【医療の現場から】PCR検査は増えるのか(前編) 希望者全員の検査ができない実情
Jリーグクラブ・鹿島アントラーズが7日、PCR検査の会場として「カシマスタジアム」(茨城県鹿嶋市)を提供すると発表し話題になった。検査の門戸が広がったのは喜ばしいが、一方で、神戸市立医療センター中央市民病院(神戸市中央区)に3月に入院した70代の男性患者が、4度の陰性を経て5度目の検査で初めて陽性の結果が出たという報道があった。なぜこのようなことが起こるのか。PCR検査をどう考えればいいのか。呼吸器系ウイルス感染症が専門の西村秀一博士に、検査の現場からの声を聞いた。
PCR検査を希望者全員が受けるのは非現実的
Jリーグクラブ・鹿島アントラーズが7日、PCR検査の会場として「カシマスタジアム」(茨城県鹿嶋市)を提供すると発表し話題になった。検査の門戸が広がったのは喜ばしいが、一方で、神戸市立医療センター中央市民病院(神戸市中央区)に3月に入院した70代の男性患者が、4度の陰性を経て5度目の検査で初めて陽性の結果が出たという報道があった。なぜこのようなことが起こるのか。PCR検査をどう考えればいいのか。呼吸器系ウイルス感染症が専門の西村秀一博士に、検査の現場からの声を聞いた。
PCR検査をシロ・クロ判定検査のように考えている人が大勢いるようですが、PCR検査は100%正確ではありません。精度は7割といわれています。つまり、感染者でなくても陽性(偽陽性)という結果が出たり、感染者でも陰性(偽陰性)という結果が出たりすることが3割もあるわけです。だから、陰性の結果が出ても、それは完全にシロという訳ではないのです。
「症状はないが念のためPCR検査を受けたい」「感染していないことを証明するためにPCR検査を受けたい」、あるいは「ちょっと熱っぽいのでコロナに感染しているかもしれない。不安だから検査を受けたい」という人がいますが、そういう人にまでPCR検査を広げるのは反対です。それをやりだしたら検査を際限なくやることに繋がりかねません。精度が100%ではないので検査を受けてもしかたがない、という意味ではありません。PCR検査を希望者全員が受けるということが、さまざまな観点から現実的ではないのです。
ポスドクを検査者に採用させれば解決するのか
なぜか。ひとつにはPCR検査を行う人材が足りないことが挙げられます。PCR検査は検体にμ(マイクロ)リットル(100万分の1リットル)単位で何種類もの試薬を、順番を間違えたりウイルスに汚染させたりすることなく加えていく技術力が求められます。一つの間違いが数十件、数百件の偽陽性を生じさせることすらあり、もしその間違いを起こしていてもすぐには確認できません。専門家が正確な技術で検査を行う必要があります。そうでないと3割どころか精度はもっと低くなって、さらに医療現場は混乱するでしょう。
PCR検査の経験のあるポスドク(博士号を取得した研究員)を検査者として採用すればいい、という声もあります。彼らの力を借りるというアイデアは良いと思いますが、ポスドクが経験しているのは学問の場でのこと。学問の場で検査をするのと実際の臨床の場で検査をするのは、同じではありません。
学問の場では検体は研究者自身が自分のやり良いように用意しますが、実際の臨床の場では極端な言い方をするとグチャグチャな状態で送られてきたりします。そんな状態からきちんと整理して、時間などのプレッシャーと闘いながら、非常に細かく煩雑な検査を間違いなく行わなければなりません。経験があればベテランの検査技師と同じペースと正確さですぐにできる、というほど単純ではありません。