別所哲也「学ぶことなんてあるんだろうか」 30代で受けた衝撃、変わった価値観がつないだ奇跡

俳優、ラジオMCなど多彩に活躍する別所哲也が2月、東京都内の魅力を国内外に発信する「東京都観光大使」に選ばれた。都として初の試みに気合十分。東京・青山などで6月26日まで主宰する短編作品の映画祭を開いている別所は「時代を映し出すショートフィルムから、東京の今を感じて」と思いを込めている。

別所哲也【写真:ENCOUNT編集部】
別所哲也【写真:ENCOUNT編集部】

ミッション達成のために 大切なのはパッションとアクション

 俳優、ラジオMCなど多彩に活躍する別所哲也が2月、東京都内の魅力を国内外に発信する「東京都観光大使」に選ばれた。都として初の試みに気合十分。東京・青山などで6月26日まで主宰する短編作品の映画祭を開いている別所は「時代を映し出すショートフィルムから、東京の今を感じて」と思いを込めている。(取材・文=西村綾乃)

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 慶応大進学のため、静岡から上京。俳優の中村雅俊も所属した英会話サークル「ESS」で演技に興味を持った。4年生のときにミュージカル『ファンタスティックス』で初舞台を経験。大学卒業後の1990年に日米合作映画「クライシス2050」でハリウッドデビューした。

「オーディションに合格し、渡米したとき英語力には自信がありました。でもカメラの前に立つためには、発音など基本的なことを学び直さなくてはいけなかった。挫折からのスタートでした」

 帰国後はトレンディー俳優として活躍。日米を往復する多忙な日々を送った。走り続けた20代。ふと立ち止まった30代のとき「理由なき不安」に襲われた。

「ロサンゼルスに3か月ほど休養していたとき、友人に『ショートフィルムを観に行こう』と誘われました。俳優として長編映画に出演していましたから、学ぶことなんてあるんだろうかと、気乗りしませんでした」

 出向いたスタジオで、衝撃の出合いがあった。

「短い映像の中に携わったクリエーターのチャレンジが見えました。多額の資金やたくさんのスタッフがなくても、こんなに素晴らしい映像が生み出せるのかと、価値観が変わりました」

 スティーブン・スピルバーグも短編作品を評価されたことをきっかけに監督への道を拓(ひら)いたと知った。「熱がこもった作品を多くの人に知ってほしい」。ふくらんだ思いは1999年に、日本発の国際短編映画祭『アメリカン・ショートショートフィルムフェスティバル(現・ショートショート フィルムフェスティバル&アジア)』の設立へとつながっていく。

 ジョージ・ルーカス監督が大学時代に撮影した短編作品の上映許可を得るために奔走した初回は、奇跡的なできごともあった。

「本当に偶然だったのですが、映画『スターウォーズエピソード1/ファントム・メナス』のプロモーションで来日されていたときでした。上映許可はもちろん、アメリカ大使館で開催したパーティーに来てくれるなど、映画祭の周知にも一役かっていただきました」

「ミッションを達成するためには、パッションを持ってアクションすることが大切」と語る。その熱に人が集まり、輪がふくらんでいった。渋谷、青山などで6月26日まで開催される映画祭には、ハリウッドスターの、ベン・アフレックやマット・デイモンがプロデュースしたフィルムのほか、俳優の玉木宏、土屋太鳳らが監督を務めた作品も上映される。

「25回目を迎えた今年のテーマは『アンロック』。演者、監督などの境を超えて、それぞれの思いを形にしたクリエーターの熱を受け取ってほしい。紛争や、SDGsなど今を生きている僕らが関心を持つことがテーマになっていることが多いこともショートフィルムの特徴。そこにある本質を見てほしい」

21日には出演する音楽劇が公開に

 映画祭の主宰者として文化を継承し、役者として表舞台に立ち続ける。さらに月曜から木曜日の、午前6時から9時までは、六本木にあるラジオ局「J-WAVE」で生放送『TOKYO MORNING RADIO』のMCを担当。コロナ禍には同じ時間、変わらず聴こえてくるその「声」に多くの人が支えられた。

「前の番組から数えると、もう17年になります。リスナーのみなさんと時間を共有できることが何よりの喜びです。『小学校だった息子が社会人になりました』と声をかけていただいたときは、僕の声が誰かの人生と共にあることを知りうれしかった。朝4時半に起きてスタジオに向かう日々は僕の人生そのものです」

 33階にあるスタジオからは、2月にシェフの三國清三、バレエダンサーの熊川哲也らと共に観光大使に任命された東京の街が一望できる。

「放送を続けている中で、街の様子は様変わりしました。国際都市東京を目がけて色々な人やものが集まってきます。その中で東京らしさを守りながら、あらゆる文化を取り入れる東京は、名アレンジャーだと感じています」

 設立した映画祭では国籍や性別問わず、多くの人に門戸を開いている別所。映画という文化を継承する者として尽力する一方で、自らも新しい表現の場に身を置き続けている。今年は『チェーザレ 破壊の創造者』に続き、白井晃演出の音楽劇『ある馬の物語』でセルプホフスコイ公爵役を務める。舞台では本格的な歌唱にも挑戦する。

「僕は主演の成河(そんは)さんが演じる駿馬・ホルストメールの才能を見い出す公爵を演じます。白井さんの演出を受けるのは初めて、とてもワクワクしています。トルストイがこの戯曲(原題『ホルストメール』)を書いたのは130年以上前の話ですが、人間の業や、愚かさなどは今の時代でもうなずける部分が多くありました。音楽もとても刺激的でなので、ぜひ会場に足を運んでいただけたら」

 舞台は世田谷パブリックシアターで、6月21日に開幕する。

□別所哲也(べっしょ・てつや) 1965年8月31日、静岡県生まれ。日米合作映画『クライシス 2050』で90年にハリウッドデビュー。『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』などの舞台に多数出演。99年に立ち上げた日本発の国際短編映画祭『ショートショート フィルムフェスティバル & アジア』ではその功績が認められ、文化庁長官表彰を受賞。内閣府「世界で活躍し『日本』を発信する日本人の1人」に選ばれている。

次のページへ (2/2) 【動画】ラジオ生放送中にサバサンドを実食する別所哲也の様子
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