“眠りのプロ”が教える上質な睡眠法 重要なのはまとまった時間「どこでも寝られる人は要注意」

日に日に寝苦しさが増すこの季節、果たして自分はちゃんと熟睡できているのか気がかりな人も多いだろう。経済協力開発機構(OECD)が2021年に発表したデータでは、日本人の平均睡眠時間は7時間22分で加盟30か国中最下位。“世界一睡眠時間が短い”とも言われる日本人だからこそ、質の高い睡眠をとりたいもの。睡眠データを用いた健康増進に関するサービス事業を展開するNTT PARAVITA株式会社で、「睡眠改善インストラクター」を務める“眠りのプロ”の寺脇沙緒里さんに、良質な睡眠を得るための工夫を聞いた。

眠れないときのスマホは禁物だ(写真はイメージ)【写真:写真AC】
眠れないときのスマホは禁物だ(写真はイメージ)【写真:写真AC】

日本人の平均睡眠時間は7時間22分でOECDに加盟する30か国の中では最下位

 日に日に寝苦しさが増すこの季節、果たして自分はちゃんと熟睡できているのか気がかりな人も多いだろう。経済協力開発機構(OECD)が2021年に発表したデータでは、日本人の平均睡眠時間は7時間22分で加盟30か国中最下位。“世界一睡眠時間が短い”とも言われる日本人だからこそ、質の高い睡眠をとりたいもの。睡眠データを用いた健康増進に関するサービス事業を展開するNTT PARAVITA株式会社で、「睡眠改善インストラクター」を務める“眠りのプロ”の寺脇沙緒里さんに、良質な睡眠を得るための工夫を聞いた。

 普段、誰もが欠かさずとっている睡眠。一方、寝ている間は意識がないことから、自分が良質な睡眠をとれているのかは分かりづらいのが実情だ。そもそも睡眠には、どういった役割があるのだろうか。

「脳と身体のメンテナンスを行う時間で、脳を休めること、体を休めること、情報の整理固定をすること、ストレスの解消、免疫力を高めること、骨や筋肉の成長を促すことなどの役割を担っています。その他、認知症の原因物質といわれるアミロイドβを脳から排出する時間であることも分かっている。睡眠不足に陥ると、身近なところではイライラしたり、感情のコントロールができなくなったりということが起きます。集中力の低下や食欲のコントロールができなくなり、肥満や生活習慣病につながるということもありますね」

 睡眠において、何よりも重要なのはまとまった時間を確保すること。個人差はあるものの、一般に成長期を過ぎた18歳~64歳までの成人では7~9時間が目安と言われている。

「3~4時間の睡眠でも日中の活動に影響がないショートスリーパー、10時間以上寝るロングスリーパーと呼ばれる体質の人も少数ながら存在しますが、これは遺伝子で決まっているとされており自己判断は危険。睡眠習慣はある程度慣れることもあるので、社会人になってから睡眠時間が短くなったけど平気という人でも、疲労や睡眠不足が蓄積している可能性があります。寝ようと思えばいつでもどこでも寝られちゃうという人は要注意です」

 自然と眠りにつくためには、1日のリズムを作ることも大切だ。寺脇さんは「朝起きたら目覚ましを止める前にカーテンを開けてください」とアドバイスする。

「人間の体内時計は24時間より少し長いくらいと言われています。放っておくと現実の時間と徐々にズレていくので、まずは朝に太陽光を浴びて体内時計をリセットする。朝日を浴びて14~16時間後に眠たくなると言われているので、予定のない休日であっても午前8時くらいには起きるのが理想です。平日との起床時間の差は2時間以内が望ましいですね」

 起床後は朝食を摂り、体温を上げることがおすすめだ。

「朝日を浴びることで体内時計の親時計のリセットが行われ、朝食を食べることで全身に存在する子時計のリセットが行われます。そしゃくやウオーキングのような一定のリズムを刻む運動で“幸せホルモン”と言われるセロトニンが分泌され、このセロトニンが生活リズムを整えるメラトニンの原料に使われる。体内時計のリセットには糖質とたんぱく質が必要なので、手軽な朝ご飯の例としては卵かけご飯、納豆ご飯、パンと目玉焼き、ツナ缶トーストなど。もし時間に余裕のあったり料理が苦手でない場合は、和食であればご飯、焼き魚、みそ汁、おひたしなど、洋食であればトースト、スクランブルエッグ、サラダ、フルーツといった組み合わせがいいでしょう。朝からそんなに食べられないという場合は、バナナやヨーグルト、牛乳などでもいいので、まずは何か食べる習慣をつけることをおすすめします」

NTT PARAVITAで「睡眠改善インストラクター」を務める寺脇沙緒里さん【写真提供:NTT PARAVITA】
NTT PARAVITAで「睡眠改善インストラクター」を務める寺脇沙緒里さん【写真提供:NTT PARAVITA】

日本人の平均睡眠時間は7時間22分でOECDに加盟する30か国の中では最下位

 日中はできるだけ日の光が差し込む明るい場所で過ごし、20分程度でもウオーキングなどの簡単な運動を行うのがいいとか。頭がすっきりしなければ昼食後に仮眠をとるのも有効だが、時間は20分以内に収めるべきだという。

「睡眠の起こりやすさを指す睡眠圧は、うたた寝であっても一度睡眠をとると解消されます。一方で20分を超える仮眠をとると睡眠慣性が働き、逆に眠気が強くなる、ぼーっとするということが起きます。仮眠は20分以内で、午後3時くらいまでには切り上げるようにしてください」

 気になるのが晩酌時のアルコール。お酒を飲むと眠くなるという人も多いが、アルコールは睡眠にどのような影響を及ぼすのだろうか。

「お酒は飲みすぎると血圧が上がったり、利尿作用で夜中にトイレに起きてしまったり、血中のアルコール濃度が下がったときに目が覚めたりするので、あまりいい影響はありません。アルコールで眠くなるのは麻酔がかかって気絶している状態に近いので、ちゃんと眠れているわけではない。お酒は寝る2~3時間前まで、早めに切り上げて水分を多めに摂るのがいいでしょう。消化にもエネルギーを使うので、晩酌時には油ものも控えた方がいいですね」

 いい睡眠をとるための工夫はさまざまだが、ベッドに入ったものの寝付けない、あるいは夜中に目が覚めてしまって寝付けないという場合はどうしたらいいのだろうか。寺脇さんは「思い切ってベッドから出てしまうのもひとつ」と提案する。

「最悪なのが、ベッドの中でスマホやタブレットをいじってしまうこと。ブルーライトの光やたくさんの情報量が目から入ってくることで、余計に眠れなくなってしまいます。人間の脳は場所と行動をひもづけて考えるので、ベッドでは極力スマホも読書もせず、寝るためのところとしてインプットした方がいい。時計を確認するのもおすすめしません。眠れないという記憶と場所が結びついてしまうので、どうしても寝付けず焦りを感じるくらいなら、いったん諦めて起きてしまうのも手。ただ、電灯はあまり明るくせず、ストレッチしたり音楽を聴いたり、考え事をしなくていいようなリラックスした時間を過ごすのがおすすめです」

 暑さで寝苦しいこれからの季節は、エアコンも28度前後の風が直接当たらない設定で、場合によっては朝まで惜しまずにつけるのが無難だという。生活習慣や食事など、さまざまな工夫を取り入れ大事な睡眠の時間を質の高いものにしたいところだ。

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