たばこは「悪者にされすぎ」なのか 作り手が我が子から問われた「なんでそんなもの作ってるの?」
改正健康増進法や各地の受動喫煙防止条例、相次ぐ喫煙場所の撤去により喫煙できる場所が制限されるなどたばこを取り巻く環境は年々厳しさを増している。また紙巻きたばこの販売減少に伴い、葉たばこ農家の数も激減している。そんな中で実際に葉たばこ農家をインタビュー。リアルな現状に迫る。
葉たばこ作り23年の葉たばこ農家が明かすリアル
改正健康増進法や各地の受動喫煙防止条例、相次ぐ喫煙場所の撤去により喫煙できる場所が制限されるなどたばこを取り巻く環境は年々厳しさを増している。また紙巻きたばこの販売減少に伴い、葉たばこ農家の数も激減している。そんな中で実際に葉たばこ農家をインタビュー。リアルな現状に迫る。
取材に応じてくれた安澤英康さんは新潟県で葉たばこ農家を営み23年。将来の葉たばこ作りをより良い方向にしたいという強い想いを持っている。一方でたばこを取り巻く現状も理解している。葉たばこの生産量はかつてに比べて大幅に減少。そんな中で葉たばこ作りへのこだわりを明かし、たばこの未来についても熱い想いを明かしてくれた。
そもそもどのようにたばこは出来上がるのか。喫煙者でも知らない人が多いかもしれない。たばこの種は直径約0.5ミリととても小さく、見た目はコーヒーの粉によく似ている。非常に微細なため、苗床で育苗してから本畑に移植する。綺麗な花が咲くが、主役である葉に、より養分をいきわたらせるため、花は咲くと同時に切り落とす。
草丈は花が咲くころには1メートル以上まで生長し、20枚ほどの葉をつける。葉のサイズは、大きいもので長さ70センチ、幅30センチになるという。
2月に種まき、4月に苗床から畑への移植、6月に花を切り落とす「心止」、6月から8月にかけて収穫、乾燥(味と香りを決める特に重要な工程)、11月に出荷となる。(寒冷地の場合)
収穫された葉たばこが乾燥を経て、色・香りや味わいが豊かな製造用たばこの原料に。日本たばこ産業株式会社(JT)の鑑定員により格付けされた葉たばこは、その格付けされた等級や品種・産地ごとに管理される。
「7月が終わって、8月に入ったあたりが最も忙しいです」と語る安澤さんにとって、葉たばこ作りで最も苦労するのはどういったことか。
「8月に入ってからの猛暑の中での作業はやはり大変です。近年の気候変動も肌で感じているが、お盆頃の暑さは異常なほどです。作業員にも来てもらっていますが、わき芽の管理や収穫タイミングの見極めなど難しいものなので気を配りながらやっています」
家族で葉たばこを作り始めて23年。良い葉たばこになるか、そうでないか。いまだに見極めが難しいというが、それが葉たばこ作りの面白さでもあるという。
「畑で収穫して、乾燥室で乾燥して、JTに売り渡すという流れがあるのですが、畑で感じていた手応えと、乾燥後に感じる手応えが違います。AタイプになるかBタイプになるか(※)、よくできたなというものが、乾燥したらそうでもなかったり、逆もあります。そういうものを考えながら毎年やっているのですが、何年やっても飽きません。答えが見つからないんです。試行錯誤してよくなることもあるし、なぜよくなったか追及したりするのが面白い。何度やってもわからないことだらけ。奥深いんですよ」
※格付けの指標となる”標本葉たばこ”を基準として、JTの鑑定員によりAタイプ(正常葉)、Bタイプ(未熟葉・粗剛葉)などに格付けされる。Aタイプの方がBタイプよりも高い価格が設定されている。
愛情を注ぎ、育て上げた葉たばこ。しかし近年、たばこへの風当たりはますます強まっている。各地の受動喫煙防止条例などにより、喫煙できる場所は減少。喫煙者は肩身の狭い思いを強いられている。安澤さんは葉たばこの作り手として、率直な思いを口にした。
「なんで?というのが率直な気持ちです。一般的には喫煙には害があると思われています。小学校の頃から、“喫煙=悪”だというイメージを刷り込まれます。確かに過度に吸い過ぎれば毒になるが、ほかのものでも摂り過ぎれば害になる。適量を守れば、決して悪いことばかりではありません。
たばこのネガティブな部分だけに注目されてしまうことが一番悔しい。自分の子どもからも『なんでそんなものを作っているの?』と言われたことがあります。悪者にされ過ぎなんじゃないかと思います」
ピーク時に80%だった喫煙率は今や10%台
たばこへの風当りが強くなるのと比例し、実際に葉たばこの生産量は大きく減っている。
買い入れ重量は1985年には11万6209トンだったが、以降は右肩下がりに。2021年には1万4237トンと10分の1にまで減少。またピーク時に80%だった喫煙率は今や10%台まで落ち込んだ。
安澤さんの周囲でも廃作する葉たばこ農家が相次いだという。「たばこの消費量が減ってきているので、その原料も余ってくる。私の周りだけでも一番多い時には約700人いました。20年前でも120人くらい。それが今では16人です」と驚きの推移を明かした。
全国的にも1985年に約7万9000人いた葉たばこ農家が、2022年には約2300人にまで減少した。
安澤さん自身も喫煙による健康リスクや、分煙の重要性は理解している。そのうえで、「吸わない人の横で当たり前のようにたばこを吸っていた20、30年前と比べて、気を遣わなければならない。分煙は必要です。たばこ税を使って積極的に喫煙所を作るとか、そういう方向に向かえばいいんじゃないかと思っています」と強く訴えた。