『聖闘士星矢 The Beginning』続編に期待するワケ 実写映画化に筆者が感じた可能性
ハリウッド映画『聖闘士星矢 The Beginning』(トメック・バギンスキー監督/日本配給:東映)が公開されてから、はや1か月がたとうとしている。同作品は、熱血漫画の象徴的存在である車田正美氏が1985年12月より『週刊少年ジャンプ』にて連載を開始した、「聖闘士(セイント)」たちの熱き闘いを描くバトルアクション漫画の実写版。「聖衣(クロス)」と呼ばれる星座をモチーフとした鎧や、ギリシア神話を題材にした物語で人気を博し、全世界でのコミックスの累計発行部数は5000万部を超える。
「ペガサス流星拳!」とは叫ばない星矢でも問題なし
ハリウッド映画『聖闘士星矢 The Beginning』(トメック・バギンスキー監督/日本配給:東映)が公開されてから、はや1か月がたとうとしている。同作品は、熱血漫画の象徴的存在である車田正美氏が1985年12月より『週刊少年ジャンプ』にて連載を開始した、「聖闘士(セイント)」たちの熱き闘いを描くバトルアクション漫画の実写版。「聖衣(クロス)」と呼ばれる星座をモチーフとした鎧や、ギリシア神話を題材にした物語で人気を博し、全世界でのコミックスの累計発行部数は5000万部を超える。
(※以下、映画の内容に関する記述があります)
それだけのメガヒット作品ともなれば、全世界に存在する星矢ファンの好みも多岐に渡るため、実写化に際し、公開からこれまでの間、原作への愛が感じられるかを含めた賛否が、主にSNSを通じて論じられてきた。実はかくいう記者も大の字がつく無類の車田作品好きの一人だが、実際に映画を見るまでは戦々恐々の面持ちでいたものの、先月18日に東京ドームシティホール(東京都文京区)で開催された同映画のジャパンプレミアの際に上映された試写を見て、ホッと胸をなで下ろした。
そのため、とくにSNS上で指摘されるようなネガティブな意見はまったく感じることはなかった。その思いは今も変わらず、なぜ賛否の対象になるのか、その真意がよく分からない。ネタバレになってしまうが、例えば劇中で「ペガサス流星拳」と技の名前を叫ばないことに対する批判を目にしたものの、それも特に気にならなかったし、それよりも海の向こうにいるハリウッド映画のスタッフに、星矢の世界観をどれだけ把握してもらえているものか。そのほうが断然気になっていた。
その点では、同映画のジャパンプレミアの会場に姿を現した、主演の新田真剣佑をはじめとする主要キャストやバギンスキー監督、日本語吹き替え版で声優を担当した俳優陣のあいさつを含め、非常に好意的に受け入れることができた。また、同会場には応援隊長を務めるお笑いコンビ・霜降り明星のせいやも登壇。それぞれが皆、来場客との交流をはかっていたが、記者が最も印象に残ったのは、生みの親である車田氏が登壇した場面だった。
あいさつこそなかったものの、おそらくそれは車田氏自身が場の空気を察して、あえて言葉を発しなかったのだということは容易に想像できた。その代わり、原作者自ら舞台上の端に立ち、出演者と1人ずつ固い握手を交わして舞台上に送り込む役を担っていた。その際、立ち話ではあったが、一人一人と言葉を交わしながら……という“間”の取り方に、『聖闘士星矢』に登場するギリシア神話の神々よろしく、独特の神秘性を感じることができた。
実際、38年以上前に描きはじめた作品が、それだけの長い時間を経て実写化、しかもハリウッド作品として完成したことは、原作者としてはこれ以上ない喜びを感じたのではないだろうか。
事実、車田氏は今回の実写化に際し、以下のコメントを寄せている。
「『星矢』を見て育った少年少女が、海の向こうでこんなに熱い映画を作ってくれた。この映画を観てくれたみんなにも、その熱い思いが届くと信じている!」
原作者・車田正美氏の無邪気さとすごみ
ちなみにキャスト陣を壇上に送り出した後、去り際に両手を大きく掲げてのダブルピースサインで壇上をあとにした車田氏の姿には、思わずほほ笑ましいものを感じてしまった。あの無邪気ともとれるしぐさに、車田作品のすごみやものづくりに対する姿勢が垣間見えた気がしたからだ。
さらに言えば、車田氏による最新コメントが11日に発売された『週刊少年チャンピオン』(秋田書店)に掲載されていた。
「ハリウッドの一流のスタッフ、キャストの熱気が、スクリーンを通じて伝わってきたぜ! 原作者のオレさえも熱くさせるその小宇宙(コスモ)を、君たちもぜひ感じてくれ!」
そして、18日に発売された『週刊少年チャンピオン』(秋田書店)には「ハリウッド星矢JAPANプレミア当日はファンの熱気と関係者の熱い思いをダイレクトい受け止めることができた貴重な一日でした」というコメントも掲載されていた。
さて、先ほど、本映画の内容に関するネタバレに触れたが、もうひとつネタバレに触れると、今回の実写版『聖闘士星矢』では、星矢が金網のリングで試合をする場面が登場する。
まさか星矢で金網のリングを拝めるとは思わなかったが、それだけUFCをはじめとする格闘技が世界を席巻していることを感じさせるには十分だった。
また、新田はイベント中に、「アクションは朝から夜まで毎日、週5で練習させていただいて星矢のアクションを作り上げました。意図しない上半身裸になりますが、世界の方に見ていただいても恥ずかしくない裸に仕上げたと思います」と語っていたが、その肉体美も見どころのひとつだろう。
新田に関してはイベント中、流ちょうな英語を話す場面も見られたが、実際に映画を見ると、彼の自然な英会話力によって、まったく違和感なく、作品の世界観に入っていけたことは事実。
実際、新田は「日本の映画界にとっても大きな第一歩だと思います」と語っていたが、『聖闘士星矢』と新田という「日本発世界」で通用する両者によってもたらされた化学反応は、未来予測を考えると、数値の出しようがないくらいに大きくなっていく可能性を十二分に秘めている。
最近公開された『シン・仮面ライダー』は石ノ森章太郎の漫画原作『仮面ライダー』を改めて庵野秀明監督が実写化したものであり、フィリピンで19日に公開された『VOLTES V LEGACY』は現地で最高視聴率58%を記録したといわれる神アニメ『超電磁マシーン ボルテスV』を実写化したものだが、これに今回の『聖闘士星矢』の実写化も含めても、共通しているのはキャストや制作陣の思い入れや熱の高さだろう。
人気コミックや人気アニメの実写化には常に賛否が飛び交い、実際、似ても似つかないと思われるような実写版も数多く存在してきたが、少なくとも『聖闘士星矢 The Beginning』に関しては、車田作品の根幹にあるイズムや思想、そして“熱血”は十分伝わってきた。今回のラスボスというか、星矢にとっての最大の敵が女神アテナになったのも、ひとつの解釈やアプローチ法としては面白い方法論だったように思う。
そこで気になるのは同作品の今後だが、バギンスキー監督はイベント中に「願わくばこの冒険が続けばと思っておりますし、真剣佑さんと組むことができれば」と含みを持たせる言い方を残していただけに、評判次第では次回作への期待も高まっていくだろう。いや、ぜひとも『スターウォーズ』ではないが、続編といわず、無限に新作を生み出すまでに至ってもらえたら、車田作品に影響を受けた、全世界にいるファンも狂喜乱舞することは間違いがない。
○『聖闘士星矢 The Beginning』4月28日(金)全国公開
監督:トメック・バギンスキー
脚本:ジョシュ・キャンベル&マシュー・ストゥーケン and キール・マーレイ
原作:車田正美『聖闘士星矢』
キャスト:新田真剣佑、ファムケ・ヤンセン、マディソン・アイズマン、ディエゴ・ティノコ、マーク・ダカスコス、ニック・スタール、ショーン・ビーン
日本語吹き替え版:浪川大輔、磯部勉、井上喜久子、潘めぐみ、咲野俊介
製作:東映アニメーション
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