手作りの宇宙服が「す、すげぇ」 気になる材料は「手芸店で買える」 不思議な作者に接触

部屋の中が無重力状態!? 室内なのに浮いているようなリアルな宇宙服を捉えた写真が、大きな反響を呼んだ。なんと、手作りで再現したというから驚きだ。仕掛け人で、宇宙のロマン・魅力を日頃から発信している宇宙飛行士の日常(@utyuiroiro)さんに、宇宙服の制作背景とアツい思いを聞いた。

リアルな宇宙服は手作りというからびっくりだ【写真:宇宙飛行士の日常(@utyuiroiro)さん提供】
リアルな宇宙服は手作りというからびっくりだ【写真:宇宙飛行士の日常(@utyuiroiro)さん提供】

藤子・F・不二雄先生の「SF(すこし・ふしぎ)」が表現テーマ 材料は市販の布、2~3か月かけて完成

 部屋の中が無重力状態!? 室内なのに浮いているようなリアルな宇宙服を捉えた写真が、大きな反響を呼んだ。なんと、手作りで再現したというから驚きだ。仕掛け人で、宇宙のロマン・魅力を日頃から発信している宇宙飛行士の日常(@utyuiroiro)さんに、宇宙服の制作背景とアツい思いを聞いた。(取材・文=吉原知也)

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「未だに宇宙服どこで買ったか聞かれますが(悪気が無いのはわかります)、あの、手作りです。これ作ってる最中」。真っ白な宇宙服が斜めに傾いた姿勢を保っており、異空間のオーラを放っている。ツイート投稿は、3万件以上のいいね、300万回超の閲覧数を集めている。

 ネット上では、「す、すげぇ……」「自作とは凄すぎます…」「本物と見分けがつかないくらい精巧に作られているので本当にすごいと思います!」「素晴らしいクオリティと存じます」といった驚嘆の声が寄せられている。

 宇宙飛行士の日常さんは、一体どんな人物なのか。「宇宙関係とはかすりもしない美術畑の人間です。しかし、このような物を作るくらいには宇宙愛好家です。宇宙開発に関わる人は尊敬しています」と自己紹介をしてくれた。

 SFが大好きだといい、「宇宙開発はこの世で一番SFを想起させる取り組みだと思います。“宇宙服”は人類が宇宙を克服した英知の象徴として、多大なる美しさを感じています。アポロ計画以降、半世紀ぶりに有人月面着陸が行われる“アルテミス計画”が既に始まっているのでぜひ、注目していてください」と熱く語る。

 今回制作したのは、有人操縦ユニット(MMU)という名称の宇宙服だという。「船外活動用宇宙服(EMU)に命綱なしで活動できるユニットを加えたのがMMUです。しかし、やはりそれは危険だということで今は使用されていません。宇宙飛行士の姿と言えば、地球をバックに浮かぶ様子を思い浮かべる人も多いと思います。今回の見せ方はアート用語ではシミュレーショニズムと言いますが、あえて地上でMMUを浮かせることで、皆さんの頭の中にあるような宇宙飛行士のイメージのギャップを狙っています」と、美的ポイントを説明する。

 そもそも、なぜ、宇宙服をホームメードで自作しているのか。そこには、多くの困難に見舞われた物語があった。

「もともと映画・映像に関わっていて、仲間内で自主制作映画を作ったりしていました。その流れで、自分主体で本格的にSF映画を作ろう(短編ではありますが)ということが決まり、そこで宇宙服を出すために自分で制作いたしました」。

 短編映画という夢に向かって走り始めたが、危機に直面する。「準備中にコロナ禍が起こってしまい、映画制作は一時中断。せっかく温まっていた仲間のやる気を維持するために、せめて写真だけでも活動しようと思い、“宇宙飛行士の日常”を始めたのが全てのきっかけです。しかし、コロナ禍と同じ年に我が家が火事で全焼してしまい(負傷者はいません)、それどころではなくなって映画の企画は完全に凍結してしまいました」と明かす。

「宇宙飛行士や宇宙服も特別じゃなくなる宇宙開発の未来」のメッセージ

 撮影と編集作業を自ら担当していたが、全ての機器が焼失。だが、宇宙服だけは別の場所に保管していて無事だった。「宇宙服は残っていたので、そのまま写真活動だけは再開し、今に至ります。その仲間内のコミュニティーはコロナ禍や火事の事情によって解散してしまったので、現在の活動内容はギャラリーで展示するなどアート寄りになっております。コロナ禍や火事でかなり苦労しましたが、宇宙服作りそのものは趣味なので特につらいと思っていません」。宇宙飛行士、宇宙服をテーマに据えたアート活動として“再出発”し、着実に歩みを続けている。

 気になる材料は「ほとんど手芸店で買える布です。科学館や宇宙関連のイベントに行くと、レプリカではありますが宇宙服が展示されているので、それを観察してできるだけ近い布を選んでいます」。制作時間は宇宙服の種類にもよるが、「ちまちま作って2~3か月ほど。ヘルメットはFRPという固まるとプラスチックのように硬くなる樹脂で制作しており、それがどうしても時間がかかってしまいます」とのことだ。

 宇宙飛行士の日常さんは、ツイッターやインスタグラムを通して、銭湯や街中、公園などで撮影した自作宇宙服のユニークで不思議なショットを発信している。

「SFが好きで、特に藤子・F・不二雄に西岸良平のSFミステリー、星新一や小松左京のファンで、もともと“日常の中に存在する非日常”性が大好きなのが、私の活動の原動力です。これをドラえもんの作者、藤子F先生はSF(すこし・ふしぎ)という名称を付けており、自分もそれにならって、“SF”な日常を表現したいと考えています。宇宙飛行士は現実に存在するのにどこかSF的で、宇宙にいると自然なのに地上にいると不自然になる。このアンバランスさが面白いです。しかし、宇宙飛行士が特別な存在だという認識そのものが、まだまだ人類は進歩していない証拠と、結構本気で感じているので、『宇宙飛行士や宇宙服も特別じゃなくなる宇宙開発の未来』を全ての作品にメッセージとして組み込んでいます」。これからも、見る者が引き込まれるような、ちょっと不思議な作品を見ることができるのが楽しみだ。

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