自転車追い抜き時のベル使用が波紋 ベル本来の目的とは? 専門家「形骸化しているのは事実」

自転車で通行中、歩行者を追い抜く際にベルを鳴らしてトラブルとなった投稿が拡散、波紋を呼んでいる。通行を知らせるためにベルを鳴らす行為は地域によっては一般化している場合もあるが、法律上はどんな問題点があるのか。また、そもそも自転車のベルは何のためについているのか。専門家に見解を聞いた。

自転車ベルの使用について波紋を呼んでいる(写真はイメージ)【写真:写真AC】
自転車ベルの使用について波紋を呼んでいる(写真はイメージ)【写真:写真AC】

子どもを自転車に乗せた女性と中年の男性が激しい口論に

 自転車で通行中、歩行者を追い抜く際にベルを鳴らしてトラブルとなった投稿が拡散、波紋を呼んでいる。通行を知らせるためにベルを鳴らす行為は地域によっては一般化している場合もあるが、法律上はどんな問題点があるのか。また、そもそも自転車のベルは何のためについているのか。専門家に見解を聞いた。(取材・文=佐藤佑輔)

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「どけどけじゃなくて普通に通りますよってことで鳴らしただけじゃないですか」「じゃあ通りますって言えやいいじゃん、声出して。違うか! おい!」「どう喝ですかそれ。脅しですか? 脅しですよね。子どもの前でそんなこと言わないでもらえます?」「なんで声出さねえんだよ。ちょっと通りますって言えよお前よ!」「泣いちゃったじゃないですか。どうしてくれるんですか」「早く呼べよ警察をよお!」

 今月18日、SNS上で拡散した動画では、子どもを自転車に乗せた女性と中年の男性が激しい口論になる様子が1分余りにわたって収められている。投稿者の女性は「自転車で子供を病院に連れて行く途中、狭い通路だったので注意喚起のために一度ベルを鳴らしただけなのに、前カゴを捕まれ離してくれませんでした。挙句子供を前にして大声で怒鳴り、怯えた子供は泣き出してしまいました」「子供を守らないといけないし心細かったのですが、たまたま近くを通りかかった方に助けていただき、その後警察もすぐ駆けつけてくれました。助けていただいた方々には本当に感謝しきれないです」と状況を説明。一連の投稿はすでに削除されている。

 ネット上では「幼い子どもを連れた女性をどう喝するなんてありえない」といった声の一方で、「歩行者をどかすためにベルを鳴らすのはれっきとした道交法違反」「怒鳴るのはやりすぎだけど、マナーの悪い自転車乗りが多いのも事実」「どっちもどっち」と男性を擁護する声も多く上がっている。

 ついやってしまいがちな自転車のベルで通行を知らせる行為。そもそも、自転車のベルはどんな状況のときに鳴らすためのものなのか。自転車のマナーに詳しい自転車の安全利用促進委員会メンバーの谷田貝一男氏は「道路交通法ではベルを鳴らさなければならない場所には『警笛鳴らせ』の標識が立っています。逆に言うと、それ以外の場所では鳴らしてはいけないことになっています」と解説する。

「標識があるのは見通しの悪い交差点や、カーブのある場所、坂道の頂上部分など。ただ、都市部で設置されていることは少なく、見たこともないという人の方が圧倒的に多いでしょう。私でさえ、ほとんど見た記憶がありません。例外として、危険が迫った緊急事態のときは標識がなくとも鳴らしてもよいことになっています」

専門家でさえ「ほとんど見た記憶がない」 形骸化する自転車ベルの実情

「ベルを鳴らさなければならない場所」が定められているため、自転車にはベルを装着しなくてはならない決まりとなっているが、現実的に鳴らす場面は極めて限定的だ。また、実際に標識がある場所でも、ベルを鳴らすよりも一時停止や左右確認の方が交通安全には有効で、ベルの利用について指導する機会もほとんどないのが現状だという。

「戦前までは、ベルやもっと音の大きい警報を鳴らして歩行者をどかせることは認められていました。それが法律が変わり、鳴らしてもよい場面が大きく狭められた経緯があります。今回のようなケースでも、ついているから鳴らしてしまうという事情も理解はできる。今日ではベルの役割が形骸化してしまっているというのは事実でしょう」と谷田貝氏。

 その上で「歩行者からしてみると『どけ』と言われているように取られても仕方のないこと。やはり声をかけることが大事でしょう。お子さんを乗せていると重く、降りて進むのが大変ということもあるので、またがったまま両足をつけてゆっくり進む、歩行者には道を譲ってもらえるようお願いをするというのが正しいマナーかと思います」と見解を語る。

 そもそも、自転車のルールやマナーについては自動車やバイクなどと比較するとあまり周知が進んでいないのが実情だ。道交法では軽車両として、歩道と車道がある場合は車道側を通行するよう定められているが、谷田貝氏によるとこれにも例外があるという。

「歩道を通行してもよい条件としては大きく4つ。1つ目は歩行者と自転車の両方が通行してもよいとする標識がある場合、2つ目は13歳未満の子どもと70歳以上の高齢者、または身体が不自由な方が乗る場合、3つ目は車道の左端に自動車が駐停車していたり、道路工事をしている場合、4つ目は車道の交通量が多く、通行に危険が伴う場合です。特に4つ目は主観的なもので、解釈が曖昧なのが現状です。また、車道の左側に自動車専用通行帯がある場合はそこを通らないと法令違反となりますが、これも駐停車がある場合などは例外となっています」

 今年4月からは自転車利用者のヘルメット着用も努力義務化されたが、周知が進んでいるとは言い難いのが現状だ。自転車のルールやマナーをより広く啓発するための仕組み作りが求められている。

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