【週末は女子プロレス♯108】東京女子のエース・山下実優、超過密の海外遠征 飛行機、試合、練習の日々で悟りの境地
東京女子プロレスのエース山下実優が約3か月間の海外遠征を終えて帰国した。山下は6・24神戸で東京女子に合流し、翌日には地元・福岡で凱旋試合、7月8日には東京・大田区総合体育館でビッグマッチが控えている。タッグパートナーの伊藤麻希と同じく、このところ海外での試合が多くなっている山下。今後は再び日本を拠点とすることになるが、コロナ禍の困難も乗り越えただけに、海外の団体にも単発で上がる機会が増えそうだ。
7・8大田区でソーヤー・レック戦
東京女子プロレスのエース山下実優が約3か月間の海外遠征を終えて帰国した。山下は6・24神戸で東京女子に合流し、翌日には地元・福岡で凱旋試合、7月8日には東京・大田区総合体育館でビッグマッチが控えている。タッグパートナーの伊藤麻希と同じく、このところ海外での試合が多くなっている山下。今後は再び日本を拠点とすることになるが、コロナ禍の困難も乗り越えただけに、海外の団体にも単発で上がる機会が増えそうだ。
2013年8月のDDT両国国技館でデビューした山下は、同年末の東京女子旗揚げから団体の中心人物として活動してきた。頂点王座のプリンセス・オブ・プリンセス王座は最多の3度戴冠。文字通り東京女子のエースとして君臨してきたのである。
そんな山下が海外に目を向けたのは、初の海外マットとなった2018年夏のアメリカ、チカラプロ参戦がきっかけだった。チカラプロの6人タッグトーナメントに中島翔子&坂崎ユカのトリオでエントリー、準決勝までコマを進めたのだ。このトーナメントは同団体恒例の男女混合マッチで、海外からもレスラーを招聘。男女の壁を超えるだけではなく、さまざまなキャラクターが一堂に会すオモチャ箱をひっくり返したような6人タッグの祭典で、山下は初の海外で大きな衝撃を受けた。
2019年4月にアリシン・ケイからSHINE王座を獲得し海外タイトル初戴冠を遂げると、2か月後にはウィル・オスプレイ主宰のフロントライン・レスリング参戦でイギリスに飛び、初来日前のジゼル・ショーと対戦。このあたりから、海外への興味が膨らんでいったという。同年9月には、伊藤とともにスペインでも試合をした。
2020年に入ると世界的な新型コロナウィルスの感染拡大により国外で試合をする機会はなくなってしまったが、22年5月、久しぶりの渡米がかない、AEWにも初参戦。以後、単発での遠征を繰り返しながら、同年11月にはイギリスの女子プロモーションEVEでアレックス・ウィンザーを破り、同団体最高峰のEVE王座を奪取した。このベルトは11年に新設されブリタニー・ナイト(ペイジ)が初代王者。WWEでスーパースターとなった選手が何人も歴代王者に名を連ねており、山下はさくらえみにつづく2人目の日本人王者となったのである。
イギリスのプロレスは日本とアメリカのいいとこ取り
山下は現在もEVE王座を保持し、5度の防衛に成功中。日本復帰2連戦後には再びイギリスに飛び、7月2日に元王者エマーソン(サミー)・ジェーンの挑戦を受ける予定だ。
イギリスでの試合について山下はこう話す。
「日本とアメリカのいいところを取ったのがイギリスの(女子)プロレスかなと思いますね。アメリカのエンタメ性が強い部分や、日本の技術、テクニカルな部分をうまく融合させているなって思います。EVEにはおもしろい選手がいたり、テクニカルな選手がいたり、そのなかでミリー・マッケンジーと30分アイアンウーマンマッチでの防衛戦(4対3のスコアで山下の勝利)をしたり、いろんなものに挑戦させてくれるのがEVEのプロレスですね」
また、現在の山下は海外(英米)2冠王でもある。EVE王座に加え、先日の遠征でスパーク・ジョシプロレス・ワールド・オブ・アメリカのスパーク・ジョシ世界王座を奪取、初代王者に輝いた。アメリカ・ロサンゼルスを拠点とするこの新興プロモーションは『SPARK JOSHI PURORESU OF AMERICA』と表記する。JOSHI PURORESUという表記からして“日本の女子プロレス”から多大な影響を受けていることがうかがえる。6月11日&16日に行われた旗揚げ戦には山下のほか、伊藤麻希、SAKI、山下りな、ラム会長が参戦。山下は初代王座決定戦で“ロード・ウォリアーズ”ポール・エラリングの娘レイチェル・エラリングを破りベルトを奪取すると、第2戦で初防衛に成功。王者として日本に戻ってきており、今後の防衛活動も期待される。
海外2冠王となったこの3か月間、山下はアメリカ国内をサーキット(途中で一度イギリスにわたりEVE王座を2日で2度防衛)。ひとつの場所にとどまらず、さまざまなプロモーションで日替わりのように試合を行ったのは、山下自身の希望で実現した。
「週末にはほぼ試合をしてました。飛行機に乗るか、試合をするか、練習するかというような生活でしたね。練習ではWWEのナタリアのところに行ったり、柔術のトレーニングをしたり。3か月間ずっとプロレスについて考えている時間だったと思います。修行? いや、修行というよりも、自分にとっては旅でした。この10年間、いままで自分がやってきたものがどこまで通じるか、アメリカで自分自身をどこまで発揮できるかを試しに行ったというか。もちろん得るものは大きかったですけど、海外でいろいろ吐き出してきたという感覚です。いろんな景色からいろんなものが見れた。いろんな感情にもなれたなかで、よりオープンマインドになれたというか、気持ちが行く前に比べて、より開放的になれたかなって思いますね」
実績もあるだけに、もはやひと昔もふた昔も前の海外武者修行とはわけが違う。自分自身の希望もありつつ、参戦は現地団体からの要請でもある。プロモーターは“日本の、東京女子の、山下実優”を見せてほしいからブッキングするのだ。それに応えるのが山下実優というプロレスラーの役割でもある。
「自分の蹴りスタイル、ファイトスタイルというのは変えずに、変えないようには心がけていました。と同時に、上がる場所、団体によって雰囲気や見せるべきものが違うので、同じ技をするにしても瞬時に出し方や闘い方を変えていかなきゃいけない。それこそが海外ならではなのかなと思います。そういった苦労はありますけど、そういうところも海外の楽しさだったりするので、苦には感じないです。逆に、海外には自由さがありますよね。東京女子ももちろん自由ではあるんですけど、海外ではぶっ飛んだ自由さがあると感じます」
3か月で約30試合、その半数がタイトルマッチ
この3か月間で約30試合をこなした山下。約半数がタイトルマッチというのも驚異的である。東京女子のLA大会でプリンセスタッグ王座を失うも、たとえば初戦からニコル・マシューズのNEW女子王座に挑み、アテナ(エンバー・ムーン)のROH女子王座にチャレンジ、インパクトレスリングにも参戦した。さまざまな場所で、異なる観客の前であらゆるタイプのレスラーと対戦。なかにはハードコアスタイルの選手もいる。そういった意味では、7・8大田区でのソーヤー・レック戦は、初遭遇ということもあり、“山下実優ワールドツアー番外戦”にして集大成という考え方もできるだろう。
「ソーヤーは、私が海外に行っている間に東京女子に来た選手ですよね。瑞希のプリプリ王座に挑戦、乃蒼ヒカリとは(蛍光灯)デスマッチで闘ってた。身長188センチに加えハードなイメージがあるので、海外に3か月行く前の自分だったらどう闘おうか、恐怖心もあったと思います。でも、今回の遠征でホントにいろんな人を見たし、いろんな闘いを見てきたので、恐怖心なく対応できるんじゃないかと思うんです。むしろ何をしてくるかわからない、ソーヤー選手の恐ろしさを体感できたらいいかなと思っています」
同大会では、タッグパートナーの伊藤がメインで瑞希の保持するプリプリ王座に挑戦。このタイトルを長きにわたり守ってきた山下だけに、この試合をどう見るつもりなのだろうか。奪回の意志についても聞いてみると……。
「伊藤には何度目かの正直で取ってほしいなという思いがあります。私としては伊藤とまたタッグのベルトも取りにいきたいので、大田区でお互いに勢いをつけたらなと思いますね。ただ、瑞希が持っているからこそ自分も(プリプリ王座に)挑戦したいというのもあるんですよ。ただこれに関しては大田区が終わってみないとわからない。大田区のメイン後、私がどういう気持ちになるかでしょうね」
年末には坂崎が団体を卒業し、アメリカに拠点を移す。この決断に対し、彼女の海外志向を知っていた山下も理解を示す。AEWが主戦場になると思われるが、山下もまた、山下なりのアプローチで海外と日本を往来することになるだろう。このところ新人選手が次々とデビューし東京女子の風景も変わりつつある。遠征の成果を国内で若い世代に還元、世界を見てきた山下実優が、東京女子を動かしていく。