YouTubeで拡大するファン層 怖さだけではない怪談マエストロ稲川淳二の魅力

動画配信をきっかけに知ったというファンも多い【写真提供:Off shore】
動画配信をきっかけに知ったというファンも多い【写真提供:Off shore】

「毎回チャレンジなんですよ」 時代に合わせたファン獲得手法を導入

 家族連れの姿も印象的だった。中学生の息子を連れて見に来たという母親は「笑って帰れるから子供たちにも聞かせたいと思ったんです」。続けて息子が「怖いだけじゃなくてこの話いいなって思う怪談があって、聞いていて楽しいし、心霊写真コーナーもウキウキしちゃいます」。初めて娘を連れてきたという父親は「YouTubeがきっかけでファンになった」と話し、娘は「父と一緒に見るうちに自然とつられて引き込まれていった」という。

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 そんな比較的新しいファンは、YouTubeをきっかけに知ったという点が非常に興味深い。稲川は怪談ツアー開始と同時に地上波メディアへの露出が少なくなり、次世代ファン獲得のカギとして、いち早くネットメディアを取り入れた。動画やツイッターを使った怪談配信など、時代に合わせてアップデートしていくそのデザインセンスはまさに稲川淳二の真骨頂だ。

 そんな思いを巡らせているうちに開演となり、舞台に現れた稲川淳二は今日も満員の客席に向かって長い時間、笑顔で手を振った。しばしの静寂の後、大きなチャレンジとなるエンディングのない怪談からスタート。

「今回の話はお客さんにどう受け取ってもらえるんだろうって不安はありますよね。でも、今日のお客さんはちゃんと笑ってくれたし、反応してくれましたね。毎回チャレンジなんですよ」

 怪談ツアーは10月下旬まで続き、四国、中部、北陸、関東を巡り九州、最後の地・沖縄へと向かう。

丁寧に作り込まれたセットも魅力の一つだ【写真提供:Off shore】
丁寧に作り込まれたセットも魅力の一つだ【写真提供:Off shore】

「ツアーの前半というのは、とにかく夢中で真剣にやるんですよ。楽しんではいるけれど、実はそれどころじゃない。そこから段々と余分なものが削ぎ落とされて、欲しい物が増えてくるから、後半の方が出来上がった形になる。いまはとっても楽しんでますよ。でもそうなってくると、もう終わりが見えてくるってことなんですよ。ちょっと寂しいですが、妙な愉しみですよね」

 最後に今後、稲川淳二に期待することをお客さんに聞いた。

「とにかく元気で長生きしてほしい」「健康でいてね」「このまま続けて行ってほしいですね」「まだまだ5年、10年と続けて下さい」

 怪談マエストロは、次の会場へと旅立った。

□稲川淳二(いながわ・じゅんじ)1947年8月21日、東京都渋谷区恵比寿生まれ。タレント、怪談家、工業デザイナー。2012年、怪談ライブ20年連続公演の偉業が認められ、8月13日が「怪談の日」として制定された。近著は、独自のコミュ術を初公開した書籍「稲川淳二の恐いほど人の心をつかむ話し方」(ユサブル)。

(フェリーチェ福)

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