守るために自爆をもいとわない軍隊もいる。戦時中とは、個人の自由と権利よりも国家の方が大事だという思想になるのが理由だろう。その環境の中で、ここまで言い切ってしまうのはリーダーの強さを感じる。現実の会社組織で「会社よりも家庭を大事に」と言って、部下の自由や権利を守ってくれる上司がいると働きがいを感じるのと同じだ。
今回は、政治学者が書籍にするほどの作品である『銀河英雄伝説』のストーリーから、独断と偏見で3つの視点を紹介した。一度、手に取って読めば、学びはこれだけではないと気づき、その奥深さに驚嘆するだろう。