黒木華、下級武士の娘役で主演 江戸時代の循環型社会に共感も…長屋暮らしは「イヤです!」

映画『せかいのおきく』(4月28日公開)は阪本順治のオリジナル脚本・監督によるモノクロ時代劇。俳優・黒木華が江戸末期を舞台に、人斬りに巻き込まれ、喉を切られ、声を失ったおきくを演じた。映画後半はせりふなし、動作、表情で、長屋で暮らす元侍の娘を見せている。

異色時代劇で話せないヒロインに挑戦した黒木華【写真:舛元清香】
異色時代劇で話せないヒロインに挑戦した黒木華【写真:舛元清香】

映画後半は動作と表情で演技「細かいところを意識しました」

 映画『せかいのおきく』(4月28日公開)は阪本順治のオリジナル脚本・監督によるモノクロ時代劇。俳優・黒木華が江戸末期を舞台に、人斬りに巻き込まれ、喉を切られ、声を失ったおきくを演じた。映画後半はせりふなし、動作、表情で、長屋で暮らす元侍の娘を見せている。(取材・文=平辻哲也)

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『せかいのおきく』は異色の時代劇と言っていい。声を失ったヒロイン、おきくと、便所の肥やしをくんで、生計を立てている青年(寛一郎)の恋物語。阪本監督作品や『舟を編む』『日日是好日』などの美術監督、原田満生氏が「江戸時代は資源をリサイクルする循環型社会だったことを知ってほしい」と企画し、当初は短編作品としてスタート。それが90分の映画になった。

「第一印象は、しゃべれない役なので、せりふを覚えなくていい」と茶目っ気たっぷりに笑う。「(企画・プロデューサー・美術の)原田さんから声を掛けていただいたことがすごくうれしくて。世界に向けた時代劇を作りたい、ということだったので、今までとは違う時代劇に参加できるんじゃないかと思ったんです」

 おきくは長屋で暮らす下級武士の娘。肥やしを集めることを生計にしている青年にひそかに恋心を抱いているが、ある日、父(佐藤浩市)を狙った人斬りに巻き込まれ、声を失ってしまう。それでも、必死に前向きに生きようと決意し、青年に思いを伝えようとする……。武家娘らしいりんとした態度、そして、時折、見せる少女のような恋心に胸が熱くなる。

「おきくは、前を向ける力がある人。監督はずっと『おきゃん(活発な娘)』だとおっしゃっていたので、チャーミングさを大事にしました。しゃべれない分、表情などの細かいところを意識しましたし、身振り手振りが現代ぽくならないようにするのが難しかったですね」と振り返る。

 作品の大きなテーマとして、江戸時代の循環型社会を扱っていることについては、「糞尿を買って、また売る。そんな職業があることを知らなかったので、すごくびっくりしました。モノを大事にすることは素晴らしいことだし、今の自分がすごく恵まれているということをあらためて実感しました。長屋での人間関係は現代の人間関係よりも濃いのかなと感じたりもしました」と話す。ただ、長屋暮らしはどうか、と聞くと、「イヤです!」と即答。「私はプライベートを大事にしたいので。夏は涼しいかもしれませんが、冬は寒そうですよね」と笑う。

 劇中では、長屋が糞尿まみれになったり、肥だめの糞を取り出したり、運び出したりするシーンもある。幸いモノクロなので、生々しさまでは感じないが、キャスト陣の演技がリアル。実際はどのような撮影だったのか。

「すくって、ボトボトと落ちていく感じがリアルでした。阪本監督と美術の原田さんがこだわって、(作り物のふんを)作っていましたから。配合が難しかったらしいです。ロッテルダム国際映画祭で上映されたときは、気持ち悪がっている方もいたそうですが、美術さんが力を入れて作ってくれたからこそ、私たちもリアルな反応ができたんだと思います」

 佐藤浩市とは父娘役、その息子・寛一郎とは恋の相手役で共演したが、「父子だなと思いましたね(笑)。寛一郎君に『恥ずかしい?』と聞いたら、『別に』と言っていましたが、浩市さんの方が照れるんじゃないですかね」

撮影での心がけを語った黒木華【写真:舛元清香】
撮影での心がけを語った黒木華【写真:舛元清香】

 現在、ヒロインを務めた横浜流星主演の映画『ヴィレッジ』(藤井道人監督)も公開中。舞台、ドラマ、映画と幅広く活躍しているが、自分は演劇人という自負がある。

「原点は舞台だと思っています。その上で事務所に所属させていただき、映像作品にも出演させていただけるようになりました。映画は日本だけじゃなく、いろんな世界の人たちに見てもらえるのがいいですよね」

 女優としての転機になったのも、映画だ。『小さいおうち』(14)でベルリン国際映画祭の最優秀女優賞(銀熊賞)を受賞した。

「初めての海外での映画祭だったので、すごく楽しかったですし、受賞できてうれしかったです。賞をいただいたときよりも、日本に帰ってきたときの反応の方が大きかったですね」

 作品中、役に入れ込むが、役を引きずることは一切ないという。

「映画は撮影してから上映されるまでに1~2年を要するので、撮影当時のことをあまりよく覚えていなくて。こうすればよかった、と反省することはありますが……」

 現場でいつも心がけているのは、楽しくやること。「この現場も楽しかったですね。後はフラットでいることも大事にしています。事前に決めていかない。その場で起きることに反応して、その場で変えられるようにすることですね」。時代劇から現代劇まで、役に応じて、変幻自在に見せる演技の秘密はここにあるのかもしれない。

□黒木華(くろき・はる)1990年3月14日、大阪府出身。2010年、NODA・MAP番外公演 『表に出ろいっ!』に娘役で出演。その後映像作品にも活躍の幅を広げ、『小さいおうち』(14)でベルリン国際映画祭の最優秀女優賞(銀熊賞)、『浅田家!』(20)で日本アカデミー賞最優秀助演女優賞を受賞。主な映画出演作に『リップヴァンウィンクルの花嫁』(16)、『日日是好日』(18)、『先生、私の隣に座っていただけませんか?』(21)、『余命10年』(22)、『イチケイのカラス』『#マンホール』(23)など。現在『ヴィレッジ』が公開中。

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