【医療の現場から】ある臨床検査技師の意見 PCR検査の熟練技師が増えない理由

PCR検査の高い技術は“職人の技”

「PCR検査なんて簡単だ」という人もいますが、それは少々乱暴な意見ではないでしょうか。ウイルス検査は非常に小さなウイルスを検出する作業なので繊細さが必要です。現場では、熟練の技師が検体に異物が入らないように、慎重に扱って検査をしています。高いPCRの検査技術は“職人の技”のようなものです。そして、そのような技術をもってしても、PCR検査の精度は7~8割なのです。

「自分で検体を採取すればいいのではないか」という人もいますが、これはなかなか難しいと思います。我々検査技師はここ5年間、厚生労働省の指針のもと、日本臨床衛生検査技師会が行った検体採取の実務実習を受け、その際に自分の身体で練習してきました。その経験からすると、自分で痛いとわかっているのに鼻の奥まで綿棒を突っ込むのは難しい。ウイルスのいない検体を採取しかねません。精度を問題にするなら、検査はただ手順を踏んでやればいい、というものではありません。

PCR検査の高い技術を持つ技師が増えない理由

 繰り返しになりますが、ある程度精度を犠牲にしても、全体を把握する調査のためのPCR検査はいずれ行われるべきだと思っています。それには唾液を検体に使った検査や、手間や時間のかからない全自動PCR検査機の導入は必要だと思っています。従来からあるインフルエンザ検査キットのような抗原検査も、鼻の奥の粘液を採取する方法だと飛沫感染を防ぐために厳重な防護のうえで行うことに変わりないため、クリニックなど簡単には導入できず、広がらないと思うからです。鼻の奥の粘液ではなく、唾液なら採取する際にせきやくしゃみが出にくくなりますので、医療従事者はより安全で簡単に検体を採取できるようになります。普及にはまだ時間がかかると思いますが。

 精度の高い日本のPCR検査ですが、専門家が少ないのは問題です。これが、日本のPCR検査数が少ない理由のひとつとされてきました。原因のひとつとして、一部ですが熟練の検査技師のなかにはPCR検査のスペシャリストになったことを守りたくなる人がいて、そのためにPCR検査の技術が広く普及しないことが挙げられます。後進育成システムが確立されていないのです。臨床検査技師は国家資格ではありますが、臨床検査技師にしかやれない独占業務がありません。だから、PCR検査もやろうと思えば資格がなくても法的には問題ありません。だからこそ、逆に技術を身につけたら、それをほかの人に教え伝えようとしない人がいる。そのために良い技術者が増えないというのは問題だと思っています。

第二波がやってくることを覚悟して備えている

 コロナ感染のリスクと対峙しながら日常生活を再開しなければならない今、規制解除、緩和に伴ってコロナ感染者が再び増え、コロナ感染疑いの患者さんの来院が再び増えることを我々は覚悟しています。どうしたら、そうした患者さんの来院を断らずにすむか、どうしたらきちんと検査できるか、どうしたら地域の医療崩壊を防げるかを考え、準備をしています。我々も怖いです。自分のことだけではなく、我々にも家族もいますから。ですから、普段気をつけずにいて「具合が悪くなったからなんとかしてくれ」と言って病院に来ることのないようお願いいたします。
 
 みなさんも多くは自粛に応じ、手洗い、マスクをし、気をつけてくださっています。ぜひ、このまま気を緩めず感染予防対策を続けてください。きちんと自粛を守り、再開後も席を一つおきにするなど、不断の努力をしてくださっている飲食店の方々もたくさんいます。そうした方々に敬意を表します。

◆私たちENCOUNT編集部では、新型コロナウイルスについて取材してほしいことを募集しております。info@encount.pressまでお寄せください。

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