せっかくの名物を「使いこなす、使い倒す」 ご当地“アジ”グルメ開発、きっかけは本場で食べた「おいしさの衝撃」

続々と誕生するご当地グルメの中で、“あえて王道”を押し出す新メニューが注目を集めている。千葉・南房総市の名産のアジを活用した『旨アジ∞(エイト)』だ。なめろうなどアジの伝統料理が有名な千葉で、新食材や奇抜な商品を持ってくるのではなく、ド直球で勝負。地元ゆかりの江戸時代の小説『南総里見八犬伝』にちなんで、「アジ料理を4種類以上含んだ8種類のメニュー」と定義付けており、お店独自のアイデア料理が楽しめる。夏場の旬を迎えた、温故知新のアジ料理。仕掛け人を直撃した。

千葉・南房総市の新名物『旨アジ∞(エイト)』が話題を呼んでいる【写真:リクルート提供】
千葉・南房総市の新名物『旨アジ∞(エイト)』が話題を呼んでいる【写真:リクルート提供】

千葉・南房総市の名産の「アジ」を活用 地元のお母さんたちの希望も反映

 続々と誕生するご当地グルメの中で、“あえて王道”を押し出す新メニューが注目を集めている。千葉・南房総市の名産のアジを活用した『旨アジ∞(エイト)』だ。なめろうなどアジの伝統料理が有名な千葉で、新食材や奇抜な商品を持ってくるのではなく、ド直球で勝負。地元ゆかりの江戸時代の小説『南総里見八犬伝』にちなんで、「アジ料理を4種類以上含んだ8種類のメニュー」と定義付けており、お店独自のアイデア料理が楽しめる。夏場の旬を迎えた、温故知新のアジ料理。仕掛け人を直撃した。(取材・文=吉原知也)

「まず、千葉のアジフライを食べたいと思って実際に食べにいったら、肉厚のおいしさに衝撃を受けました。南房総市の地域振興の企画をやらせてもらうとなったときに、せっかくアジが名物なので、使いこなす、使い倒す。“日本一のアジのまち”にしたい。その発想からアジ料理にポイントを絞ることになりました」。

 仕掛け人は、じゃらんリサーチセンター客員研究員で、ご当地グルメ開発プロデューサーの田中優子さん。リクルート社で兵庫県エリアを中心に宿泊事業に携わり、ご当地グルメ開発を担当してからは、『淡路島サクラマス』など約30のプロジェクトを成功させてきた“地域おこしのプロ”だ。

 新型コロナウイルス禍からの人流回復とリベンジ消費の取り込みを図る地域振興策。まずは、房総半島の最南端に位置し、内房と外房の海に面する南房総市の立地に着目した。千葉県は日本有数のアジの水揚げを誇る。同市では市内4つの漁港をはじめ、近隣の港から良質で豊富な種類のアジが、年間を通じて安定して手に入る。しかも、一般的な「マアジ」をとっても、内房のものは脂がのっていて、外房のものは筋肉質。味わいに違いがあり、グルメ事業にとって魅力的であることが改めて分かった。

「それに、新鮮な刺身だけでなく、みそ・ショウガ・ネギを入れてたたく伝統料理のなめろうがあります。地元では、なめろうを焼いたさんが焼き、暑い夏にはアジの切り身にみそをといた冷水をかける水なますといった、多彩なレシピがあるんです。無駄なくアジをいただくことは、サステナビリティー(持続可能性)にも通じると思いました」。

 観光ニーズ調査(南房総市が実施したギャップ調査)のデータを見てみると、「地元でおいしいものを食べたい」と考える人が51%を記録。南房総市の来訪者向けのアンケートでは、満足度の項目で、刺身が88%、アジフライ、房州海老、海鮮丼が同じ81%となり、海鮮グルメが求められていることが判明した。食べ物を目的に観光客に来てもらえれば、滞在時間が増えて消費行動が見込まれ、地元漁師も潤う。「主役」はアジに決まった。

「ブランド魚でなくても、大衆的なアジでも十分に勝負できる」 独創メニューも

 アジ料理がテーマになることは決まったが、企画に協力してくれた地元のお母さんたちは「アジ以外の季節に合わせたお料理も一緒に食べてもらいたい」という強い希望を持っていた。ここで田中さん流のプロデュース術が発揮される。「上から押し付けず、地元の皆さんが考えて出し合った意見を大事にすること」。話し合い、試食会に加えて、メンバーやメディアによる“投票”を実施。アジ料理に郷土料理を加えたバリエーションを展開する方向性が定まった。田中さんは「無限大で料理を楽しめる、という意味を込めて、メニュー名に∞を使いました。それに、ブランド魚でなくても、大衆的なアジでも十分に勝負できる。そう確信したのです」と熱く語る。

 今年3月にプロジェクトをローンチ。現在、市内の飲食店やカフェ、宿など9施設で12メニューを提供している。料理人や店主の個々の工夫が凝らされており、田中さんが感激した「なめろうタルタル」、「さんがいなり」、「つみれ汁」、「たたき・さんが焼き・骨せんべいを盛り込んだひつまぶし」といった独創的なアイデアメニューまで登場。また、お店によっては運がよければ、高級魚「シマアジ」や、珍しい「カイワリアジ」といった希少な種類を味わえるのも魅力だ。アジをおいしく食べられる新たな可能性が広がっている。

 田中さんは、新商品を作ったままで満足してしまいがちな、ご当地グルメ事業の課題点を指摘。そのうえで、「地元の皆さんが自分たちで、売れたまたは売れなかった理由、よかったこと、悪かったことをちゃんと振り返って、ブラッシュアップしながら継続的に取り組む、『自走』が重要だと考えています」と強調する。

 アジ料理の新戦略。まずは、この夏の書き入れ時でどこまで成果を出せるか。田中さんは「実はもう、売れる・売れないの差が出ています。価格や見た目などの要素もありますが、SNSを使った宣伝効果も要因の1つになっていると分析しています。私は『自走型プロモーション』と呼んでいるのですが、お店や店主個人がSNSをうまく活用して自分で発信すること、個人で稼ぐ能力を身につけることを重視しています。現在進行形でブラッシュアップを重ねながら1年間頑張り、また来年もアジの新メニューをデビューさせるような、そんな無限に広がる取り組みにしていきたいです」と前を見据えている。

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