「秋山準よ、お前もか!」ファンから上がる悲鳴、電流爆破マッチに引きずり込んだ大仁田厚の交渉力

「秋山よ、お前もか!」と長年の王道ファンから声が上がった。“邪道沼”にまたまた新たな戦士が引きずり込まれてしまったのだ。

電流爆破のリングこそ大仁田厚の土俵【写真:柴田惣一】
電流爆破のリングこそ大仁田厚の土俵【写真:柴田惣一】

毎週金曜日午後8時更新 柴田惣一のプロレスワンダーランド【連載vol.156】

「秋山よ、お前もか!」と長年の王道ファンから声が上がった。“邪道沼”にまたまた新たな戦士が引きずり込まれてしまったのだ。

 DDT9・9東京・大田区総合体育館大会で大仁田厚、ヨシ・タツ、小嶋斗偉組と秋山準、高木三四郎、岡田佑介組が電流爆破マッチで対戦する。

 大仁田の「電流爆破のリングに上がれ」という呼びかけを、これまで頑なに拒否してきた秋山だったが、DDT道場に押しかけ、高木大社長まで巻き込む強引な邪道流交渉術にとうとう根負け。「(高木)社長がやれ、というならやりますよ」と応じたもの。

 全日本プロレス、ノアと王道マットを闊歩してきた秋山も、DDTに移籍後はDDTの誇る幅広いスタイルに順応してきた。男女混合マッチ、変則ルールマッチなど、以前のストイックな秋山からは考えにくいファイトでも暴れてきた。

 それでも邪道の土俵である電流爆破マッチには背中を向けてきたが、ついに足を踏み入れる。「秋山だけは電流爆破はしない」と信じていた王道ファンからは「ウソだろ! 秋山、お前もか!」と、悲鳴ともいえる驚きの声があがった。

 大仁田は「藤原(喜明)組長、諏訪魔選手、武藤(敬司)選手など、色んな選手が電流爆破マッチに参戦してきた。秋山選手が拒否する理屈がわからなかったが、これでやれる」とニンマリ。ケガを負っている高木大社長に「(秋山に代わって)俺がやりますから」と、言わせた時点で秋山の引っ張り出しを確信していた。まさに「して、やったり」だ。

 元より邪道流交渉術には定評がある。アポなし訪問などお手のもの。新日本プロレスの会場を訪れ、長州力を「またぐなよ」とエキサイトさせたが、最終的に電流爆破のリングに立たせている。蝶野正洋とも東京ドームで実現させた。しかもドームの長い花道でタバコをくゆらせている。当時もご法度だったが、禁煙が進んだ今ならもっとありえない。

 ゴーイングマイウエイならぬ「強引なマイウエイ」。相手を自分の土俵に引きずり込むのはお手の物。常識をぶち壊すのが邪道。何度、引退しても戻って来ることなど、当たり前だ。

 邪道スタイルとは対極にあった人気絶頂のUWFの会場に乱入しようとした際には「チケット、持っていますか」とあしらわれたこともある。猪木さんとの電流爆破を画策したが、これも失敗している。だが何度か味わった挫折も、大仁田にしてみれば「次へのコヤシ」に過ぎない。

 邪道の邪道たるゆえんは「あきらめず、へこたれず」。邪道流で正道や王道の隙間をついて野望を実現させること。ジャイアント馬場さん、三沢光晴さんの薫陶を受けた秋山を邪道沼に引っ張り込んだのだから、その時点でもう勝ちだ。

 諏訪魔が批判し、それに秋山が反論するなど波紋が広がっているが、話題になれば宣伝になる。大仁田は「もっとやれ」と高笑いだろう。

熱いファンの眼差しに大仁田厚も感極まった【写真:柴田惣一】
熱いファンの眼差しに大仁田厚も感極まった【写真:柴田惣一】

思い出す1990年のプロレス大賞

 満身創痍なのも邪道魂が燃えさかるガソリンになる。左腕上腕を骨折し、チタン製プレートをボルトで固定している。今も普段は左腕を包帯で吊っているが、術後5日にしてリングに復帰した。大仁田にしてみれば満身創痍は生きてきた証。ケガは勲章なのだ。

 体中に千針を超える縫合手術の傷跡が刻み込まれている。チューブにつながれた痕跡もそこかしこに残っている。それでも「これが、俺が生きてきた証じゃ」と涼しい顔でうそぶく。

 大仁田厚。何と65歳。思えば、1990年の今日(8月4日)、ノーロープ有刺鉄線電流爆破マッチがFMW東京・レールシティ汐留野外特設リング大会でゴング。大仁田とターザン後藤さんの激闘から、電流爆破の歴史も始まった。

 この年のプロレス大賞で、ベストバウトはこの一戦、MVPは大仁田が選出され、他の団体、選手からは批判が殺到した。当時、主催者側の一員だったが「厳正なる投票の結果です」と、何度も答えたことを思い出す。

 今でも熱心に大仁田を応援している信者のごときファンも多い。リングを取り囲みバンバンと激しくエプロンを叩き、大仁田の振りまく水を浴び、歓喜の表情を浮かべ、声の限り声援を送っている。不思議な魅力の“邪道沼”にハマり、抜け出せないファンは数知れず。

 秋山はどんなコスチュームでリングに上がるのか。電流爆破の餌食になるのか、毒霧を浴びるのか。はたまた大仁田が、秋山のエグイ攻めに悶絶するのか。どのような展開になっても刺激的だ。

 誰に何と言われようとも邪道魂を貫く稀代の波乱万丈男・大仁田厚は日本列島を襲う酷暑よりも熱い。

次のページへ (2/2) 【写真】ついに邪道のリングに足を踏み入れる秋山準
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