定休日に焼き菓子販売「好きすぎでしょw」 SNSでバズった“休まない”パティシエが明かす夢
「休みに休まないなんてお菓子好きすぎでしょ」――。来店客からこうした“誉め言葉”の感想をもらったパティシエのツイートが反響を呼んだ。初代の父親が経営する洋菓子店で、シュークリームなどの生ケーキを主力商品に据えているが、自分の好きな焼き菓子を定休日に作っている“もうすぐ二代目”の息子が発信者だ。ネットで話題を集めた「京都の町のケーキ屋さん」のほっこりエピソードを聞いた。
京都で家族経営の“町のケーキ屋さん” 昔ながらのシュークリームが主力、今秋に代替わりでリニューアルオープンへ
「休みに休まないなんてお菓子好きすぎでしょ」――。来店客からこうした“誉め言葉”の感想をもらったパティシエのツイートが反響を呼んだ。初代の父親が経営する洋菓子店で、シュークリームなどの生ケーキを主力商品に据えているが、自分の好きな焼き菓子を定休日に作っている“もうすぐ二代目”の息子が発信者だ。ネットで話題を集めた「京都の町のケーキ屋さん」のほっこりエピソードを聞いた。(取材・文=吉原知也)
「お客様『生ケーキないの?』
僕『定休日なんです』
お『入ってごめん』
僕『いや違うんです。休みなんで好きなお菓子作って売ってるんです。生ケーキばっかり普段うれますが僕焼き菓子とかタルトが好きやから休みに作って売ってるんです』
お『休みに休まないなんてお菓子好きすぎでしょw』と爆笑」
ツイート投稿したのは、京都・北区の洋菓子店『パティスリーミムラ』で将来の二代目を担う三村彰さん(@pat_mimura)。一級技能士の資格を持つ名うての菓子職人だ。投稿は5月16日で、現在までに9万件以上のいいね、1000万回以上の閲覧数を記録している。
同店の一番人気は、昔ながらの「やわらかシュークリーム」(160円)。「柔らかいシュー生地にたっぷりのカスタードクリームを入れており、過去に開催した周年祭セールの日には3000個売れたこともあります」という。一方で、三村さんは、昨年2022年7月から定休日を利用して、月1回を「焼き菓子の日」と設定。【焼き菓子atelierMIMU】と銘打ったイベントとして、タルトやブルーベリーパイなど“自分が作りたい”お菓子を販売している。
「こんなことがあったよーぐらいの気軽なツイート」が、大バズリ。注文が殺到した。「もちろんこのツイートは会話の一部分を切り取ったものです。実際はもっと丁寧なお言葉でいただいたと思います。その中で僕の『休みの日くらい僕の好きなお菓子を好きに作らせてほしいって思って始めたイベントなんです』に対するお返事なんですが、お互い笑い合っている会話の中だったので、その時は『お客様との会話は楽しいな』くらいにしか思わなかったのですが、あとあとお客様の言葉を思い出してみたら、確かにお客様からしたら『お菓子好きすぎ』『変わってる』みたいに見えるのかもと思いました」と振り返る。
いくら好きでも、休みの日に仕事をプラスして焼き菓子を作って販売することは、体力回復や気分転換に影響しないのか。そこまでして焼き菓子を作りたいという思いについて、三村さんは「焼き菓子の日は、朝も普段より少し遅く出勤して工場に1人なので、好きな音楽をかけて好きなお菓子をお昼までに仕上げたらあとは販売するだけにしてあります。お客様をお待ちしてる間は本を読んだり絵を描いたり好きなことをしてますし、白衣も憧れていた『ちょっとカフェっぽい格好』をして自分のテンションを上げてますし、楽しみの多い1日になってますので、いい気分転換になっております」と教えてくれた。
そもそもこの焼き菓子イベントを始めた経緯とは。
まずは、「焼き菓子専門店・タルト専門店・○○専門店」「週1回だけ開いてるお店」「趣味で始めたお店」といった独特な言葉の響きを持つお店への憧れだ。
そして、「自分の大好きなお菓子でお店に並べても売れないお菓子、ラインアップの数が増え過ぎるから毎日は出せないお菓子、僕の出したいお菓子を出したことでスペースの都合でお店からなくなった父のお菓子などについて、『おいしいから食べてもらうタイミングがほしい』と思っていました。こうした中で、昨年6月までは月1回第3火曜日のみの定休日(両親と僕たち夫婦で週1回交代休み)だったのですが、両親も高齢になったのと交代休みの日もお互い朝の仕上げは出勤していたので、体力的に7月から毎週月曜日も休むことにしました。すると、第3週が連休になるので『この日に月1回だけオープンする焼き菓子専門店できるやん!』と思い付いたのです」。自慢の味をもっと知ってほしいという職人としてのアツい思いからだ。
焼き菓子の日を新たに始めるにあたり、不安もあった。店のオーナーは父・伸治さん。「父のお店を間借りしてやっている」というイメージだ。「思い付いたのはいいですが、『いつものお菓子ないの?』と言われてがっかりされるんじゃないか、定休日だったから誰も来ないんじゃないかとか、ちょっと迷いもありました」。周知するためにツイッターを活用。「『こんなことをしようと思う』とつぶやいたら、多くのフォロワー様から『面白い』『行ってみたい』とお声がけをいただき背中を押していただきました。実際に福井から来ていただいたお客様もいらっしゃいます」。新たな試みは、スイーツファンの心をがっちりつかんだ。
「父の作るお菓子は、僕からしてもおいしいのは間違いない」
気になる今後の展開。「当店は今年8月から工事に入り、秋(10月初旬予定)にリニューアルオープンをすることになっております。その前後、私も父から代替わりしてパティスリーミムラの跡を継ぐということになります」。このタイミングでオーブンを最新のものに新調し、急速冷蔵・冷凍庫も設置予定で、よりクオリティーの高い環境で焼き菓子を提供できるようになるという。
「設備が整うので理想としては、今【焼き菓子atelierMIMU】の日に販売している商品の一部を、常にお店に並べたいと思っております。需要と供給のバランスもあるので、今より人気店にならないと難しいので、あくまで理想ですがまずはそこを目指しております」と語る。月1回のイベントは「体力が続く限り、僕が飽きない限り(飽き性なのでここが問題ですが)」続けていく方針だ。
三村さんは普段、工場の奥で作業しており、来店客とゆっくり話す機会は少ない。それだけに、自身にとって大事な日になっている。「例えば、『チーズケーキ焼いたんやけどうまくできない。コツってある?』みたいな会話をしたり、『体調が悪いけどこのイベントが楽しみでお菓子を食べたら元気が出た』とわざわざ戻って報告してくださったお客様もいらっしゃいました。それこそ今回のツイートのきっかけになった会話もこの日だから生まれた会話だと思っております。焼き菓子の日のプライスカードの商品名は『ブルーベリーザックーリ』や『くるみのん』『オレンジ乗ってるやつ』など、少しふざけた名前をつけているのも、会話のきっかけになればと思ってますし、どんなお菓子か説明する時間もあるので会話を楽しみながら1日を過ごしたいと思っております」。
また、三村さんのお菓子を売るために、出すことをやめた父・伸治さんのお菓子について、こんなことを聞かせてくれた。
「焼き菓子の日は、父のお菓子を父に習い、アレンジして出している商品もあります。パティスリーミムラを今秋に継ぐと決まった時から『継承する』ことを意識して商品を考えることが増えました。父の作るお菓子は、僕からしてもおいしいのは間違いないので、そこにどうやってスポットライトを当てるか、今の時代に合うように売り出すか。そんなことを考える時間が増えております。焼きたての焼き菓子の魅力を知っていただいた上で、僕の好きな『父のつくるマドレーヌ』を焼きたてで提供するのはどうか? それを常時できないか? また他の商品にするか? といったことです。実験的なことができる日でもあるので、父のレシピファイルを盗み見しながらあれやこれやイメージするのも楽しみの1つです」。
広がる夢。今後について三村さんは「どんなお店にしてどんな商品を並べるかは未定な部分がありますが、リニューアル後は焼き立ての焼き菓子やタルトが並び、今までのパティスリーミムラのお客様にも喜んでもらい、新しいお客様にも知っていただけるようなお店を作れたらいいなと思っております」と声を弾ませた。