コロナ禍で一変したニューヨーカーの暮らし(後編) 「9・11」とは異なる不安とは

新型コロナウイルス感染者が世界最多の100万人を超えた米国で、最も深刻な状況下にあるニューヨーク。外出が規制されてから1か月以上が経った。長びく自粛生活は、市民の心理にも大きな影響を与えている。恐怖や不安に向き合うための取り組みも始まった。その最前線をリポートする。今回は後編。

 新型コロナウイルス感染者が世界最多の100万人を超えた米国で、最も深刻な状況下にあるニューヨーク。外出が規制されてから1か月以上が経った。長びく自粛生活は、市民の心理にも大きな影響を与えている。恐怖や不安に向き合うための取り組みも始まった。その最前線をリポートする。今回は後編。

午後7時に玄関先で感謝の気持ちを示す市民の姿も【写真:岡田弘太郎】
午後7時に玄関先で感謝の気持ちを示す市民の姿も【写真:岡田弘太郎】

市内の犯罪率低下の一方で市内を包む恐怖心

 筆者の住むブルックリン区は人気急騰による人口増加に伴い、一部のエリアを除き、夜間であっても人の流れが頻繁にあって危険を感じることは少なくなった。だが、外出制限が出てからはレストランやバーが閉店していることに加え、スーパーなどの店舗も通常より早く閉まり、日が暮れると人影が消える。多くの富裕層が郊外の別邸へ移り、他州で暮らす実家に避難した人も多く、観光客もいないため、静寂に包まれる街はどこか不気味で不安をかき立てられる。夜間でも人の足が途切れない光景に慣れているから余計にそう思うのかもしれない。

 最近は気候が暖かくなるにつれ、週末に公園が混雑するようになったことも市民のストレスとなっているようだ。ニューヨーク市が出した統計によると、3月29日から4月19日までの間に計1万5199件の社会的距離違反への通報があったという。さらに、コロナ感染拡大後、救急車のサイレンを聞かない日はなくなった。筆者の周りでも友人や同僚が感染したという話をよく聞くし、多くの人が恐怖を身近に感じているはずだ。米報道などによると、ニューヨーク市内の犯罪率は低下しているようだが、見えない恐怖と戦う市民の安全に対する不安は増している。

人間らしさを奪うコロナウイルス、「9・11」と異なる不安

 5月初旬時点でニューヨーク州の感染者数と死者数はピークを過ぎた可能性もあるが、外出制限は継続されており、収束には相当時間がかかりそうで出口は見えない。これまでニューヨークで最悪の出来事だった「9・11」の同時多発テロの後も救急車のサイレンが鳴り響き、戦時下のような雰囲気に包まれた。そんな経験を乗り越えたニューヨーカーにとっても、今回は受け止め方が少し違っているようだ。ニューヨーク在住25年の起業家ジョセフ・オーバーベイさん(44)は言う。

「『9・11』の時はマンハッタン区のダウンタウンに住んでいましたが、あの時よりも事態は深刻だと感じています。同時テロの後、人々は困難から立ち直ろうと一致団結しました。手を取り合って一緒に戦おうという結束力が悲劇を乗り越える力となったのです。でもパンデミックは人と人を分断し、孤独にします。人と接することに不安を感じ、公の場にいるだけでストレスを覚えてしまいます。みんなマスクを付けているから感情も見えません。

 先行きが不透明のため、次にどんなことが起きるのか、職を失うかもしれないし、家賃を支払えなくなるかもしれない。不安が次から次へと押し寄せてくる状況です。ウイルスにかかって重症化すれば、家族に会えずに生涯を閉じるかもしれない。考えただけでも恐ろしいです。このウイルスによって私たちは人間らしさを奪われてしまったように感じます」

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