杉並LGBT条例、推進した区長自ら“条例違反”? 「中身を理解していない」運用めぐり懸念の声

近年、LGBT(性的マイノリティー)の人々の権利をめぐり、各方面でさまざまな議論が起こっている。とりわけ、女性自認の身体男性(=トランス女性)によるトイレや風呂などの女性専用スペースの利用をめぐっては、一般女性や子どもの安全に対する懸念から、慎重な議論を求める声も根強い。パートナーシップ制度など先進的な取り組みを進める東京・杉並区では、4月1日から「性の多様性が尊重される地域社会を実現するための取組の推進に関する条例(=性の多様性推進条例)」を施行。条例をめぐっては、定義が曖昧な「性自認」や「差別禁止」の文言について疑問の声も上がっている。

杉並区が作成した「性の多様性推進条例」のチラシ
杉並区が作成した「性の多様性推進条例」のチラシ

「性自認」の証明ができないことから、一般の男性による悪用の可能性も

 近年、LGBT(性的マイノリティー)の人々の権利をめぐり、各方面でさまざまな議論が起こっている。とりわけ、女性自認の身体男性(=トランス女性)によるトイレや風呂などの女性専用スペースの利用をめぐっては、一般女性や子どもの安全に対する懸念から、慎重な議論を求める声も根強い。パートナーシップ制度など先進的な取り組みを進める東京・杉並区では、4月1日から「性の多様性が尊重される地域社会を実現するための取組の推進に関する条例(=性の多様性推進条例)」を施行。条例をめぐっては、定義が曖昧な「性自認」や「差別禁止」の文言について疑問の声も上がっている。

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 杉並区性の多様性推進条例では、第4条で「性を理由とする差別等の禁止」として「何人も、性を理由として不当な差別的取扱いをすることその他の性を理由として個人の権利利益を不当に侵害する行為をしてはならない」「何人も、正当な理由なく、本人の意に反して、性的指向若しくは性自認の表明を強制し、若しくは禁止し、又は性的指向若しくは性自認を明らかにしてはならない」と明記。また、第8条では「区は、区民からの性を理由とする差別等に関する相談に的確に応ずるため、必要な体制の整備を図るものとする」「区民は、性を理由とする差別等について、区長に対し、苦情の申出をすることができる」「区長は、前項の規定により苦情の申出を受けたときは、適切かつ迅速に処理するものとする」と定められている。

 トランスジェンダー当事者へのヒアリングを行ってきた杉並区議会議員のわたなべ友貴氏は、「性自認については、自称する性の証明ができないことから一般の男性による悪用の可能性が否定できません。また、差別については、何をもって差別とするのかがはっきりしない上に、区長がそれを判断して窓口につなぐなどの対処をするとしています。差別かどうかは行政が決めるものではなく、最終的には司法によって判断されるべきもの。運用には議会の議決も必要なく、実際にどのような解釈がなされるかは不透明です」と指摘する。

「当事者の中には『今までに差別的な扱いを受けることもなく、身体の性に沿ったトイレを使って平穏に暮らしていた』『こうしてスポットが当たることで、かえって色眼鏡で見られたり、犯罪者のレッテルを貼られることになるのでは。そっとしておいてほしい』と条例に反対の声をあげている人も多い。推進派の意見のみを聞いて、そうした声は可決までなかったことにされてきました。当事者の中でも、一方の意見しか聞かずに制定したのは大きな問題だと思います」(わたなべ区議)

区議選後、区長の公式ツイッター自ら「性別非公表」の当選者をアウティング

「トランス女性の問題について意見すると、差別主義者呼ばわりされて議論ができない」と訴えるのは、市民団体「女性と子どもの権利を考えまちづくりにいかす杉並の会」代表の青谷ゆかり氏だ。青谷氏は昨年12月、所属していた市民団体「杉並コモンズ」で条例に対し問題提起を行ったところ、「トランスヘイター」「差別主義者」と激しい糾弾に遭ったという。「トランスヘイターのいる事務局は解散しろ」という声に、オンラインで参加していた岸本聡子区長が事務局解散を宣言。一方的な意見にしか耳をかさない区長の姿勢に失望した一方、「区長自身もまた、性の多様性条例の中身を本当の意味で理解してないのでは」と感じる出来事もあったという。

 区議選翌日の先月24日、岸本聡子区長の公式ツイッターアカウントは「◆48議席のうち女性は25人(52%)」と当選者の男女比率を公表。しかし、当選者の中に立候補時「性別非公表」としていた議員がいたことから、「1点、修正させていただきます。当選した方の性別ですが『男性23人、女性24人、性別非公表1人』とのことでした。以下が正しい割合となります。◆48議席のうち女性は25名(52%)→◆48議席のうち女性は24名(50%)」と再度修正の投稿を行った。

「性別非公表としていた当選者を『女性』としてカウントするのは明確なアウティング(本人の了解を得ずに性的指向や性同一性等の秘密を暴露すること)。条例で差別とされている行為にあたり、これでは区長自ら、条例を破り差別をしたことになってしまいます。また『不当な差別的取扱い』の定義として、区では『SNS等での差別的な書き込みをすること』を具体例として挙げていますが、差別の定義がはっきりしない以上、これは市民の表現の自由を侵害し萎縮させる、条例の枠を超えた規制です。女性の安全とも衝突しあう人権の問題である以上、今一度慎重な議論を望みます」(青谷氏)

 杉並区では「条例に関するQ&A」の中で、「『性自認が女性である戸籍上の男性』が女性専用エリアに立ち入った場合はどうなるのか?」という質問に対し「自らの性自認は尊重されるべきものですが、この条例の規定によって、どのような場合でも性自認が戸籍上の性別より優先されるわけではありません」「条例は、法令等による規制を上回ったり、浴場、トイレ及び更衣室等の施設の管理者の管理権を制限するものではないため、性の多様性の尊重を理由にこれまで違法であった行為の違法性がなくなることはありません」と回答。なお、「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」では成人要件や手術要件などの条件を満たしている場合に限り、戸籍の性別変更を認めている。

 また、「『性を理由とした差別等の禁止』を規定することで、女性専用エリアでの性犯罪が発生するのでは?」という質問に対しては「一般財団法人地方自治研究機構の調査結果によると、この条例のように性を理由とした差別等の禁止を規定している条例は令和5年4月現在で、東京都や埼玉県、大阪府など60以上の自治体で制定されていますが、これらの自治体において、条例の規定に起因した性犯罪が発生した事例は認められていません」としている。

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