横浜に残された“秘境駅”とうとう見納め? 期間限定のシュールな光景が味わえた都会の駅たち

都市部にありながら、閑散としている「秘境駅」が首都圏にもある。そのミスマッチさがかえって話題を呼んだりするのだが、その中の一つ、相鉄ゆめが丘駅の開発計画が動き出した。のどかな情景は過去のものになるかもしれず、いまのうちに記憶しておいた方がよいかもしれない。

田園地帯に宇宙船のような駅が現れるゆめが丘駅だが、いよいよ開発が始まるようだ
田園地帯に宇宙船のような駅が現れるゆめが丘駅だが、いよいよ開発が始まるようだ

東急直通を追い風に大規模集客施設が着工

 都市部にありながら、閑散としている「秘境駅」が首都圏にもある。そのミスマッチさがかえって話題を呼んだりするのだが、その中の一つ、相鉄ゆめが丘駅の開発計画が動き出した。のどかな情景は過去のものになるかもしれず、いまのうちに記憶しておいた方がよいかもしれない。(取材・文=大宮高史)

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 相模鉄道は2023年4月、いずみ野線のゆめが丘駅(横浜市泉区)のリニューアル計画を発表した。改札口を増設し駅外壁にはレンガ壁を採用、ホームへの雨吹き込み対策などを行う。駅に隣接する大規模集客施設とともに、24年夏に完成する予定だ。

 このゆめが丘駅、横浜市内にあるものの長らく“秘境駅”の一つでもあった。相鉄いずみ野線の延伸で1999年に開業した同駅だが、周辺が市街化調整区域に指定されていたこともあって開発は進まず、駅周辺は今でも田畑が広がっていて長らく乗降人員も相鉄線内ワースト。駅のデザインは線路とホームをアーチ型のシールドで覆ったユニークなものだが、田畑の中に近未来的な外観の駅と高架線だけがたたずむ光景が相鉄沿線の珍風景でもあった。

 ニュータウンの泉区にできた駅ながら開業から20年以上、周囲の様子はさほど変わらなかった。ようやく昨年、駅に隣接した大規模集客施設の工事が始まり、23年3月18日の相鉄・東急直通線開業でこの駅からも東急・東京メトロへ直通列車が走り始めた。新横浜線と都心直通を追い風に、相鉄も本腰を入れて開発に乗り出した。

 もともといずみ野線は1970年代から建設が始まり、横浜市南西部の開発と並行して路線を伸ばしていった。同線でもゆめが丘駅より先に開業した緑園都市・いずみ野・いずみ中央などの駅は順次リニューアルが進んでいったが、相鉄沿線に残された最後の「フロンティア」ともいえるゆめが丘駅も、来夏には駅周辺の景観が様変わりしていることだろう。農地の中に宇宙船のような駅が浮かぶ景色もあと1年ほどで見納めになりそうだ。

豊洲市場建設前の市場前駅は、このように未整備の荒れ地が広がっていた【写真:写真AC】
豊洲市場建設前の市場前駅は、このように未整備の荒れ地が広がっていた【写真:写真AC】

にぎわう市場の最寄り駅も10年前は荒れ地、乗客100人足らずだった

 ゆめが丘駅のように、周辺の開発より先に駅が開業したために閑散とした駅になってしまった「都会の秘境駅」には他にも例がある。ゆりかもめの市場前駅(東京都江東区)もそうだった。市場前駅の開業は、ゆりかもめの有明~豊洲間が開業した2006年3月。駅名の通り、築地から豊洲への中央卸売市場移転を前提に、豊洲市場の最寄駅として市場予定地の至近に建てられた。

 ところが豊洲への市場移転は進まず、市場前駅の周辺には建物もなく、駅を出ると広がっている市場予定地には草が生えるがままという、東京23区とは信じがたい光景が長らくこの駅では見られた。

 豊洲市場の開業前にゆりかもめを利用した人は、ベイエリアに突然現れる、空き地とほとんど誰もいないホームに電車が停車する、かつての市場前駅を覚えているだろうか。住宅もないので地元住民の利用もほとんどない。当然、乗降人員は長らくゆりかもめ線内ワーストで、13年度においても1日平均乗車人員は27人(東京都統計年鑑)。東京ビッグサイトやお台場へのレジャー客でにぎわうゆりかもめの中で、異質な秘境駅の時代が長かった。

 そんな市場前駅も10年代後半に豊洲市場建設が進んで工事関係者の利用が増え、18年10月に豊洲市場がようやく開場、関連して商業施設やホテルもオープンしていき、すっかり秘境駅の汚名は返上した。10年前には荒れ放題の野原だったとは想像できないくらいに市場前駅周辺は変貌し、にぎわいを見せている。

高輪ゲートウェイ駅も現況では広さを持て余している
高輪ゲートウェイ駅も現況では広さを持て余している

あの「高輪ゲートウェイ」も今は閑古鳥

 JR山手線の49年ぶりの新駅、高輪ゲートウェイ駅も現状では秘境駅、と言えなくもないだろう。もともと品川駅と田町駅の間の広大な車両基地(旧田町車両センター)の敷地を縮小し、その土地を駅と、一大再開発に利用する計画であった。

 20年3月に駅が先に開業したが、高輪ゲートウェイシティ(TAKANAWA GATEWAY CITY)と命名された駅西側の再開発地区は工事の途上で、めぼしい施設はまだ開業していない。駅の東側は車両基地、西側は工事の風景が広がるばかりで、既存市街地から離れているため利用者は少ない。ビジネス街の田町、新幹線や羽田空港への利用者でにぎわう品川の狭間にあって、山手線と京浜東北線の2本が停車しながら朝ラッシュ時でも閑散としている。

 同駅の21年度の平均乗車人員は7867人で、これより利用者が少ないJR東日本の駅は東京23区内でも京葉線越中島駅だけという数字。高輪ゲートウェイシティが本格的に街として動き始めるまでは、低空飛行が続きそうだ。

 JR東日本が示している再開発プランでは、24年度末から順次施設が開業していき、25年度までに全ての街区が開業する見込み。およそ3年後、高輪ゲートウェイ駅周辺がどれほどにぎわっているかは、当地の再開発の手腕にかかっている。

 ゆめが丘・市場前・高輪ゲートウェイ、いずれも秘境駅の要素はあれど「期間限定」という共通点がある。乗客が少ないことは鉄道会社にとって本来は悩みの種だが、まちづくりの事情で時折こういった、都会にミスマッチの駅が現れるようだ。

次のページへ (2/2) 【写真】リニューアル後のゆめが丘駅イメージ
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