奈良の鹿、ビニール袋の誤食で死に至るケースも ベビーカー無断放置に男性が注意喚起の訴え

大型連休中、観光地に出かけた人も多いはず。SNSでは奈良・東大寺で目にしたベビーカーの無断放置について、「信じられない光景」とつぶやいた投稿が幅広い世代から注目を集めた。国の天然記念物に指定されている「鹿」が暮らしている奈良では、「自分勝手な行動は、野生動物の命を奪うことにつながる」と投稿した奈良の男性は訴えている。

東大寺の敷地内に無断で放置されたベビーカー(左)、ビニール袋がぶら下がっている【写真:ツイッターより】
東大寺の敷地内に無断で放置されたベビーカー(左)、ビニール袋がぶら下がっている【写真:ツイッターより】

「鹿の命を守りたい」

 大型連休中、観光地に出かけた人も多いはず。SNSでは奈良・東大寺で目にしたベビーカーの無断放置について、「信じられない光景」とつぶやいた投稿が幅広い世代から注目を集めた。国の天然記念物に指定されている「鹿」が暮らしている奈良では、「自分勝手な行動は、野生動物の命を奪うことにつながる」と投稿した奈良の男性は訴えている。

 ずらりと並んだベビーカーが置かれているのは、東大寺南大門の側。投稿者が「信じられない」と声を挙げたのは、ぶら下がっている「ビニール袋」についてだ。

「鹿の命を直接的に脅かす人が関係する問題には、『交通事故』と『プラスチックゴミなどの誤食』があります。ゴミについては行政、社寺、ボランティア団体、鹿好きの個人の方々が日々、数センチの小さなビニールのかけらまで回収しようと努力しています。しかし、実際にはカバンなどからはみ出ているビニール袋やお菓子の袋のほか、人間が弁当やおにぎり、パンなどを食べている隙を見て、横に置かれていた弁当のフタや食品を包んでいたビニール袋などを鹿が食べてしまう場面に出会うことがとても多いです。ベビーカーのポケットもその一つで、鹿の顔の高さに近いため狙われやすく、観光客の方々に直接呼びかけて注意をうながすこともよくあります」。

 日頃から注意を払っているが、参道を埋め尽くすほどの人出があったというこの日。全ての人や鹿に目を配らせることは難しく、多くの鹿が誤食する可能性が高いビニール袋がぶら下がった多数のベビーカーが並んでいるのを目の当たりにした。

「持ち主がいないから注意しようもないし、勝手に動かせば犯罪になりかねない」困った男性は、4枚の写真とともにメッセージを配信。投稿は139万件もの表示回数を記録し、さまざまな声が集まった。

 ベビーカーの無断放置については「駐車場みたいに、ベビーカー置くのもお金取った方が良いと思った」「ここはベビーカー置き場ではないはず。安易な気持ちでモラルもへったくれもないですね」と怒りの声が。鹿がビニール袋を誤食する危険性については「鹿さんがビニール袋を食べるなんて(それも置いてある荷物のを)、考えたこともありませんでした」「これは私も気を付けます。奈良の鹿は地域猫のようにその辺を歩いているけど、野生動物なんですよね」など反応も集まった。

 投稿者は「今回は鹿を守りたい地元住民として、多くの人に鹿の誤食について知っていただい思いで投稿させていただきました。大変多くの方からコメントや引用リツイートもいただき感謝しております。また、その中でベビーカー放置に関する意見が大変多く世の中の関心の高さを感じました」と教えてくれた。

顔なじみになった鹿が、出産した小鹿を見せてくれたときの写真【写真:男性提供】
顔なじみになった鹿が、出産した小鹿を見せてくれたときの写真【写真:男性提供】

奈良県は設置看板で注意喚起 鹿の胃袋に詰まったゴミの公開も

 奈良市は鹿との共存について、「奈良市の鹿は人に慣れていますが、野生動物です」とし、むやみに近づいた場合、角で突かれる・突進される・蹴られる・かまれるなどの事故にあう危険性を呼びかけ。エサについては、「シバや木の葉、どんぐりなどを自力で食べているため、砂糖や油、添加物が含まれているパンやお菓子などを与えないで」と看板を設置するなどして注意を促している。「鹿せんべい」だけは唯一例外的に認められているが、お菓子やソフトクリームなどを与える外国人観光客の姿もあり、下痢をしている鹿も見受けられるという。

 鹿がビニール袋を食べてしまうのは、人間が与えたお菓子などのにおいを覚えているため。食べ物のにおいに誘われた鹿は、食品と共にビニールや紙袋などを誤食してしまうという。健康に悪影響を与えることはもちろん、死に至るケースも。注目された投稿には、85年以上鹿の保護を続ける「奈良の鹿愛護会」が昨年11月に死亡した、オスの鹿の第1胃袋から取り出した1.5キロものプラスチックごみについてまとめたブログがひも付けられている。

「奈良の鹿愛護会が、鹿の胃の中から出てきたプラスチックごみについて展示をしているほか、SNSでも呼びかけています。個人的な意見ですが、奈良公園に入ると鹿に会えたうれしさで、注意書きを見る心の余裕がなくなる方も多いかと思います。実際に声かけをした場合も『どこかに書いてあるの?』と聞かれることもよくあります。奈良にアクセスする途中の公共交通機関での掲示や、アナウンスを工夫することも、日本人だけではなく外国人観光客にも有効ですし、奈良公園周辺の駐車場や宿泊施設になどにも鹿の胃から出てきたプラゴミの写真や注意を掲示して観光客の意識を高めるのも1つの方法だと思います」と話している。

 連休中は驚くような人出だったと振り返る投稿者。鹿せんべいを与えようと、鹿を追いかけまわす人の姿も目にしたという。

「1200頭の鹿に対してその何十倍もの人が一斉に訪れるわけですから鹿も食べきれませんし、体調を壊す鹿も多数見かけます。せっかく買った鹿せんべいを全部あげたいという気持ちもとてもよく分かります。逃げ惑う鹿達を林の中まで追いかける方も多くいて困りました。子どもを喜ばせようと買った鹿せんべいを、『鹿が食べてくれなくて困った』というお話も聞きました。そんなときは、『怪我や病気や妊娠中の鹿がたくさん保護されていて、鹿せんべいの売上はその子たちのために役立てられるから、買っただけでも鹿たちのためになっているんだよ。無理にあげたらお腹壊してかわいそうだからまた今度あげようね』とお子さんに教えてあげてほしいです」と思いを込めている。

 奈良公園のそばで生まれ育った男性にとって、鹿は「かけがえのない仲間たち」と語る。3年ほど前から散歩コースにいる鹿の撮影を始めたと言い、いまでは50頭以上を識別できるようになったそう。「キーパーソンのような鹿が増えてくると、その鹿の群れの行動が見えてきます。鹿の観察を通じて学ぶことは大変多く、この様な事から観光開発による環境問題は特に気になります。景観重視の奈良公園植栽計画でどんぐりの木が大量伐採されましたが、秋から冬に鹿達の栄養源となるものだけに気にされている方も多くおられます。舗装か所の増加も鹿の足を痛める原因になるので気になります」と心配は尽きない。

 3年の間に12万枚以上の表情を収めたという撮影では、顔なじみの鹿が出産した子鹿を見せてくれたことがうれしかったと語る。

「母鹿は私の前にはいつも現れていたのに、いつ子どもを生んだのかまったく分かりませんでした。実は子どもを守るために隠していたんです。お産がうまくいかなかったのだろうか? 子鹿が亡くなってしまったのか? と心配していた所に子鹿を連れてやってきてくれました。目の前で授乳して毛づくろいをして森の中に去っていきました。忘れられないうれしい瞬間でした」と顔をほころばせた。

 奈良公園内にある鹿の保護施設では今月5日に、今年初めて生まれた子鹿が公開された。体長61センチ、体重4.1キロのオスで、4日に興福寺境内で確認されたのだという。今後、子鹿は誕生のピークを迎え、6月から一般公開もされるそう。春日大社では、神の使いともされている鹿。その命を脅かすことがないよう注意したい。

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