【医療の現場から】ある臨床検査技師の意見 PCR検査の熟練技師が増えない理由

PCR検査の数が少なすぎるとの議論が続くが、厚生労働省は5月中にも唾液を検体に使ったPCR検査を認める方針だと報じられるなど、検査方法は日進月歩。検査の負担はどんどん減っていくようで、検査を受ける側にとっても医療従事者にとっても喜ばしいことだと思うのだが、実際はどうなのか。特定警戒都道府県の総合病院で働く臨床検査技師・森田大幸さん(仮名)に現状をどう捉えているのか聞いた。

新型コロナウイルス感染症とのたたかいは続く【写真:Getty Images】
新型コロナウイルス感染症とのたたかいは続く【写真:Getty Images】

自粛が緩みすぎるのは危険

 PCR検査の数が少なすぎるとの議論が続くが、厚生労働省は5月中にも唾液を検体に使ったPCR検査を認める方針だと報じられるなど、検査方法は日進月歩。検査の負担はどんどん減っていくようで、検査を受ける側にとっても医療従事者にとっても喜ばしいことだと思うのだが、実際はどうなのか。特定警戒都道府県の総合病院で働く臨床検査技師・森田大幸さん(仮名)に現状をどう捉えているのか聞いた。

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 医療の現場も一時期とは様相が変わってきたと感じています。私の勤める地域では、医師が必要と判断した患者さんに適切にPCR検査は行われていて、医師が必要としているのに検査が受けられないという状況には陥っていません。救急車に乗っても受け付けてもらえる病院が見つからなくてたらい回しにされる、という人はいないと思います。

 とはいっても、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)指定病院の医師、看護師、医療スタッフの業務がひっ迫していることに変わりはありません。余裕があるわけではなく、なんとか機能を維持しようと奮闘している状況です。今、規制解除の議論がしきりですが、規制解除が早すぎたり自粛が緩みすぎたりすると、病床はすぐに足りなくなります。防護服等の装備不足も相変わらずです。

今後、調査のためのPCR検査は行われるべき

 このような状況であると同時に、PCR検査陽性者を自宅待機ではなくホテルや医療機関に収容する方針ならば、PCR検査数の拡大は収容施設数拡充と併せて行わないと、行き場のない陽性者が路頭に迷ってしまいます。また、“自分は感染していない”という証明のためにPCR検査を増やすべきだとも思いません。PCR検査の精度は7~8割。陽性でも陰性と出る人は一定数いるわけなので、陰性でもウイルスをもっていないという証明にはならず、陰性の結果をもって自由に外出できる“免罪符”にはなりません。PCR検査はそもそも具合の悪い方が治療・対処のために確かめる(確定診断する)手段で、本来、医療のために行われるべき検査だと思います。

 パンデミックにまでなった感染症なので、この先、調査のためのPCR検査は行われるべきだとは思います。そのためには検査の数を増やすことは必要で、日本でも負担の少ない唾液を検体に使った検査や、手間や時間のかからない全自動PCR検査機がこれから導入されていくでしょう。今のPCR検査のやり方以外の方法では、少なからず検査の精度は落ちるとは思います。抗原検査や抗体検査も広がっていきそうですが、これも精度ではPCR検査には劣ります。

唾液を検体にする検査などは精度が落ちる可能性も

 なぜかというと、唾液を検体に使う方法については、唾液中のウイルス量がじゅうぶんとする論文もあれば、通常の採取法の50%程度する論文もありエビデンスが足りません。なぜ今、患者さんに痛い思いを強いて、鼻の奥の粘液を綿棒で取る方法をとっていると思いますか。それは、鼻の奥の粘液から検体を採取する方法が、最も効率よくウイルスが存在するだろう検体を採取できるからです。

 全自動PCR検査については、大変便利で、作業する技師の危険も減ります。ただ、熟練の技師が手作業で行う現在の検査方法に比べれば精度が落ち、偽陰性を生じる率がやや高くなるでしょう。欧米など海外のPCR検査数が多いのは、全自動PCR機を取り入れているからだと思いますが、日本のやり方は手間や時間はかかっても、精度という意味では日本のやり方の方が高いと私は思います。確認する方法はありませんが。

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