【映画とプロレス #14】映画「ファイティング・ファミリー」兄妹の明暗を分けたザック・ナイトの真実を探る

英国の超ローカル団体からWWEのスーパースターへと上り詰めた女子レスラー、ペイジの家族は、全員がプロレスラーだ。ペイジは兄ザック・ナイトとともにトライアウトを受け、何人もの候補者の中から当時唯一の契約を勝ち取った。このときの実話を元に映画化されたのが、“ザ・ロック"ドウェイン・ジョンソン製作(&出演)の「ファイティング・ファミリー」(2019年)だ。明暗を分けた兄と妹。本作はコメディタッチで紡がれるペイジのサクセスストーリーであると同時に、絶望に打ちひしがれた兄ザックが苦悩を乗り越え希望を見いだす物語にもなっている。ザックをめぐるエピソードの多くが、実際に起こった出来事だ。

ザック・ナイト【写真:新井宏】
ザック・ナイト【写真:新井宏】

映画「ファイティング・ファミリー」明暗を分けた兄と妹

 英国の超ローカル団体からWWEのスーパースターへと上り詰めた女子レスラー、ペイジの家族は、全員がプロレスラーだ。ペイジは兄ザック・ナイトとともにトライアウトを受け、何人もの候補者の中から当時唯一の契約を勝ち取った。このときの実話を元に映画化されたのが、“ザ・ロック”ドウェイン・ジョンソン製作(&出演)の「ファイティング・ファミリー」(2019年)だ。明暗を分けた兄と妹。本作はコメディタッチで紡がれるペイジのサクセスストーリーであると同時に、絶望に打ちひしがれた兄ザックが苦悩を乗り越え希望を見いだす物語にもなっている。ザックをめぐるエピソードの多くが、実際に起こった出来事だ。

 エンドロールでのホームビデオ映像からもわかるように、幼少時からWWEで戦うことを夢見ていたザック。彼のデビューは2001年、わずか10歳のときだった。主戦場は当然、両親(リッキー&サラヤ・ナイト)が運営するWAWである。両親や10歳年上の義理の兄ロイ・ナイト(ゼブラ・キッド)を見ながらプロレスを吸収していったザックは、員数合わせのため女子レスラーの扮装で試合をすることもあった。映画ではピンクのパワーレンジャーに変身した姿でペイジ(ブリタニー・ナイト)の相手をしているが、このときのリングネームは「ピンクレディー」。“彼女”の初登場は05年7月2日のバトルロイヤルで、この試合には9人が参加、うち3人がファミリーという家族経営団体らしいマッチメークだった。また、ピンクレディーは妹ペイジのほか母サラヤ・ナイトともシングルマッチで戦っているから、ある意味衝撃的。ペイジのデビュー前後、WAWマットに出現した“全身ピンクのマスクウーマン”。その正体は、WWE志望のザック少年だったのだ。

 前回の「映画とプロレス」でも紹介したように、ザックは後進の指導にも熱心だった。盲目のレスラー、ジェームズ・チルバースは彼の指導からデビュー。映画同様、子どもや障害者にもレスリングを教え、チルバース以外にもダウン症や自閉症の少年もコーチした。チルバースにつづき、自閉症を抱えたマーベル・マーカスもプロレスラーになった。近い将来、チルバースとマーカスによるタッグチームが結成されるという。

リッキー・ナイトJr(ザック役ジャック・ロウデンのスタント)【写真:新井宏】
リッキー・ナイトJr(ザック役ジャック・ロウデンのスタント)【写真:新井宏】

ザック・ナイトは不良役が大当たりで出演依頼が相次いだ

 映画でのザックは、「ダンケルク」(17年)、「ベルファスト71」(14年)のジャック・ロウデンが演じている。ザックは俳優ジャックについては「ダンケルク」を観たくらい。実際に会ったとき、身体が自分よりもずっと小さかったため多少不安になったという。が、ジャックは体重を10キロほど増やして撮影に臨んだ。ペイジ役のフローレンス・ピューとともにプロレスのトレーニングもおこなった。ザックは言う。「大丈夫かなと思ったのは最初だけで、ジャックが真剣にのめり込んでいくのがよくわかったよ。彼はボクが置かれていた状況、そのときの心境をしっかり理解して演じてくれたんだ。ボクを演じるにあたっては、彼以上の俳優はいないと思うよ」。

 ザックは、映画が完成した頃には意識的に体重を10キロ以上減らしていた。現実と映画のザックがより近づいていったようだった。ジャック・ロウデンのプロレスシーンは本人に加え、スタントダブルもいた。スタントを担当したのが兄ロイの息子、現在20歳のリッキー・ナイトJrである。

 ザック自身も映画本編にカメオ出演した。スティーブン・マーチャント監督のアイデアだ。「キミも出てよ。そうだな、ドラッグディーラー役だ!」。この一声でザックは出演のチャンスを得た。映画の冒頭とラスト近くでザックの姿を見ることができる。WAW道場に通う少年のひとり、エズを悪の道に誘う街の不良だ。なんといってもザック役のジャックを睨み付けるホンモノザックの表情が恐ろしすぎる。これが地なんじゃないかと思わせるほどのインパクトなのだ。今回、彼と会うまでは少々ビビった自分がいた。が、実際に会ってみると、絵に描いたような好青年。映画でのガンつけは演技で、子どもたちにレスリングを教える姿が本当の顔なのだ。実際、この演技がきっかけで彼の元には映画やテレビへの出演依頼が相次いだというのではないか。

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