“第2の『カメ止め』”登場か 30億円大ヒットが変えたインディーズ映画界の今

片山慎三監督
片山慎三監督

莫大な宣伝費をかけずにSNSで拡散……商業映画ではなくエッジの効いた作品

 SNS時代を迎え、インディーズ映画にも陽の光が当たるようになった。これまで、インディーズ映画は低予算、しかも作るのに精一杯で宣伝費はゼロ。これでは良作であっても評判を広げるのは難しい。ところが、SNSでバズれば、莫大な宣伝費をかけずとも、広がっていく。それを実証したのがわずか300万円で製作された『カメ止め』だった。2018年6月に都内2館スタートで公開されると、SNSで口コミが加速。7月にはアスミック・エースの共同配給が決まり、上映劇場は全国200館以上に広がり、社会現象にもなった。

 『カメ止め』は10年に1本あるか、ないかの大ヒット作だが、インディーズ映画の成功例はほかにもある。LGBTをテーマにした39分の短編映画『カランコエの花』(監督・中川駿)も全国17館まで拡大された。ある地方都市の高校で、突然、LGBTの特別授業が行われたことから、高校生たちが「クラスの中にLGBTがいるのではないか」と騒ぎ、動揺が広がる……というストーリー。LGBTの問題を当事者の目線で描くのではなく、周囲の戸惑い、潜在的な差別意識を浮き上がらせた。

『岬の兄妹』(c)SHINZO KATAYAMA
『岬の兄妹』(c)SHINZO KATAYAMA

 2017年にLGBT映画の祭典「第26回レインボー・リール東京」のグランプリを始め、国内13冠を達成。2018年7月、東京・新宿のK’s cinemaで、1日1回の1週間限定公開され、連日満席となった。さらに、観客たちがSNSで作品の素晴らしさを拡散。大手芸能プロダクション系列の映画会社「スターダストピクチャーズ」が配給した。中川駿監督は「『カメ止め』がインディーズの道を開いてくれました。僕たちは短編の可能性みたいなものを広げられたらいいなと思っています」と話した。

 インディーズ映画の監督たちは、「この映画を作ったら、儲かる」ではなく、自分たちの作りたい作品を自由な発想で作る。『カランコエの花』『岬の兄妹』は監督自らが出資している。ある映画監督は「私たちは、お金はありませんが、時間はかけられます。商業映画では7~10日程度で作っているものを、20日かけて撮りました」と明かしてくれた。

『岬の兄妹』(c)SHINZO KATAYAMA
『岬の兄妹』(c)SHINZO KATAYAMA

 大手映画会社のプロデューサーたちも、第2の『カメ止め』、金の卵の監督を探しているが、インディーズ映画を上映する映画祭も年々、活況を見せている。“応援する映画祭”というキャッチで、新人監督の作品を積極的にプロモーションする「さぬき映画祭」でもインディーズ映画の上映はほぼ満席。今年3月、第10回を迎えたインディーズ映画の祭典「ちば映画祭2019」も前回よりも客入りがよかったように思えた。プロデューサーだけでなく、映画ファンも、既成の商業映画とはひと味違う、エッジの効いた作品を探しているのだ。

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