「災害時、最も必要なのは現金」 関東大震災から100年 蝶野正洋が説くアナログの備え

2023年は1923年に発生した関東大震災から100年の節目。地震が発生した9月1日の「防災の日」に向け、日ごろどのような対策を取ればいいのか、改めて考える機会になっている。死者・行方不明者が約10万5000人(約9割が焼死)に上った最悪の災害から何を学べばいいのか。日本消防協会の消防応援団を務めるなど、長年、防災・救命の啓発活動に取り組んでいるプロレスラーの蝶野正洋に聞いた。

蝶野正洋【写真:ENCOUNT編集部】
蝶野正洋【写真:ENCOUNT編集部】

関東大震災100年 IT化の反動を危惧

 2023年は1923年に発生した関東大震災から100年の節目。地震が発生した9月1日の「防災の日」に向け、日ごろどのような対策を取ればいいのか、改めて考える機会になっている。死者・行方不明者が約10万5000人(約9割が焼死)に上った最悪の災害から何を学べばいいのか。日本消防協会の消防応援団を務めるなど、長年、防災・救命の啓発活動に取り組んでいるプロレスラーの蝶野正洋に聞いた。(取材・文=水沼一夫)

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 関東大震災は、お昼時の関東地方を襲ったとあって、火災による死亡者が相次いだ。旧東京市内134か所で、同時多発火災が発生。一方で、震源が相模湾だったため、早いところで地震後5分ほどで津波が到達。神奈川を中心に、200~300人の犠牲者が出ている。

 蝶野は5月、日本消防協会の秋本敏文会長とともに、谷公一防災担当大臣を表敬訪問。関東大震災100年を受け、地域防災の役割などについて意見交換した。阪神・淡路大震災や東日本大震災などの巨大震災が続き、今後も30年以内にマグニチュード7クラスの地震が発生する確率は約70%と言われている。悲劇を繰り返さないためにも過去を教訓とし、地震に備えることが欠かせない。

「特に神奈川は津波の被害や水害が多かった。先日YouTubeの撮影で茅ヶ崎のほうに行ったけれど、100年前の話なんで、それを経験した人たちはもう誰もいないんですよね。時間がたてば忘れちゃうし、何を備えればいいのかみんなで啓発しながら準備しておかないと難しいですよね。震源地は相模湾なので、鎌倉にも津波が来ている。一方、東京のほうが死亡者数が多かったけれど、地震というより、火災で亡くなっているんですよね。これを機会にどんな地震だったのかっていうのをもう1回、ちゃんと勉強し直してもいいと思いますよね」と、蝶野は歴史から学ぶことの意義を説いた。

 100年がたち、時代は大きく変化した。都市部には高層ビルが立ち並び、建物の耐震も強化されている。

「消防の人たちが言っていたのは、高層ビルも建築費の3割は、避難であったり防災に金がかかっている。そんなの日本だけだって言ってましたよね。それぐらい(建築基準が)厳しいらしいですよ」

 建物倒壊の可能性は技術の進化で以前に比べれば低くなっている。さらに、震度5相当以上の地震が発生すると自動的にガスが止まるなど、火災を防ぐためのシステムも構築されている。

 一方で、技術が発達してしまった分、こと震災に置いては、逆に不都合が生じることも。

「IT化で人をどんどん減らしているけど、健全に町や生活が安定しているときは便利になっているけれども、いざ何かがストップしたり、電気が止まったら、人手がどうしても必要になってくる」。デジタル化の波で、人の仕事がAIなどに置き換わっていることが、マイナスに作用する可能性があるという。

 マンパワーの不足は大きな課題だ。

「今、銀行だって支店は10店舗が1店舗に集約されて人がほぼいない。俺らの世代はまだ何とかパソコンから申し込みとかスマホからできるけど、ちょっと苦手な人たちは本当だったら明日できたことが、2週間待たされるとかそういうのは普通だよね。そういう状態になっているところで、もしでかい災害が来たらそこって対応がかなり混雑すると思う。いろんなものを回復するのに1か月とか言ってるけど、もっと時間がかかるかもしれない」

 高層ビルでは一定の揺れを感知した際、安全確保のため自動的にエレベーターが止まるが、そのため、中に閉じ込められるケースが多発している。「それの点検が電車や新幹線と一緒で一応全部チェックしなきゃいけない。この整備する人間が圧倒的に足りていない」。平時は数か月に1回という点検でも、地震が発生すれば、集中的な作業が必要となる。復旧までに時間を要してしまい、足止めをくらう可能性もある。

谷公一防災担当大臣(右)を表敬訪問した蝶野正洋(左)。中央は日本消防協会の秋本敏文会長【写真:アリストトリスト提供】
谷公一防災担当大臣(右)を表敬訪問した蝶野正洋(左)。中央は日本消防協会の秋本敏文会長【写真:アリストトリスト提供】

進むデジタル化 「電気が止まったら怖いよね」

 万一に備えるべきことは何か。蝶野が訴えたのは、現金を持っておくことの大切さだった。

 防災や救命の啓発に携わるようになり、高校生、中学生の子ども2人を含む家族の避難先を決めているほか、神奈川の自宅には防災セットや非常食、飲料を備蓄している。それに加えて、用意しているのがまとまった現金。日常使いとは別の財布に入れ、玄関付近に置いている。

「今、現金を使わなくなったけど、電気が止まったら怖いよね。レジ系とかも全部止まって、携帯でピッとしても支払いできない可能性があるじゃない。そういうとき現金は必要。しかもある程度の額が必要だと思うんですよ」

 財布には数十万を入れるが、「すぐなくなっちゃうと思う」と、見通している。「だってそういうときは必要なものをまた高い値段で悪いやつらが売りさばくじゃん。水1本1万円とかなっちゃったりね」と、災害直後の混乱を想定している。

 災害の備えは、アナログに。キャッシュレスな時代だからこそ、響く言葉だ。

「日本人は東日本大震災でもそうだったけど、みんなで助け合って、乗り越えて来ている。ただ、知識がないとやっぱり不安が先にいってしまう。関東大震災100年という節目に、防災に対する備えの知識をみんなが改めて再確認する機会になっていけばいいんじゃないかなって思います」と、蝶野は結んだ。

□蝶野正洋(ちょうの・まさひろ)1963年9月17日、東京都出身。84年、新日本プロレスに入門。黒のカリスマとしてnWoブームをけん引。99年、ファッションブランド「ARISTRIST(アリストトリスト)」を設立。2010年に退団。現在はYouTube「蝶野チャンネル」が人気を集めるほか、NWHスポーツ救命協会代表理事、日本消防協会「消防応援団」、日本AED財団「AED大使」、日本寄付財団アンバサダーを務める。

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