園児のバス置き去り死問題 安全装置にメーカー約20社が参入 付加価値追求で開発競争激化

昨年9月、静岡・牧之原市の川崎幼稚園で送迎バスに3歳の女児が置き去りにされ、熱中症で死亡した。国は置き去り防止対策として、今年4月から保育園や幼稚園などの送迎バスに安全装置の設置を義務化した。安全装置は開発競争が激化し、メーカー約20社が参入し40以上の製品が流通している。ボタン式、センサー式などの種類があり、製品の特徴もさまざまだ。メーカー側はどのような工夫をこらしているのか。開発の舞台裏を取材した。

車両後部のボタンを押す幼稚園バスの運転手【写真:ENCOUNT編集部】
車両後部のボタンを押す幼稚園バスの運転手【写真:ENCOUNT編集部】

一晩で試作品を完成 追求した使いやすさ

 昨年9月、静岡・牧之原市の川崎幼稚園で送迎バスに3歳の女児が置き去りにされ、熱中症で死亡した。国は置き去り防止対策として、今年4月から保育園や幼稚園などの送迎バスに安全装置の設置を義務化した。安全装置は開発競争が激化し、メーカー約20社が参入し40以上の製品が流通している。ボタン式、センサー式などの種類があり、製品の特徴もさまざまだ。メーカー側はどのような工夫をこらしているのか。開発の舞台裏を取材した。

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 日本ヴューテック(神奈川・川崎市)はボタン式の安全装置「まもるくんA(エース)」を開発。当初、センサー式の開発を進めていた大手メーカーへのOEM供給(他社の製品を別のメーカーが製造すること)が決まり、大手バス製造メーカーの純正部品としても採用されるなど、話題になっているメーカーの1つだ。

 松波登社長は、74歳で現役のラリードライバーという異色の経歴の持ち主。昨年秋、幼稚園での置き去り事故が報じられると、すぐに置き去り防止のための製品開発に着手した。

 同社はグループ会社も含め、大型車のバックアイカメラや船のガス警報機などの技術で実績があった。

「昨年の9月ですよね。テレビで幼稚園バスの悲惨なニュースが流れて。僕らは顔認証についての技術もあるので、『子どもが乗るとき、降りるときに顔認識して、足し算引き算をすれば置き去りがないのが分かるよね』という話をしていたのですが、アメリカでは運転席のキーを抜くと、車内で警報が鳴り最後部のボタンを操作し止めにいくと聞きました。簡単で確実、とてもいいシステムだと思い、一晩で試作品を完成させました」

 製品化について国のガイドラインが決まる前から、技術者を集めて研究。こだわったのは、子どもが押すボタンだ。通常大人用、子ども用の2つのボタンがあるところを、国土交通省と折衝を行い、1つのボタンに機能を統合したシンプルな製品を実現した。「子どもが使いやすいように」との狙いがあった。

 外部への通報は警告音ではなく、しゃべることにこだわった。「ホーンだとうるさいだけで、警報の意図が分からない。『スピーカーで説明したほうがいいよね』という話になりました」。語り手にはプロの声優を起用。設置もバンパーの裏などに簡単に取り付けできるようにした。

 そして、他メーカーにはない便利な機能も追加した。「園児が乗降中です。ご注意ください」のアナウンスだ。園児の乗降を周りの歩行者や自転車に知らせることができるこのシステムは、ガイドラインには記載されていないものの、特に好評だという。

 川崎市の川崎こまどり幼稚園は今年5月、稼働している3台のバスのうち1台に「まもるくんA」を取り付けた。運転手の男性は、「シンプルでいい」と話す。バスが停車した後、車内に人が残っていないかどうかをセンサーで感知するセンサー式の安全装置を取り付けたバスもあり、使用感を比較。ボタン式は誤作動の心配が少ないことを長所に挙げた。

 子どもたちに講習を実施すると、園児からは「あのボタンを押すんでしょう」と声が上がり、操作に問題がないことを確認できた。同幼稚園では、昨年の置き去り事故の報道を受け、送迎時には運転手のほか先生2人が同乗し、安全対策に力を入れてきた。安全装置の設置について、運転手は、「間違いがないからいいと思うね」と前向きに受け止めつつ、「最終的に人ですよね。人のオペレーションじゃないかなと思います。やっぱり機械ですから」と、目視による車内点検が重要との考えを示した。

 送迎バスの安全装置、“設置元年”となった2023年。企業の開発競争はこれからますます激しくなることが予想されるが、社会貢献への思いは強い。松波社長は、「ああいう痛ましい事故は絶対やっちゃいけないですよね」と、再発防止を願った。

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