ふかわりょうが文章を書く理由 タイパや服よりも大切なもの「言葉はファッション」

タレントのふかわりょう(48)による最新著書『スマホを置いて旅したら』(大和書房、発売中)はスマホなしで3泊4日の岐阜県美濃地方を巡った紀行エッセーだ。MC、タレント、ミュージシャン、文筆業と幅広く活躍を見せるが、ふかわにとって「書く」仕事とは?

文筆業について語るふかわりょう【写真:ENCOUNT編集部】
文筆業について語るふかわりょう【写真:ENCOUNT編集部】

最新著書『スマホを置いて旅したら』発売中、ふかわにとって「書く」仕事とは?

 タレントのふかわりょう(48)による最新著書『スマホを置いて旅したら』(大和書房、発売中)はスマホなしで3泊4日の岐阜県美濃地方を巡った紀行エッセーだ。MC、タレント、ミュージシャン、文筆業と幅広く活躍を見せるが、ふかわにとって「書く」仕事とは?(取材・文=平辻哲也)

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「スマホを置いて旅したら」はある日、スマホを置いて、旅に出たふかわが思ったこと、感じたことをつづっている。大きな事件が起こるわけではない。だが、ふかわの文は映像的で、ジム・ジャームッシュ監督のロードムービーを観たような読後感がある。

「それはうれしいですね。ジャームッシュは大好きな監督なんです」と、ふかわ。好きな映画監督や作品を聞くと、ビクトル・エリセの『ミツバチのささやき』、テオ・アンゲロプロスの『霧の中の風景』『永遠と一日』、リチャード・リンクレイターの『ビフォア』3部作といったミニシアター系の作品を挙げてくれた。

 MX『バラいろダンディ』のMCといった帯番組を始め、テレビ出演だけではなく、「ROCKETMAN」名義でDJ活動や作詞作曲、文筆業も行う多忙な日々を送っているが、もともと旅好き。20歳の時にカリフォルニアへ一人旅したのを始め、ここ十数年は主にヨーロッパを旅するようになり、アイスランドには10年間連続で訪れている。本書の出発点もアイスランドでの体験だった。

「もう10年以上前、ケータイがつながらなかったんです。最初は不安だったのですが、徐々に開放感というか、初めて自転車に乗れたような、フワッと体が浮くような感覚を覚えて。それが忘れられず、また、同じ気分が味わえるかなと思ったんです」

 普段使っているのはiPhone。メールが主な用途で、ほかにSNSなど。「スマホと決別しようとか、いますぐスマホなしの生活を始めようっていうことではないんです。ただ、ケータイからいつの間にかスマホになって、画面に目を向ける時間が増えたなと思っていて。その時間がなくなると、どんなものが見えてくるんだろうと思ったんです。以前、近所でハクビシンが電線の上を歩くのを目撃したんですが、スマホばかり見ていると、こういうことにも気づかないと思ったんです」。

 旅はスケジュールが空いた昨秋に敢行。ちょうど台風の合間で、公共交通機関にも大きく影響が出た時だった。事前に宿泊先や訪問先のメモを取って準備し、時刻表を見て、人に聞きながらの旅となった。

「スマホを置いて出かけるだけで、ちょっとした冒険だったのですが、交通事情も割と緊張感のあるタイミングだったので、不安が大きかった分、辿り着いた時の感動はひとしおでした」

 印象に残っているのは駅前のバス待ちの風景だという。

「目の前の木には青い実がぶら下がっているんですよ。この青い実はなんだろうと思ったら、枝葉の先に建物が見えて、回ってみたら小さなカフェがあったんです。そうやって辿り着いたコーヒーの味は、『駅前カフェ』と検索して辿り着いたそれとは違う気がするんです。バスに乗ると店員の女性が柿の実の下で手を振って見送ってくれた。ほんの10分程度の出来事なんですけど、それも頭に焼きついているんです」。

最新著書『スマホを置いて旅したら』について語るふかわりょう【写真:ENCOUNT編集部】
最新著書『スマホを置いて旅したら』について語るふかわりょう【写真:ENCOUNT編集部】

20代の頃の書籍とは「モチベーションは全然違います」

 旅を終えた後はしばらくスマホのスイッチを入れる気持ちにはなれなかった、という。デジタルの便利さを痛感しているものの、紙の本には歳を重ねるごとにクールさを感じている。好きな作家は夏目漱石、川端康成といった文豪系。漱石の性格には親近感も持っている。

「20代の頃もネタ本も含め書籍を出していますが、モチベーションは全然違います。今回は美濃和紙との出会いもあって、タイトル扉には美濃和紙を使わせていただいたのですが、触っているだけで気持ちが和みます。やっぱり形のある本を作っていきたい。色が褪せたり、変色していくのもいい。本を手にとって読む文章は、水を飲むような感じなので、私にとって本は飲み物です」

 しかし、執筆はけっしてタイム・パフォーマンスはよくないはず。生番組なら、準備時間はあるものの、放送時間内に完結する。旅エッセーは旅に出てから、さらに時間をかけて書くことになる。

「そういう意味ではコスパ、タイパは高いものではないですけど、旅を追体験できるのもありますし、何よりも僕にとって、言葉はファッションみたいなものなんです。服はほぼ毎日、同じものを着ているんですが、テレビでも言葉選びは大事に心掛けています。自分がどういう言葉をまとっていたいか。20代の頃に比べて、こだわりが強くなりました。この言葉をまとって、ランウェイを歩きたい。多分そういうところがあるんだと思います」

 多方面で活躍しているが、1つだけしかやれないとすれば、何を選ぶか。

「僕の場合、2、3好きなことをやっているだけなんですが、1つ削っただけで、全滅する気がします。またがったエネルギーを1つに集約して、明るさが増す人もいるかもしれないですけど、僕はブラックアウトしてしまう。相互にエネルギーが流れ続けて発電できる。でも例えば、70歳とか 80歳近くなった時に、鉛筆1本で行こうというのはありうるかなとは思いますが」

 8月には49歳の誕生日を迎えるが、歳を重ねることは楽しみだという。

「50歳の時に、どういう景色が見えるだろうっていうのが不安も含めて、楽しみでもあります。その時見える景色でいろいろと考えることもあるだろうし、今ごまかしている部分も霧が晴れて、くっきり見えてくるところもあるかもしれない」。こうして、ふかわの人生という旅は続いていく。

□ふかわりょう 1974年8月19日生まれ。神奈川県出身。慶應義塾大学在学中の1994年にお笑い芸人としてデビュー。テレビMCやコメンテーターを務めるほか、ROCKETMANとして全国各地のクラブでDJをする傍ら、楽曲提供やアルバムを多数リリースするなど活動は多岐にわたっている。著書に『世の中と足並みがそろわない』『ひとりで生きると決めたんだ』(ともに新潮社)、アイスランド紀行『風とマシュマロの国』(幻戯書房)など。

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